2022年に読んだ本は、合計173冊。でもまあ、絵本もあるから冊数は参考外かな。だいたいここ数年は3〜4日に1冊くらいのペースなのだけど、今回は年末年始恒例企画で、そこから「年間ベスト」の本を書いていこう。紹介する本は、僕がこのブログとは別につけてる読書記録(10点満点)の9〜10点の本ばかり。今年は部門別に紹介。絞りきれない気持ちの反映で、未練がましく「次点」も入れたよ。最後の方には2017年からの年間ベスト本もあるので、興味のある方はよかったらそちらもどうぞ。では、良いお年を!
目次
物語部門
今年読んだ物語で一番好きだったのは湯本香樹実『ポプラの秋』。ご存じ『夏の庭』の作者の作品で、この本も実はかなり以前に読んだのだけど、記憶がおぼろげだったのでペア読書用に読み直したら射抜かれた。自分は忘れっぽいし、その時々の色々な理由で良い本に上手に出会えないことがある。だから、こういう「出会い直し」はありがたいな。父を失った母に連れられ、7歳の「私」(千秋ちゃん)がポプラ荘に移り住み、そのポプラ荘のお婆さんとの交流の中で、だんだん心の傷を癒していく。枠物語の構成で外と中の物語が応答しているのも良いし、何より美しい。書くことで再生する物語とも言える。
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エッセイ部門
エッセイ部門は迷って庄野雄治・編『コーヒーと随筆』。娘のおすすめ本だが、これについては以前に書いた内容に尽きるので、そのまま引用しよう。2022年3月のベスト作品。
今月のベストは珠玉の随筆集、庄野雄治・編『コーヒーと随筆』だった。高1の娘に強烈に推薦されて読んだのだが、素晴らしい本だ。有名な文豪や芸術家の作品揃い、絵に描いたような近代文学の随筆アンソロジーなのだが、笑える系も、しみじみ系も、とにかく珠玉の作品が並ぶ。太宰治「畜犬談」からはじまり、安吾がその太宰の死後に彼が「常識人」であることを指摘する「不良少年とキリスト」で終わる構成も良い。
とにかく、作家・芸術家のアンテナの高さや面白さが存分に味わえる1冊。個人的につけている読書ノートで10点満点(滅多にない)をとった作品だった。編者の庄野雄治さんはコーヒーの焙煎を行うロースターとのことだが、素晴らしい目利きだ。この人が編んだ他の本も読んでみよう。
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文芸ノンフィクション部門
文芸ノンフィクションとして挙げたいのは、大崎善生『将棋の子』。2022年1月のベスト作品。
でも、『聖の青春』以上に印象的だったのが同じく大崎善生『将棋の子』。プロ棋士になれずに年齢制限で奨励会退会を余儀なくされる元天才少年たちのその後にフォーカスしたノンフィクション。すごく良かった! 特に「主人公」成田英二の人生が切ない。そして、英二の母・サダ子の、徹底的に子どもを応援して承認する愛の大きさにも息を呑んでしまう。一つの道に生涯をかけることのリスクの大きさと、それでも、それを柱として生きる力と、その両方を感じる。面白かった。さすがの講談社ノンフィクション賞受賞作。これは今月のベスト作品。
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ノンフィクション部門
評論や説明文も入れた広義のノンフィクションは、正直1冊に絞れない。なにせ、今年は澤田英輔・仲島ひとみ・森大徳『中高生のための文章読本』の仕事が大詰めで、相当たくさん読んで、ギリギリまで入れ替えを検討して、好きなものを選んだので…。「ベスト」に自分の本を入れるのもどうかと思うけど(笑)、あの本はまさに「ベスト盤」。本文には収録できなくて「もっと読むなら」コーナーに回した作品も、良い本揃いなんです。どうぞ皆さんお読み下さい。中高の先生方には、副教材としての採用もご検討いただけたらありがたいです!
ただ、あの本を刊行した後の一冊を挙げるなら、やはり鳥羽和久『君は君の人生の主役になれ』だろう。これは12月のベスト作品。レビューは下記エントリに詳しく書いたのでそちらをどうぞ。10代から大人まで、グサッと知的に刺さる人生のエールです。
詩歌部門
詩歌部門は、木下龍也『つむじ風、ここにあります』。この人の本は『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』(岡野大嗣さんとの共著)、『あなたのための短歌集』、『天才による凡人のための短歌教室』ときて、この第一歌集にたどり着いた。「B型の不足を叫ぶ青年が血のいれものとして僕を見る」「ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか」という歌が圧倒的に好きで、いきなり自分が対象として見られる/扱われる側に回った時の、いきなり世界の落とし穴の底に突き落とされるような感覚を強く感じる歌だ。12月の読書まとめエントリで書いた『オール合うラウンドユー』と迷ったけど、こちらにする。次点となった向坂くじら『とても小さな理解のための』、水沢なお『美しいからだよ』にも言葉の強さと美しさとわからなさの魅力を感じてて、本当は服部真里子『遠くの敵や硝子を』も素敵だった。詩歌は特に順位をつけるのが難しいっすね…。
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向坂くじら『とても小さな理解のための』
絵本部門
絵本部門の第一位は、風越の現6年生の子に教えてもらったバージニア・リー・バートン『ちいさいおうち』。ほんと素敵な絵本だったので、これは、いつか自分でも読み聞かせしたい! 絵本はもっと読みたいなあ。いい絵本がきっとたくさんあるはずだ。
この随筆集と同じくらい気に入ったのが、風越の「絵本読み聞かせプロジェクト」を支えてくれている5年生の男の子のおすすめで読んだ絵本。バージニア・リー・バートン『ちいさいおうち』だ。文明批判の本とも読めるけど、そういう強いトーンがなく、詩的に、静かに描いている。1943年にアメリカの最優秀絵本としてオールデコット賞をとったようだ。それも納得の、しみじみすばらしい絵本だった。
次点の作品
国語教育系部門
教育系部門の本もたくさんあって選びにくい。そこで、「国語系」と「その他系」に強引に分けて、国語系のベストは梅田卓夫・清水義典・服部左右一・松川由博『新作文宣言』にした。別に今年初めて読んだ本ではないのだが、もう何度も読み返している。文章を規範から解放し、自己表現としての書くことを追求する作文論の本。また、「作文」の意味自体を換骨奪胎し、あらゆる表現を許容する器として提示しているのも興味深いところだ。メモと推敲に、つまりは書くプロセスに作文の本質を見たり、「遊ぶ」ことの価値を重視したりと、自分の関心とぴったり重なってくる。僕の実践はこの本からたどる系譜にいるので、受け継いでいきたい。次点には、中高現場を離れると置き去りにされがちな、テキストをちゃんと読むことの面白さに改めて向き合わせてくれた一冊を。
次点の作品
その他教育系部門
中高の現場から離れて4年が経ち、2年連続で小学校高学年(5・6年)を受け持つようになり、自分がそこでできること、できないこと(今後の伸び代)に向き合う日々が続いている。実際のところ、これまで高校現代文教員として蓄積してきた知識のほとんどはここでは使えない。自分の武器をいったんしまって、ここで何ができるのか。新しく自分が身につけないといけないことは何か。
自分には、学力的にトップクラスの高校生をずっと教えてきたから見える景色も、そのために学んできた知識もある。そこにちゃんと自負を持ち、でもしがみつきはしないで、これからは学力的に多様な小学生に国語を教える専門家に脱皮すること。岩下修『イラスト図解 AさせたいならBと言え』は、自分がそうやって小学校の国語教師に「なっていく」上で、必要な一冊だと思う。「わかる」ことと「できる」ことの距離を思いつつ、手元に置いておきたい。レビュー記事に書いたけど、この著者が国語教師であることのありがたさを感じた本でもあった。
次点の作品
山部門
山部門は、2022年6月のベスト本だった小林百合子『山小屋の灯』。忙しくて気持ちも余裕がなかった6月を、この本を命綱にして乗り切った記憶がある。次点の『定本 黒部の山賊』もだけど、山小屋関連のエッセイを結構読み、山小屋への憧れを育てた一年でもあった。その念願かなって、いよいよこの冬休みに北八ヶ岳の高見石小屋に泊まりにいきますよー!
そんな忙しい6月を支えてくれたベスト本は、小林百合子『山小屋の灯』でした。山関係の本がついに今月のベスト本に….笑。でも、本当に素晴らしいエッセイ集だった。どのエッセイにも人がいて、温かな心の交流があって、ゆったりした時間があって、細やかな描写がある。僕にとっては、「こういう文章を書いてみたい」と思わせる見本のような文章。なお、野川かさねさんの写真も、山小屋のあたたかな瞬間を切り取る素晴らしいものだった。6月は、寝る前のわずかな時間や土日にこの本をすこしずつめくるのが楽しみだったなあ。あー、山小屋に泊まりに行きたい!
次点の作品
ちなみに、過去のベスト本は…
ちなみに、僕はこれまでどんな本をその年の「ベスト本」に選んでいるだろう。調べると、この種のエントリを年末(あるいは翌年初め)の恒例にしているのは、2017年からのようだ(2019年はうっかりなのか、忘れている)。こうやってベスト本エントリをまとめるのも、数年経つと自分の変遷をふりかえるきっかけになって面白い。個人的趣味だけど、よかったらどうぞ。
2017年
2018年
2019年
ベスト本の記事なし。