自分の人生がぎゅっと詰まった本。『君の物語が君らしく 自分をつくるライティング入門』うらばなし

僕の新刊『君の物語が君らしく 自分をつくるライティング入門』が、一般書店ではこの週末頃に並び始めるそう。初の単著ということもあってか、自分の人生がぎゅっと詰まった本。今日は発売直前のこの本についての、超自己満足の雑談エントリを書いちゃいます!

目次

紆余曲折のライティング・プロセスでした…

本の中でもふれたけど、実はこの本、依頼を受けてから完成までに3年かかった。当時は別の本(『中高生のための文章読本」)で忙しかったのもあるけど、最初に目次案を作ったあとで、急ブレーキがかかって書けない(放置した)時期が長く続いたのだ。直接の原因は、「実はいまこんな本を考えてるんですよ」と当時の同僚に雑談で言ったときに、「書くことの苦手な子って、そもそもそういう本を読まないんじゃないの?」と言われたこと。同僚も冗談半分だったし、僕も「たしかに〜」とその時は笑い話みたいな感じで流したのだけど、実はそれから「この本のオーディエンスは…届ける方法は…」ということを真剣に考えてしまって、パタっと書けなくなったのだ。

今思うと、この時の自分が襲われたのは、『君の物語が君らしく』の中でも触れた、想定する読者や目的を意識することによって、書くことが窮屈になり、書く楽しさや書き手としての自分を見失う現象(本書p13-14あたり)そのものだった。また、「助言を聞かない勇気を持つ」(p89)こともできなかった。こうして僕は、この本を考えることからしばらく遠ざかってしまった。ほんと、ライティング・プロセスを乗り切るのは難しいものだと思う。

風越学園の子どもたちのおかげ

この状況から僕を救ってくれたのは、風越学園の生徒たちだった。ひとつは、2023年の4月に、卒業生のナナミさんのエッセイをふと思い出して、この本の終章に持ってこよう、と決めたこと。それは、彼女が授業とは関係なく書いて、何かの拍子で見せてくれた文章だった。国語の授業とは全く無関係に、「この経験や感情を忘れるまいと直感的にそう思った」彼女が、帰り道の出来事を自分のために切り取ったエッセイだった(p104-109)。ああ、あのエッセイをこの本のゴールにしよう。彼女の姿勢そのものが、僕の伝えたい書くことの魅力の象徴だ。そう思って、行き先が定まった。

そして、一番大きな推進力になったのは、同じ年の6月、「作家の時間」の授業の2冊目の作品集のタイトルとして、小6のチヒナさんが『君の物語が君らしく』という題を提案してくれたことだった。実はそれまでは、僕の本の仮タイトルは『書くことの準備体操』だった(この言葉は、帯の背の言葉として残っている)。でも、この『君の物語が君らしく』という言葉に出会って「このタイトルなら書けそう!」という勇気をもらった。そこで、彼女に許可を得て、そのタイトルを自分の本のタイトルにもらったというわけ。

ゴールのイメージと、走り出す勇気。その二つを手に入れて、それからは一気にこの本を書き上げた。特に、タイトルの推進力は大きくて、良いタイトルとの出会いがこれほどまで書き手の背中を押すのかと、自分自身も驚くライティング・プロセスだった。

他にも、本書には風越の子のノートや作品に登場してもらっている。本書は決して「授業記録」とか「教師用の実践書」ではないのだが、そういう意味でも、「作家の時間」を受け持った風越学園の子たちのおかげで書けた本だと思う。

自分の人生がぎゅっと詰まった一冊

風越学園での授業だけではない。この本には、小学生の自分が経験した「2種類の書く経験」にはじまって、書くことについて学んだこと、参考にした実践、その都度書き留めてきた言葉、留学先のエクセター大学で出会った「書き手の権利10か条」など、自分がこれまで書くことについて学んできたことが盛り込まれている。いわば、自分の人生がぎゅっと詰まった本。僕はこの本の終章に「書くことについての僕自身の物語を書いてきた」(p103)と書いたが、それはただの比喩ではないのだ。

書くことについての引用句たち

なかでも本書では、章扉を中心に、僕がその都度集めてきた「書くことについての言葉」がいくつか紹介されている。たくさんの候補の中から、「どれがぴったりくるだろう」と、校了の直前まで何度も候補を入れ替えた。結果できあがった最初の引用句は、そのまま本書の要約としても使えそうなキングの言葉だ。

下手な文章の根っこには、たいてい不安がある。自分の楽しみのために書くなら、不安を覚えることはあまりない。

スティーヴン・キング『書くことについて』170頁

これらの引用句は、ジュニア向けにこだわらず、作文指導者を含める大人に手にとってほしい新旧の本から多く引用した。どれも素晴らしい本だが、スティーヴン・キング『書くことについて』梅田卓夫・清水良典・服部左右一・松川由博『新作文宣言』は、特にここでも紹介しておきたい。

ドキドキしてます、はじめての単著

そんなふうにして完成した本書。僕にとっては、主に関わった本としては3冊目だが、最初の単著となる。思えば、小坂敦子さんと吉田新一郎さんとの共訳、ナンシー・アトウェル『イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室』も、森大徳さんや仲島ひとみさんとの共編『中高生のための文章読本』も、「いいと思っているものを紹介する」本だった。

「いいに決まってる!」くらいの確信があって翻訳したり編集したりしたこれら2冊と違って、本書『君の物語が君らしく』は、個人的な思い入れはたっぷりあっても、読み手にとっていいかどうかがわからない。実際、2ページ目で早々に断っているように、この本を読んでもうまい文章が書けるようにはならない。そんなんで大丈夫なのだろうか。だから、正直これまでよりもドキドキ、そわそわしているかな。

最初の「レビュー」?

そんな自分を慮ってくれたのか、この本を一番最初に読んでくれたのは、家族だった。著者用の完成見本を手にとった高3長女が、昨日、こんな感想をLINEで送ってくれたのだ。身内なのでレビューとは言えないけど、嬉しかったので、本人の許可を得て転載する。

読んだよー、なんか、感動した。

やっぱり私の考え方ってすごい影響されてるんだろうなって再認識できるくらいには、私が思ってたこととか考えていたことと似たことが書いてあって面白かった。

けど、それ以上に書くことに対して考えすぎてるところもいっぱいあるんだろうなって思った。私は多分人より書くことが身近だけど、そんな私でも肩張りすぎてるのかもなって思ったから、ほんとに誰が読んでも楽しめる本なんだろうなーと思う。書くことに何も思ってない人に関してはわからないけど、書くことが苦手な人と得意な人には刺さる本なんじゃないかな。

出版おめでとうございます。いろんな人に読んでもらえるといいね。私も一冊ほしい。

….いい子や….! 最初のスランプ以来、ターゲットを明確に定めて書くことはやめたのだけど、「書くことが苦手な人と得意な人に刺さる本」、本当にそうなればいいなあと思う。

この本は、書くことについて自分が学んできたこと、自分が書きたいことを書きました。でも本は、手にとって読んでくれる人がいてはじめて、本として完成するのです。どうぞ、僕の大事な新刊を本にしてやってください。どうぞよろしくお願いします。

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