都会のトム&ソーヤ、怪盗クイーン、名探偵夢水清志郎….風越の子にも人気のヒット作を生み出す児童書作家・はやみねかおる。彼が書いた「文章の書き方」本を読んでみた。
3部じたての構成が素敵
この本の構成は全部で以下の3つに分かれている。文章を書くのが苦手な主人公の文岡健くんが不思議な猫のマ・ダナイに教えられて、徐々に文章が上手くなっていく…というストーリー仕立てだ。
- 「何を書いていいかわからない」を一瞬で解決する方法
- 「うまい文章」をスラスラ書く方法
- 誰でも必ず小説が1冊書ける方法
このうち第1章は、うまい下手はさておいて、とにかく一度文章を書いてしまうことを念頭に置いた章。ここでは「うまい文章を書こうとするから書けなくなる」と心理面のハードルを下げることを第一に、まずは宿題の作文を書ききってしまうことを目指す。ついで、いわゆる「文章の書き方」本のスタンダードに近いのが第2章。ここでは、五感を使って書くトレーニング、一文を短く区切る技術、読点の打ち方…など、実用的な文章の書き方の話が並ぶ。そして、第3章が、きっとこの本を手に取る子供たちが一番期待している?物語の書き方についての章だ。この構成がいいなあと思う。第2章だけで本にしてしまうこともできるのだけど、第1章と第3章があることが、この本を良い本にしている。
「書けない」から「書ける」へのプロセス
僕がこの本を好きなのは、「書く人がない人なんていない」という信念に裏打ちされつつ、でも一番難しい「書けない」子の場合からスタートしていること。ここはとても教育的な姿勢で、元小学校の先生だった経験が生きているのかもしれない。
何を書けばいいかわからないという、答えが出ないような問題を自分に出し、答えが見つからないから書けないと、理由づけしてしまう。そうすると、本当に書けなくなってしまう。まずは、単純に考えて、書ける答えを見つけよう。(p29)
こうして、「まず書けることを書く」姿勢を重視しながら、「読書が大切」「毎日書くことが大切」というトレーニングの原則にも、しっかり言及する。
読書は、文章を書くための基本。たくさん読めば読むほど、自分の中に文章が溜まってくる。そして、それは、文章を書くときの燃料になる。(p34)
毎日書き続けることは、とても重要。続けているうちに、ご飯を食べたりお風呂に入ったりするのと同じように、とても当たり前のことに思えてくる。また、「日記に書くことはないか?」という目で周りを見ることで、気づかなかったことに気づいたり、見えていなかったことが見えてきたりする。自然に、頭の中に文章が浮かぶようになる。(p44)
筆者はこのように、毎日書くことと読書をすすめながら、その中で、好きな本を書き写そうという提案もする。一文一義とか、五感を使った文章の書き方とか、読点の打ち方とかは、そのあとだ。
この構成がいい。「文章の書き方」本を、結果として産出される文章にだけ注目すれば、「一文一義」から書き始めてもいいはず(そういう本もいっぱいある)。でも、そうしない。「書けない」書き手が、「まず下手でもいいから書いてしまう」「書けることを探す」「書けることを溜める」という順序を経て、ようやく「実際の文章の書き方」を学んでいく。そんな書き手の成長のプロセスが、文岡健くんというキャラクターで具現化されている。
いい本だなあ。どんな「文章の書き方」本が好きかって、結局は読み手の作文教育観に関わるところがある。作文教育への関心もあって、いろいろな「文章の書き方」本を読んでいるけど、「書けない人はいない」と表明しつつ、「書けない子の成長」にフォーカスしたこのスタンスはかなり好き。風越の子にも読んでもらいたい本。