1週間ほど前のことになるが、山川晃史先生のオンライン学習会に出席した。今回のテーマはやはり漢字学習。風越の子には「あすこまは漢字が好きすぎる」と言われることもあるが、それは子どもの無知ゆえにそう見えるだけであって、はっきり言って僕の漢字指導は底が浅い。山川先生の学習会に出会ってからようやく本腰を入れて考え始めた程度である。今日はその底を少しでも深くするためのエントリ。
目次
自分の漢字学習指導の歩み
前任校では「生徒の能力の高さにものを言わせて『やってね』と言うだけ」だった漢字学習だが、風越ではそうもいかない。そこから始まる僕の漢字学習指導の歩みは、ほぼ下記エントリに書いている。
これをあらためて読むと、今後の指針らしきものは既に大体出ていることに驚く。えらいぞ、過去の自分(笑) このエントリをもとにもう少し具体的な案を、一ヶ月後の自分のために書いておこう。合わせて読んでおきたい参考文献は、以下の通り。特に、『教育科学国語教育』2月号は山川さんがお薦めしていたので読んでみたが、栗林育雄さん、冨安慎吾さん、卯月啓子さん、山本純人さん、笹原宏之さんらが寄稿されていて、やはり一読の価値があった(ちなみに音読指導の特集もある)。
「漢字クイズ」から「漢字ゲーム」へ
まずは僕の(5・6年生の)授業の課題は、授業冒頭の「漢字クイズ」を、少なくとも一部分は「漢字ゲーム」に転換することだ。今年、授業冒頭に漢字クイズを出すようにした(下記エントリ参照)のは間違いなく大きな改善だった。子どもたちの漢字への興味は、去年までに比べてかなり高まったと思う。
しかし、やはり「クイズ」であって「ゲーム」でない。山川先生は、漢字クイズと漢字ゲームの違いを次のように整理されていた。
漢字クイズ | 漢字ゲーム | |
一つ | 正解の数 | 複数 |
必ずあるわけではない | 勝ち負け | あり |
ない | 戦略性・偶然性 | あり |
低い | 語彙指導との親和性 | 高い |
特に大きいのは「戦略性・偶然性」だと思う。戦略性や偶然性があるからこそ、漢字知識の少ない子でも楽しめて、その前向きな気持ちの中で漢字を覚えていける。「知っているか/知らないか」だけが基軸の漢字クイズでは、結局のところ「もとから漢字力のある子だけが楽しめる」だけである。
だから、来年度は漢字クイズも出題するけれども(そしてこれは、ある時期から子どもによる出題に完全移行できるはず)、3回に1回くらいの割合では漢字ゲームも混ぜていきたい。漢字ゲームは時間がかかるのが欠点だが、5分くらいでできる小さなものを積み重ねていきたい。
ゴールが「音の変換テスト」ではない学習をしたい…
さて、山川先生はこれまでも、漢字学習のゴールが「書き取り」になっていることを何度も批判されている(下記エントリ参照)。
そして、僕もゴールがただの「書き取り」にならない漢字学習をしたい…と一方で思いつつ、僕の漢字テストは結局のところ「書き取り」であることを正直に告白しないといけない。
理由はいくつかある。最終ゴールが書き取りでないにせよ、書き取りはその途中の段階としてできた方が良いのではないかと思っていること。その理由でもあるが、高校入試で、少なくとも小学校の漢字書き取りは必要なこと。時間の少なさ(標準時数より国語の授業数が少ない風越では、漢字にさける時間はほぼない)。市販のワークブックを使わずに漢字指導をしようとすると負荷が大きすぎ、そのワークブックが書き取り重視であること。
この辺のジレンマは、おそらく山川先生の漢字学習会に出ている他の先生たちも抱えているはずだ。でも、どうにかしたいなと思う。だって、今のままでは、カタカナを漢字に変換するだけで、語彙の力に結びついているかというと、不十分な気がするからだ。ブレイクスルーはどこにあるだろうか?
学年ごとに漢字学習の見通しを持つ
それに関連しては、風越の国語科として、学年ごとに漢字学習の見通しを持ったカリキュラムを考えていく必要がある。例えば、こんな見通しはどうだろうか。
小1〜2 | 象形文字などの基本的な漢字や生活に身近な漢字を覚える時期。漢字の成り立ちについて知る。 |
小3〜4 | 部首について知り、簡単な漢字を組み合わせることで複雑な漢字ができることを学ぶ時期。漢和辞典を使いはじめる。 |
小5〜6 | 形声文字を中心に、複雑な漢字が意符と音符の組み合わせに分解できることを理解し、その知識を使って意味や音を類推できることを学ぶ時期。漢和辞典を使う。 |
中学校 | 小学生までの知識を用いてより難しい常用漢字の音や意味を理解する。ただの書き取りではなく、語彙学習としての漢字学習をする時期。 |
こういう見通しを持って各学年の漢字指導をやっていけば、いつまでも「音の再生テストの繰り返し」にはならないのではないか。例えば、小学校までは音の再生テストをするが、中学校になったらただの書き取りではない語彙重視のテストに切り替えられないだろうか。
例えば、下記エントリに出てくる「トザン」を「登山」と書かせるのではなく「やまにのぼる」を「登山」と書かせるテストなどは、単なる音の変換テストから意味と結びつけるテストへの第一歩になりそうだ。他には、どんなテストが考えられるだろうか。
これは中学を担当しているりんちゃん(甲斐利恵子先生)との相談が必要だが、少なくとも中学生段階では、ただの書き取りを脱して、語彙指導にもなる漢字テストを一緒に考えていけたらいいと思う。山川先生という先達がいるので、なんとかなるんじゃないかなー。
というわけで、来年度の漢字学習の課題は、個人的には「今年の漢字クイズに加えて漢字ゲームを導入すること」、学校としては「9年間の見通しを持って漢字学習のカリキュラムを考え、特に中学校ではただの書き取りではない漢字テストの形式を考えること」あたりにありそう。どちらもできたら嬉しいけど、どこまでできるかな。でもまあ、やっていきたい。
3/7追記:山川先生からの反応
澤田英輔さん(あすこまさん)が、先週の学習会をふまえて、来年度の「漢字学習指導目標」について、書いてくださっている。前回も感じたが、澤田さんは、わたしのいくつかの提案・説明のうち、いくつかの問題を「自分の問題意識」に引き付けて、たいへんわかりやすくまとめてくださる。わたしとしても、ほんとうにありがたい。
学習会でもお話ししたが、結局は、「時間」の問題であり、「優先順位」の問題であるということだ。
澤田さんは、来年度の授業について、以下のようにいう。
まずは僕の(5・6年生の)授業の課題は、授業冒頭の「漢字クイズ」を、少なくとも一部分は「漢字ゲーム」に転換することだ。
この「クイズ」から「ゲーム」への転換は、おおざっぱに言えば「漢字への興味づけ」から「語彙指導としての漢字指導」への転換である。それをわたしが話した「クイズとゲームのちがい」から導き出されたのであろう。
澤田さんも「時間」を気にされている。5分でできるゲームはないか、と。「単漢字音読み」や「熟語探し」「熟語づくり」ならば、やり方しだいではあるが、1問、5分~7分でできるはず。
また、澤田さんは「漢字学習の見通しを持ったカリキュラムを考えていく必要」性を述べる。
同感である。学習会でも多くの方が「漢字の成り立ち」について話されていたが、「そもそも漢字がどのようにして出来上がってきたのか」ということを教師自身が学ぶべきだと思うのである。また、国語辞典や漢字辞典・漢和辞典の活用もカリキュラムに位置づけることが大切だと考える。
さらに、以下のような来年度の「目標」も書かれている。
「ただの書き取りではない漢字テストの形式を考えること」
まさに、「語彙指導」を意識した「漢字テスト」である。
これについては、これまでにもいくつか提案してきた。
例にある「やまにのぼる」→「登山」も有効な方法だし、
「〇来の夢」「ゴミの処〇をする」など「よみを記さない漢字の書き取りテスト」もそうだ。
また、学習会で例に挙げた大学共通テストの漢字問題も大いに参考になる。
小学校中学年くらいまでに学習する「基本的な漢字」の中にも、いくつかの「意味」がある漢字がある。いつも例に出す「着」【3年】。訓読みは「きる」と「つく」。まったく別の意味である。熟語として「着」が使われたとき、どちらの意味で用いられているのか、それを考えることはたいせつな学習だと思う。
また、逆に「音読みしかない漢字」も意外に多い。例えば「才」【2年】「佐」【4年】教科書てどのように出ているのか確認していないが、「才」=生まれつき備わっている能力「佐」=たすける、という「意味」を「天才」「才能」や「補佐」という熟語とセットで「覚える」ことが大切なんだと思う。
最初にもどって、「時間」のこと。限られた時間の中で、そもそも「漢字指導」にどれだけの時間が割けるのか、割こうとするのか。指導者の「観」であろう。
また、同じ漢字指導であっても、「新出漢字」をノートに練習させるのと「語彙指導としての漢字ゲーム」を行うのとでは、「おなじくらい授業時間を使うのなら」どちらがより適切なのか、これも指導者の「観」が問われることになろう。
澤田さんのブログのまとめから、今回も多くのことを考えさせられた。ありがとうございます。