[読書]今月のベストは大崎善生のノンフィクション。2022年1月に読んだ本。

年末に「2021年に読んで印象に残った本」というエントリ(下記参照)を書いたら、書いてて楽しかったので、今年は毎月の読書記録エントリを復活させます! でも、続くかなあ…まあ無理せず、続くところまで。無理なら隔月にしても(笑) 2月もはじまって5日たっちゃったけど、今日は2022年に1月に読んだ本から。なお、これまでの読書エントリで書いた本は除いておきます。

[読書]ヤングアダルトから登山本まで。2021年に読んで印象に残った本。

2021.12.31
お正月明けに今年最初に登ったのは「平尾富士」とも呼ばれる佐久の平尾山。1時間半ほどで登れ、山頂からは広大な佐久平も、反対方向には浅間山も一望できる良い山です(写真は山頂から見る浅間山)。冬はこういう低山もいいですなあ…

目次

胸を打つ、大崎善生のノンフィクション2作

今さら読みました、大崎善生の『聖の青春』と『将棋の子』。「恋愛小説作家」のイメージだったのだけど、もともと『将棋世界』の編集長だったのですね…。風越にも将棋好きな子がいることもあって、読んでみました。

デビュー作の大崎善生『聖の青春』は、羽生世代の棋士の中でも異彩を放ち、29歳で癌で亡くなった村山聖を主人公にしたノンフィクション。腎臓病を抱えながら類まれな集中力と記憶力でA級まで上り詰め、羽生とも互角に戦った村山の、将棋へのひたむきさと純粋さという魅力が詰まった一冊。聖を支えた師匠の森の、最初は父親代わり、次第に少しずつ距離をおいていくあり方もまた良い。

でも、『聖の青春』以上に印象的だったのが同じく大崎善生『将棋の子』。プロ棋士になれずに年齢制限で奨励会退会を余儀なくされる元天才少年たちのその後にフォーカスしたノンフィクション。すごく良かった! 特に「主人公」成田英二の人生が切ない。そして、英二の母・サダ子の、徹底的に子どもを応援して承認する愛の大きさにも息を呑んでしまう。一つの道に生涯をかけることのリスクの大きさと、それでも、それを柱として生きる力と、その両方を感じる。面白かった。さすがの講談社ノンフィクション賞受賞作。これは今月のベスト作品。

ジュニア向けの新書からはこの2冊

岩波ジュニア新書の藤田正勝『はじめての哲学』は、自己、生と死、善、真理、言語など、哲学的なトピックについての入門書。「予備知識は不要です」という帯の言葉どおり、できるだけ難しい言葉を使わずに書かれていて、高校生なら十分に読めそう。高校現代文の入門的な本としても良い気がする。国語の先生方、ぜひどうぞ。

ちくまプリマー新書の新刊・石田光規 『「人それぞれ」がさみしい』は、現代の息苦しさを「人それぞれ」という観点から分析した現代社会論。「人それぞれ」を尊重する「多様」な社会が、相手を否定しないがゆえに本音を出せず、実際にある格差が自己責任の名のもとに温存され、マイクロ・アグレッションやキャンセル・カルチャーを恐れて萎縮する一方で、本音が言える関係を求めてネットでの分断化された集団に取り込まれていく…という現代の抱える問題と、それに対する筆者の提言がなされている。これはいい本だなあ。大平健『やさしさの精神病理』、菅野仁『友だち幻想』『ジンメル つながりの哲学』、土井隆義『友だち地獄』などの、中高生でも読める社会論の系譜に連なる作品だと思う。

 

ザ・青春小説!中田永一『くちびるに歌を』

お正月休みもあって20冊以上読んでいた今月、でも読書記録を見直すと、物語は4冊しか読んでないな…と判明。その中での一冊は中田永一『くちびるに歌を』。とても有名な本で、読みたいって思ってたんだよね。長崎県五島列島の島の合唱部が、Nコンに参加する物語。それぞれ家族に対する屈折した思いを抱える女子生徒・仲村ナズナと、男子生徒・桑原サトルが交互に語り手をつとめながら、周囲の合唱部員が作り出す大きな流れにまきこまれる形で物語が展開する。この2人の物語がつながるラストが美しかった。一言で言うと、ザ・青春小説! 2月からは、風越の高学年で流行している辻村深月の作品をもっと読みたいなー。

今月出会った句集と歌集も良かった…!

お正月に読んだ、詩人であり俳人の山本淳子さんの俳句とエッセー集、山本淳子『山ガール』が良かった。ちょうど登山に興味を持ったいいタイミングで読めたのもあるけど(笑)、「キャベツMキャベツLまで深呼吸」「冬日向フェアトレードのチョコ齧る」「春愁やライスペーパー透かし見る」など、はっとする俳句、好きな俳句がたくさんあった。また、俳句と短いエッセイが一緒になっている文章も素敵だった。こういう、肩の力が抜けたユーモアのある文章って素敵。書けるようになりたいな。

短歌では、服部真里子『遠くの敵や硝子を』は、世界観がとにかくカッコいい。ときおり文語を織り交ぜながら、言葉で一つの世界を屹立させている。「ああ雪を待っているだけわたしたち宇宙にヘッドフォンをかぶせて」「雪は人を訪れる 人が川沿いの美術館をおとずれるのに似て」「玉ねぎをむけば春の日暮れやすい手のひらの影も逃げてしまうよ」「地下鉄のホームに風を浴びながら遠くの敵や硝子を愛す」…気になる歌をいくつか書き出してみる。なぜそれが良いのか、きちんと語れる言葉を持ちたい。とにかく、立ち姿が凜としている言葉ばかりだ。

1月はお正月休みもあったので、読書ライフも充実していたなあ…。20冊くらい読んで、さらに、実は一番読んでいるのは『山と渓谷』誌だったりするもの(笑) 1月中旬から学校が本格的に始まって読書ペースも落ちているので、2月はこんなふうにいかないはず。でもまあ、新しい出会いを楽しみにしていきましょう!

 

この記事のシェアはこちらからどうぞ!