[読書]書くことで世界をつくるための作家ノート。Ralph Fletcher, A Writer’s Notebook

軽井沢風越学園の同僚のとっくん(片岡さん)と一緒に、Ralph FletcherのA Writer’s Notebookを読んだ。留学して帰国してからほとんど英語に触れてなくて、つい英語の本に手をのばすのがおっくうだったけど、一緒に読む人がいてくれたおかげもあって読めました。すごーく良い本です! そうそう、書くことの本質(という言葉を安易に使うと頭悪そうだけど…)って、こういうことだよな、と思った1冊。易しい英語なので、英語が得意ではない人もがんばれば読めるはず。ぜひ!

目次

書くことを、いつも身近に

この本を要約するだけなら簡単だ。「常に書こう」に尽きる。筆者は作家ノートを持ち歩き、何でもメモすることを薦める。どんなことを書くというのだろう? この本では、作家ノートの使い方が次のような章立てに沿って紹介されている。

  1. 忘れられない物語、ストーリーを書く
  2. 驚いたこと、問いを書く
  3. 物事のディティールを書く
  4. 種を育てる
  5. 見たものを五感を使って書く(絵を描く)
  6. 会話を書く
  7. リストを書く
  8. 記憶していることを書いて、いつか読み直す
  9. 自分の心の癒やしとして書く
  10. 触発された文章や名言などをメモする
  11. 読み直して、宝石を見つけ出す
  12. 書くことについて書く

「作家ノート」は、いつでもどこでも持ち歩くもの。何か気づいたことを書き込み、自分の文章のネタにするように育てる場所。そして、作家ノートに書くことを通じて、僕たちは世界をキャッチするのだ。何でも書く。世界を留める。手書きメモはもちろん、絵を描いてもいい、写真を貼ってもいい、新聞記事をスクラップしてもいい。この本が示す作家ノートの使い方はとても自由で、書くことをいつも身近にしてくれる。教員や指導者向けではなく、子ども向けに書かれているのもいい。収録されたノートや作品の例にも、子どもの文章がたくさんある。

作家ノート&書くことについての名言の宝庫!

そして、この本は作家ノートや書くことについての名言の宝庫でもある。僕は個人的に読み書きに関する名言をノートに収集しているのだけど(この本でも紹介されていた作家ノートの使い方!)、線を引いた言葉がたくさんあった。

  • 作家ノートを持つことは、あなたが世界に対してより活き活きと関わることにつながる。(p30)
  • 作家ノートは、時計のベルのようなものだ。それは、あなたを目覚めさせ、あなたの内と外の世界でいま起きていることに、注意を向かわせてくれる。(p35)
  • 作家ノートは、鍵のかかった自分だけの部屋である。(p61)
  • 作家ノートを注意深く読み直すのだ。そのまま使えるような完璧に磨かれた小さな宝石があることを期待してはいけない。そんなものはないからだ。変わりに、自分の言葉を付け足して磨けばよくなるかもしれない、可能性のあるものを探そう。(p77)
  • 書くことは、私たちの中にある、自分でも知らなかった扉を開いてくれる。書くことは、私たちが世界を探索するのを助けてくれるのだ。内にも外にも。(p83)
  • 書くことは私の避難場所だ。私は、自分を自由にするために書く。(p86)
  • 作家ノートは、朝露の露をとっておく場所だ。太陽が沈む場所でもある。浜辺で海のかなたを見るあなたに吹き付ける風だ。作家ノートは、あなたが飼い犬と遊ぶ場所でもあり、虹の上を歩く夢を見る場所でもある。良い感情や悪い感情が夜をすごす場所でもあるのだ。(p86)

こういう言葉、自分でも子どもたちに実感を持って伝えられるようになりたい。そのためには、もっと作家ノートを使わないとなとおいもう。僕はコクヨの測量野帳を作家ノートとして使っているのだけど、この本で紹介されたような日常的な使い方にはまだ遠い。やってみたいな。

書くことは、内にも外にも世界を広げること。

こういうノートの使い方が示すのは、書くことは、自分の内または外にある世界を見つめ直し、つくりだす方法だということ。僕が常々大事にしたいと思っているDiscovery Writing、書くことで世界と自分を発見し、創っていく素晴らしさが、この作家ノートにはギュッとつまっている。大切なことは、素晴らしい質の作品を書き上げることではなく、作品を完成させることですらなく、世界を認識して創り出す方法としての書くことを、子どもたちがたっぷり経験すること。その意味で、書くことの真の現場はこのノートにこそある。

「作家ノート」という名称は考えもの…

この本を読みながら、同僚のとっくんと、writer’s notebookの翻訳としての「作家ノート」の名称が良くないよね、という話をした。この「作家ノート」と、writing workshopまたはwriter’s workshopの訳語である「作家の時間」が結びつくと、どうしても「作家ノートは作家の時間に使うもの」という印象が優先されてしまう。でも、そうではないのだ。この本のwriter’s notebookとは、作家の時間が始まってからようやく開いて「書きたいことリスト」を書くのではなく、常日頃持ち歩いて、「書き手の目で世界を見る」構えをつくるためのツールなのである。だから「メモ帳」「ネタ帳」「雑記帳」くらいのほうが、よほどこのノートにふさわしい名称だ。「作家の時間」という訳語も職業作家を連想させるので、「作家の時間」と「作家ノート」は、できれば他の訳語があったほうが良いのではと思う。

Discovery Writingの具体的指針となる本

著者のラルフ・フレッチャーは、ライティング&リーディング・ワークショップ関連本では日本で最初に翻訳された『ライティング・ワークショップ』の著者でもある(翻訳者は、僕と一緒に『イン・ザ・ミドル』を翻訳した小坂さんと吉田さん)。

『ライティング・ワークショップ』が具体的な実践を書いた本だとすれば、A Writer’s Notebookは、作家ノートという切り口を通じて、フレッチャーの書くことについての考え方を書いた本とも言える。そして、僕はこの考え方がとても好き。僕と同様にDiscovery Writingの考えになじむ人にとっては、この本はその具体的指針となるはずである。

 

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