[読書]ベストは読書研究の紹介本。「登山ブーム」もひと段落の2024年10月の読書

2024年の7月後半〜9月は、とにかく登山の本をたくさん読んだ期間だった。それはそれで満足していたけど、さすがにそろそろ仕事の本も読まなきゃなあと思って、バランスを整えたのが10月の読書。では、いってみましょう。

目次

今月ベストは『読書効果の科学』!

今月のベストは文句なく、猪原敬介『読書効果の科学』。すでに別エントリでも紹介済みなので詳しくは触れないけど、これは読書教育に関わるすべての人が読むべき本でしょう。

[読書]読書の「穏やかな効果」に基づく読書教育への提言とは?猪原敬介『読書効果の科学』

2024.10.19

関連して、学習に関する本を3冊

今月は、上記の本に加えて「学習」に関する示唆に富む本を読むことができた。まず鳥羽和久『「学び」がわからなくなった本』は、主に「学び」の現場で奮闘されている人たちを著者が訪問した対談集なのだが、それぞれの対談が、お互いに共鳴しているところと不協和音になっているところがあって面白い。対談相手の中には、「勉強」派の人もいれば、そうでない人もいる。学校教育が面白いという人もいればダメだという人もいる。とても幅の広い対談集で、そのどちらにも鳥羽さんがうなずきながら対談が進んでいく。それは決して著者が相手に話を合わせているのではなく、対談相手の思想の違いを超えて皆が共有している認識、学ぶことが、自分を変えていくことであり、それは決して心地よいだけのものではないという認識があるからではないか、と感じた。

また、本書は個別の章で線を引きたくなる言葉も多い。それをいちいちここでは紹介しないが、特に古賀及子さんの章は、作文教育に関心のある身としてもとても参考になった。古賀さんの日記、読んでみよう。

学習論として紹介したいもう一冊は、為末大『熟達論』。熟達のプロセスを「遊」(不規則さを身につける、面白い、変化する)→「型」(観察したり、行為を繰り返したりして丸呑みする。それによって、最も基本的な行為が無意識にできるようになる)→「観」(部分、関係、構造がわかる、漠然としていた解像度があがる)→「心」(中心をつかみ、そこを起点にして自在になる、ここを押さえればうまくいくポイントを見つける、脱力する)→「空」(言語からの解放、意識からの解放)という五段階のプロセスで捉える熟達論だ。

この本は正直難しかった。それは、自分の側にこの本の主張を体感して納得するだけの経験値が足りていないからではないかと思う。「心」あたりまではなんとか「自分におきかえるとこういうことかな?」と思えなくもないのだけど、「空」になると、まったく何が何やら…という感じ。でも、為末さんはこの章をもっとも没頭して書いたようだから、僕には見えていない世界が見えているんだろうなあ。また10年後くらいに読んだら、どんなふうに思うのだろうなと思う。

学習論の本ではないが、この流れで書くと、中本順也『おうちでできる子どもの国語力の伸ばし方』は家庭でできる国語力向上のヒントが満載の本である。すでに下記エントリにあるので、詳細は省く。

[読書]親子でのコミュニケーションを楽しんで。中本順也『おうちでできる子どもの国語力の伸ばし方』

2024.10.14

小説・エッセイからはこの3冊を。

ついで、小説やエッセイから。まず特筆したいのは小川洋子『からだの美』だ。これは本当に読んでうっとりしてしまうエッセイ集だ。特に、イチローの肩に注目した「外野手の肩」がいい。外野手という孤独なポジションを守る、均整の取れた外野手の筋肉の美しさの表現としておみごと。他にも、文楽人形遣いの腕、棋士の中指、ハードル選手の足の裏など、印象に残るエッセイが多い。なかでも、「カタツムリの殻」はユニーク。どうしたら、カタツムリの殻でこんな美しい文章が書けるのかな。ぜひ読んでみて。

長谷川まりる『杉森くんを殺すには』は、「杉森くんを殺すことにしたわたしは、とりあえずミトさんに報告の電話を入れた」という衝撃的な書き出しがとにかく秀逸。その後の展開はあえて書かないが、あるところでがらっと変わる展開に驚く。最後の解説は、とても有用だけど、そうとしか読めなくなってしまう危険性が大きいので、少なくとも後回しにしたほうがいい。

浅野皓生『責任』はいわゆる警察小説の体裁をとったミステリーだ。「冤罪などありえない」と直感しつつも、語り手がある同期から少しずつ捜査を進める中で、ちょっとずつ違和感が募り、過去の真相にたどり着く第一章。そこから一気に語り手が代わり、別の形で物語の真実が追われる形の第二章。この二つの章の組み合わせの妙が面白い。著者の中高時代に僕が国語担当教員としてライティング・ワークショップをやっていた縁もあってお送りいただいたのだけど、そういう個人的経緯を抜きに、作品を貫くテーマに考えさせられるものがあり、何よりシンプルに読んで面白いミステリーだ。

今月の山の本は、このマンガをおすすめしたい!

さて、二ヶ月連続で読書記録の大半を占めた山関連の本だが、10月は冊数としては急減した。というのも、地元の公共図書館でリサイクル図書の配布があって、そこで雑誌『山と渓谷』の2021年の号を8冊ほど手に入れてしまったからである。この雑誌をぱらぱらめくっていたら10月はすぎてしまった。

そんな中で、マンガの空木哲生『山を渡る』の最新刊7巻はとても印象に残った。このマンガは、三多摩大学山岳部の部活動を描いた登山部マンガ。一般登山だけでなくクライミングや沢登りもやる先輩部員3名と、大学に入って登山をはじめた初心者新入生3名のやりとりが面白く、特に夏の北アルプス大縦走合宿を扱っている第6巻と第7巻は、新入生の成長が著しい。山の景色の描写も美しくて、読み応えたっぷりだ。ぜひ読んでみて。

というわけで、だいぶ本業の本にも戻ってきた10月。小説もエッセイも読んだし、バランスはここ数ヶ月では一番良かったかも。自分の好みや読みたい気持ちを大事にしつつ、でも時々メタ認知してバランスをとって、そんな感じでこれからも読書していきたいな。

 

 

 

 

 

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