[読書]永田和宏『歌に私は泣くだらう』

歌人の河野裕子の乳がんの発見から最後の日までを、夫であり歌人の永田和宏が綴った記録。


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驚いたことがあった。 歌が、こんなふうな形で日常生活の中に入り込んでいる。陳腐な言い方だけど、呼吸をするように歌を詠んでいるんだ。癌の告知を受けてから、手術、回復、癌の再発、精神的な危機、そして癌の進行と最後の日を迎えるまで。どんなことも歌にする日々の繰り返し。河野裕子の絶唱として知られる「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」も、こうした日々の積み重ねの上にできていたのか、と納得した気持ち。

また、大学2年生の時に出会った最愛の妻が先立つことがほぼわかってから、夫・永田和宏がどうやって「その日」を迎えようとしたのか、その日々も胸を打つものがあった。泣くんだ。こんなに大泣きに。いまの自分には想像もできないけど、そういうものなのだろうか。永田さんはいつも泣いていた。きっと今も泣いていて、この手記も、死ぬ妻だけでなくそれを迎える自分を物語にすることでなんとか悲しみを消化しようという試みなのだろう。

この本を閉じてから、夫婦って何だろうなあと考えざるを得なかった。全くの他人である男女が結べる関係ってどんなだろう。強いのか、弱いのか。その関係には、どんなはじまりと終わりがあるのか。なにごとにも終わりは来る。僕と妻は、どんな形で別れるのだろうか。

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