『教員のためのリフレクション・ワークブック』を読んだ。教員が自らの実践を振り返り省察するためのツールとして開発されたもので、教員の研修やワークショップなどで使うテキストとして想定されているワークブックだ。
教員のコンピテンシーのリスト
この本のメインとなるのは、第2部にあたる教員のコンピテンシーのリストである。コンピテンシーとは、ここでは「教員の専門性を構成する要素の一つ一つ」という意味で使われていて、
- 成長しようとする力
- 対人関係の力
- 教育者としての力
- 学びの場をつくる力
- 組織する力
- 同僚・仲間と協働する力
- 学校を取り巻く人々と協働する力
の7つの「力」のカテゴリーの下に、合計で56のコンピテンシーがリスト化されている。
まず、このボリュームがすごい。サブタイトルに「往還する理論と実践」とあるが、教師教育の理論に基づき、それを実際のワークショップなどでブラッシュアップしながら、このリストにたどり着いたのだろう。読むだけで勉強になる。決してページ数の多い本ではないのだけど、情報量は多い。
ただそれだけに、この本をチェックリストのように扱うと、「こんなにできないよ〜」という「重い」本になってしまう。また、それは著者たちの望むところでもない。実際、リストに入る前の部分で、次のように書かれているのだ。
本書のコンピテンシー・リストは、個人の資質能力を査定するために用いることを想定しているものではありません。そうではなく、「教員の専門性とはどのようなものだろう」と仲間とともに考えるための、機会を与えるツールとなることを意図して作成したものです。専門性を項目化・リスト化することができるのか、あるいは弊害はないのか、という問いは常に私たちと共にありますが、リストがあることによって、専門性について考えることができるというメリットが大きいと考え、作成しました。
とはいえ、リストとしては使わないとは言いつつも、リスト化されていることの意味はとっても大きい。何より、ここにある56もの項目、一人では絶対に思いつかない。「こんなのも教員の能力の一つになりうるのか」と思わされることも多く、僕の場合「学校を取り巻く人々と協働する力」のようにカテゴリごと全く意識のなかったものもあって、こうしたリストを通じて自分の興味関心の偏りに気づくことができる。
どんな使い方をする?
だから、リストの一つ一つを順番に「真面目に」リフレクションするような本ではないと思うし、むしろ「こんなたくさん無理じゃんねー」と同僚と言いながら、この本を材料に気づいたことを語る、というのがいい気がする。また、自分と同僚との関心や強みの違いをこれを通じて把握する、ということもできそうだ。あるいは、本当に教員にこれらのコンピテンシーが必要なのか、56もあるコンピテンシーの中で本当に大事なのはどれなのか、そういう議論をする目的でも使えると思う。
そういう意味では、リストそのものよりも、「ミクロ/メゾ/マクロ」のレベルという3つのレベルのリフレクションを意識させる第1部や、第2部冒頭のリストの使い方についての説明がとても大きな意味を持っている。もし自分がこの本を同僚と読むなら、この部分を一緒に読みながら「この本の使い方」を考えるところから始めるのが良いのかも、と思った。
補足:ビーバーのセリフが良いよ
なお、この本に時々出てくるイラストのビーバーのセリフが好き。お説教めいたところもあるんだけど、
校長先生って同僚? 失敗したら誰が責任をとるの? わからない生徒がわかっている生徒に自分のわからなさを「教える」ことも大切。 目の前の生徒をちゃんと見てる?
みたいなことをつぶやいていて、時々ちょっとハッとするのだ。ご覧あれ。