[読書]構成から表現へという指針が明確な書き方本。小池陽慈『14歳からの文章術』

小池陽慈さんの新刊『一生ものの「発信力」をつける 14歳からの文章術』を読んだ。これまでも「文章の書き方」本を何冊か読んできたけど、それぞれ、著者が何を「書くこと」の柱だと考えているかが伺えて、なかなか面白い。この本についても簡単にメモを残しておきたい。

構成が先、表現は後

この本の構成は「第1部:構成編」「第2部:表現編」に分かれている。1部と2部で関連する箇所もあるのだけど、「まずはすべての回を順番通りに読み進めてください」という注記が各所にあって、筆者としてはこの順番を通してほしいという強い姿勢を貫いている。一文や、せいぜい一段落の構成から始める「書き方」本もあるので、まずは文章の構成が文章術の柱であり、個々の文章の読みやすさの技術はその次、という姿勢が前面に出ている本だ。

これは、筆者の小池さんが現代文や小論文指導を主としていることを考えれば自然だし、また、論理的な文章の書き方本としては妥当な進め方だろう。変に表現の話を各所に混ぜるよりも、第1部、第2部とすっぱり分けているのは潔い。優先順位のつけ方がはっきりしている。

また、この本全体は小池さんと他の登場人物の対話形式で進んでいく。これは、同じ笠間書院の犬塚美輪『14歳からの読解力教室』と対になる企画だから、というのもあるかもしれない。高校生から80代まで、様々なバリエーションの書き手や話題を用意しているのも特徴だ。

参考になる口語文法の取り扱い

この本で個人的に一番参考になったのは口語文法の取り扱いだった。この本の特徴は、文章の書き方を教える上で有益な文法とそうでない文法に分けていることだ。例えば、主語・述語と主部・述部の違いは無視して、どちらも「主語」「述語」として扱う。また、接続詞と接続語はまとめて接続表現と書く。一方で、「単文」「重文」「複文」については、文章の読みやすさという観点から丁寧に解説する。取り出し指導ではどうしても退屈にならざるを得ない口語文法について、実際に文章を書く上で有益なものとそうでないものを区別して軽重をつけるやり方は、僕たち現場教員にとっても参考になる。僕もどういう風に口語文法を取り扱うかは悩みの種なので、こういう風に、書くことの具体的な場面に寄せて文法を教えられたら、と思った。

また、「話題の提示→論拠→主張」という型自体はそう珍しいものではないけれど、それを提示しつつ、論拠の具体性にこそ書き手のオリジナリティがあらわれることや、具体例を示した後にそれを抽象化するまとめの一文を入れることを強調している点も有益だ。他にも表現するための語彙やそのための読書を大切にしている点も見習いたいと思った。

この本で書かれていないこと

一方で、この本では「書きたいことをどう見つけるか」という話題には一切触れていない。それぞれ年齢も経験にも差があるこの本のキャラクターも、みんな「書きたいことがある」という点で共通しているのだ。これは、僕の主戦場である学校での書くことの指導とはだいぶ環境が異なるし、「そもそも書くことが見つからない」人はこの本の想定読者ではないことになる。もちろん、最後の方ではネタ探しとしての読書の大切さを説いているのだけど…。

そういう点が気になるのは、書くことの指導者としての僕が、書くことの魅力をDiscovery Writing(自分の考えを発見する営みとしての書くこと)においているからだと思う。ただ、そういう「書くことを探す」部分は本になりにくい気もするし、僕が読んで印象に残っているのは、ナタリー・ゴールドバーグ『書けるひとになる 魂の文章術』や、ビル・ローバック『人生の物語を書きたいあなたへ』かな。

他にも、レトリックについても「ここぞという箇所以外では使用を避ける」という指針があるのだが、これも実際の指導の場面では、まずレトリックを教える経験や使いすぎる経験があって、その次に出てくる方針だろうなという気もする。とはいえ、こういうプロセスもなかなか紙面だけで伝えるのは難しいところだろう。

全体として、書きたいことや書く課題がすでにある人にとっては、それをどう構成して伝えるかについて、シンプルな原則を教えてくれる本である。書きたいことのある人や、文章指導に関心のある方は、ぜひご一読を。

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