[読書]釘原直樹『人はなぜ集団になると怠けるのか』

タイトル買いの一冊。人が集団になった時に、意識的かどうかに関わらず「手抜き」が発生してしまい、ベストのパフォーマンスを出せない現象「社会的手抜き」について、さまざまな社会的手抜きを紹介し、なぜそうなるのかを多様な心理学の実験結果から分析していく本。とてもおもしろかった。


 

この本では、「社会的手抜き」の発生要因にはさまざまな可能性があることが指摘されているが(文化差やジェンダー差なども含む)、ここではあまり詳しくは書かずに、ざっくりと要点だけまとめたい。

(1)評価可能性の低さ
集団に対する貢献度を他者から評価される評価可能性が低いと、社会的手抜きをしやすい。
(2)努力の不要性
他の人たちが優秀であるために自分の努力が集団全体の結果にほとんど影響せず、しかも他の人たちと同じ報酬を得ることができると、社会的手抜きをしやすい。
(3)社会的手抜きの同調
いったん社会的手抜きが発生すると、それが集団の暗黙的な規範になり、その影響が拡大しやすい。


ああ、わかるわかる…。そんな現象ばかりですね(^_^;)

この本の面白いところは、ブレインストーミング/相撲/八百長/カンニング/選挙といった、さまざまな社会的手抜きを実験によって分析していくところなんだけど、ここでは割愛。学習関連で言うと、

複雑でまだ身についていない課題を人前で学習すると、社会的抑制が働いて学習効率が低下する。一方、簡単で身についた課題であれば、集団で行ったほうが社会的促進が働いてパフォーマンスが向上する。


という話がちょっと注目だった。運動競技の新しい技術を身につけたり外国語を学習したりする場合、最初は一人で学習するほうが学習効率が高いことが、多くの研究によって紹介されているそうだ(p202)。ところが、学校は集団学習が不可避の場である。さてどうするか、という話ですね…。

最後の章では、社会的手抜きの対策も書かれている。これも自分にとって参考になるところを。

(1)罰は逆効果
報酬と罰の関係は非対称で、長期的に見て罰は悪影響しか与えない(それでも罰が効果的に見えるのは平均への回帰の誤判断による。)。

(2)継続的なフィードバックを行う
努力の効果を可視化することで、作業者の自己効力感(自分が仕事をコントロールできているという感覚)を高めて、動機付けを維持する。

(3)集団の目標を明示する
集団成員の準拠枠を、他者のパフォーマンスではなく集団目標にする。要はゴールをはっきり決めて「他の人の働きぶり」で仕事ぶりを変えないようにさせる。

(4)個人のパフォーマンスの評価可能性を高める
監視テクノロジーの利用も考えられるが、プライバシーの問題がある。それよりは集団の中での個人の役割を明確にし、道具性認知(自分の努力が集団の役に立っているという感覚)を高める方が良い。アメリカの会社や教育現場ではこれを応用した「逐次投入テクニック」という技法も使われている(p226)。

これ見ると、集団の目標を明示した上で個人のパフォーマンスの評価可能性を高めてるジグソー学習ってやっぱりよく出来てるんだなと思う。自分でもグループ学習をする時にもこれを参考にしてチェックしてみよう。

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