[読書]古典と現代だけでなく、学問的知見と現場をつなぐ一冊。諏訪園純「<今・ここ>に効く源氏物語のつぶやき」

ツイッターで国語科教員さん @coda_1984 はじめ、何人かの方がお勧めしていたので読みました。一言で言うと、現代文も古典も、国語科教員ならとても勉強になる一冊です。そして、これで1200円は安い!

目次

源氏物語の「つぶやき」と今をつなぐ

この本は、タイトル通り源氏物語の登場人物の「つぶやき」を取り上げ、それについて現代の文脈から著者がコメントする、という形式で進んでいます。まさに源氏物語と「今・ここ」を繋げる本。著者は有名な東海中高の先生ですが、教室でも工夫して古典文学と生徒たちの「今・ここ」を繋げようと努力されているんだろうな、と、そういう先生の姿が目に浮かぶ本でもあります。

また、この「繋げ方」に癖があって面白い。源氏の登場人物の台詞から素直に結びつくものもないではないのだけど、「ちなみに」「ところで」のような接続語の後にちょっと捻った展開が待っていて、現状、源氏物語そのものにあまり興味を持っていない僕としては、そちらの方を楽しく読んでいました。「ちなみに」以降の展開でこの著者が引用する本には僕が読んだものも少なくないのですけど、「いやあ、古典もやりつつ、よくここまで手を伸ばして読んでいるなあ」と感心しました。

勤務校での担当が現代文専門の僕は、「いま刊行される評論も押さえつつ古文もやるなんて、人間わざじゃないでしょ、無理無理〜」と思っている面もあるのですけど、この諏訪園さんは現代文も古文も両方きちんと勉強されていて、だからこそできる、両者を「繋げる」作業をやっている。これには素直に敬服します。

年齢つきなのも面白い

また、小さな工夫ですけど、言及される源氏物語の登場人物に全部その時の年齢がついているんですね。源氏物語素人のぼくとしては、これだけで登場人物が生き生きとしてくるようで、面白かった。「光源氏は17歳でこんな大人びたことを喋ってるのか」と驚く一方で、「女三宮(14か15)のもとで過ごす源氏(40)の夢に紫の上が現れたため、源氏は早朝に慌てて紫の上(32)のもとへ帰った」と記述されているのに笑ったり。こういう工夫が、やはり源氏物語と僕たちの「いま」を繋げるのに、一役買っています。

勉強になる「ノート」

また、国語教員向けのお勧めポイントが「ノート」という囲み記事。「源氏物語のジャンル」「国語=現国+古典、という概念」「源氏物語を書いたのは誰か」「登場人物の気持ちは読めるのか」「紫式部像の形成」「語り手とは何か」といった興味深いタイトルのもと、著者が豊富な学識を十分に生かしてこれまでの学問的知見をまとめてくれています。例えば「語り手とは何か」という議論でも、近代文学における語り手の議論だけでなく、日本の古典文学における語り手の現れ方が手際よくまとめられていて、これは素直に勉強になりました。

とにかく勉強になる本

古典と生徒の「今・ここ」をどう繋げるかという姿勢に加え、現代文と古典にまたがる丁寧な文献案内としての性格も併せ持つ本書。これは、大学の先生にも書けないし、勉強しない高校の先生にも書けない。学問的知見を勉強しつつ現場にいる著者だからこそ書ける本でしょう。とにかく、諏訪園純さんの博識ぶりに頭が下がる一冊でした。アマゾンだと中古価格がえらく高いけど、同じ著者の「文学テクストをめぐる心の表象」も読んでみたいな。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!