[読書]ベストは絵本の『橋の上で』。文学系が中心だった2023年2月の読書。

3月最初の更新は、2023年2月の読書。快調に読めた1月が終わると、さっそく読書量が減ってしまった(笑)うーん。実際余力のなかった月だから仕方ないと思いつつ、もう少し読んでいきたいなあ。読んだ本は10冊、ギリギリ2桁でした。

目次

今月のベストは絵本『橋の上で』

いきなり意外な路線だけど、今月のベスト本は絵本でした。『夏の庭』『ポプラの秋』などで知られる湯本香樹実が原作の絵本、『橋の上で』だった。これはいいです。僕好み。この人の作品は「死」や「再生」を扱ったものが多いけど、この絵本はこれまでの作品でもかなり好きなほう。

橋の上から川を眺めながら自殺の想像をする少年に、側にいた変なおじさんが、誰にもある川と、その水が流れ込む湖の話をする。後半の、一気に展開するページがあざやかだ。辛い日常を生きる希望がそこにある。湯本香樹実、良い本を作るなあ。中学生に読み聞かせしたい。

ところで、湯本さんが文を、酒井駒子さんが絵を担当するのは、個人的にやはり大好きな『くまとやまねこ』と同じコンビである。あの絵本が好きな人は、『橋の上で』もきっと気にいるはずだ。

ベストを僅差で逃したのが野口芳宏『名著復刻 作文で鍛える』。今月唯一読んだ国語教育系の本。実現可能で理に適った作文教育の提案である。詳しくは下記エントリをご覧いただきたい。

[読書]これはさすがの必読書。野口芳宏『名著復刻・作文で鍛える』

2023.02.23

文学部門はソン・ウォンピョン『アーモンド』

ソン・ウォンピョン『アーモンド』は超有名どころながら途中で挫折していた一冊。忙しさとか、タイミングでそういうことがよくある。脳の中で感情をつかさどる部位「扁桃体」に欠陥があり、感情や恐怖を感じない少年が語り手になるという設定が、話題だった一冊だ。今回は晴れて最後まで通読できて、終盤の次の文章が圧倒的に美しかった。読んでよかった一冊。

遠ければ遠いでできることはないと言って背を向け、近ければ近いで恐怖と不安があまりにも大きいと言って誰も立ち上がらなかった。ほとんどの人が、感じても行動せず、共感すると言いながら簡単に忘れた。
感じる、共感するというけれど、僕が思うに、それは本物ではなかった。

僕はそんなふうに生きたくはなかった。

風越の子にもおすすめしたいけど、残念ながら僕の受け持ちの小学生には早すぎるかな。中学生の読める子だったら。

短歌の魅力を輝かせる文章たち。『短歌のガチャポン』

詩、短歌、俳句などの短詩系文学は、短くて優れた作品を発掘し、それに言葉を添える優れた読み手がいると、読んでいて一気に面白くなる。穂村弘さんはそういう歌人だ。これまでも短歌の入門書を何冊か読んできたが、穂村弘『短歌のガチャポン』も面白かった。これまでも知っていて、何が良いのかピンときていなかった大口玲子「形容詞過去教へむとルーシーに「さびしかった」と二度言わせたり」の魅力を掘り起こしてくれた本だ。他の好きな短歌もいくつかあげておく。どれも添えられた短文がいい。

「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて(山川藍)

ラジオ体操の帰りにけんかしてけんかし終えてまだ8時半(伊舎堂仁)

さうかこの軍服が見えてゐないか王さまはうれしくなりました(平井弘)

はじめからゆうがたみたいな日のおわり近づきたくてココアを入れる(本田瑞穂)

あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ(永井陽子)

昔の浅間山も登場、田淵行男『黄色いテント』

今月読んだ登山本では、軽井沢在住の作家が書いた登山エッセイ、唯川恵『バックをザックに持ち替えて』も馴染みある山々が出てきてよかったけど、ベストは田淵行男『黄色いテント』だ。山岳写真家であり、高山蝶の蒐集家でもあった田淵さんのエッセイで、初版は1985年。早いものでは戦前の体験談も載っている。生き生きと目の前の出来事を活写する文体で、古いエッセイなのに読んでいて引き込まれる。とりわけ、まだ釜山の山頂の火口まで入ることができた時代の浅間山について書いた「浅間山回想」「浅間にかける四つの橋」は、浅間山に興味を抱く人間には必読。これはとても面白い読書だった。

2月の読書はこんな感じ。気がつくと物語に絵本に詩歌、エッセイ….と、意識したわけじゃないけど、文学系が中心の月だったみたい。3月は中旬から少し余裕もできるはずだから、もう少し色々と読めるといいなあ。

 

 

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