最近の僕は体調の問題や家族と過ごす時間を大切にしたいこともあって、週末の勉強会などもすっかりご無沙汰している。でも、先日、久しぶりに他教科・学種の方達と交流する機会があった。その時に感じた大事なことを忘れないうちにメモしたい。
それは、ナンシー・アトウェルがIn the Middleのカンファランスで言う「譲り渡す」(hand over)ことが、僕にはやっぱり全然できていなくて、教室の中でもっと生徒から学ばないといけないと思った、という話だ。
目次
部下の育て方とカンファランスの話
まず印象に残ったのが、ビジネスの世界で活躍されてから、今は教育畑に移った方の話。部下を育てる時の姿勢として「こっちの持っている道具が1から100まであるとして、それを必要な時にこれもあると差し出してあげると、スコーン!といく」(大略)というお話をされていて、これがライティング/リーディング・ワークショップのカンファランスと同じ姿勢だなあと思った。カンファランスでも、教師は生徒の様子を見て、その時に何をするのが最善なのかを判断し、必要な知識を譲りわたす。アトウェルの言うhand overとはこのことである。
「どうしてそういう風に道具を教えられるかというと、こっちも長年その道具を使っているからですよ」と、その方がおっしゃっていたのもカンファランスと同じだ。適切に道具=知識を与えるには、教師もまた、知識を知った上で、それを使っていなくてはいけない。
「それは、職人の技ですよね」
同様に、とても印象深かったのが、ある美術の先生とのやりとり。その先生は、こんなことを言っていた。「子どもが「いいこと考えた!」と思ったときに何を提供できるか、それは、職人技ですよね」。
例えば、「いいこと考えた!」とアイデアが浮かんだ子どもが、それを実現すべく釘を打とうとする。でもそれが難しくてうまくできない。どうしても釘が曲がってしまう。そのときを狙って、釘を打つやり方を教える。それが美術教師の仕事だという。聞いて、うーんと唸ってしまった。
まず「いいこと考えた!」を生むには、子どものアイデアを触発するような環境がないといけない。そして、子どもが本気になっている瞬間を見定めて、必要な時に、必要なものを譲り渡す。
この「必要な時に」は単純に「出来ていない時」というわけではない。例えば、作文を読んで「読点の打ち方がおかしい」という欠陥を発見したらすぐにそれを指摘すればいい、ということではない。そんなことをしたら、「教えることだらけ」になって、結局教えたことが定着しなくなる。だから、「いくつかある課題の中で、いまこの生徒にが教えるべきことは何か」とか「表面に見えるこの問題の背後に何があるのか」まで考えて、最善の一手を打つ必要がある。
保育士さんたちの振り返りの衝撃
他には、出会った保育士さん数名の保育の「振り返り」を読ませていただいて、これにも驚かされた。児童のエピソードを本当に良く見ていて、そのあり方を受け止めて、人として関わっている。自分にはこんな振り返り、書けないなあ。それ以前に、こういう風に一人一人を見ていない、受け止めていないなあ、と思う。
「譲り渡し」をするために必要な二つの訓練
「必要なもの」を譲り渡すには、教師の側に二つの訓練が必要だ。第一に、その「必要なもの」を教師の頭の中に入れる訓練。様々な知識をきちんと整理して教師の頭の中の「道具箱」に入ってないと、必要な時にその知識=道具をすぐに取り出すことができない。また、自分でもその道具を日々使って、使い方に習熟していないといけない。これは、授業外で本を読み、また自分でも書いてみることで、熟達できる部分だろう。
一方で、「手渡す」には、相手への手渡し方も考える必要がある。よく生徒を観察して、今は何を伝えるべきか(あるいは伝えないべきか)、どういう言い方をすれば伝わるのか、デモンストレーションをした方がいいのかどうか…本当は、その都度、そういう判断をしたい。でも、今の僕にはできていないし、何より、先日出会った美術の先生や保育士さんたちのような、「生徒を観察する目」が自分に欠けているのではないかと思う。ここを鍛えたいなあ。授業を通じて、自分の「観察する目」を養っていきたい。
でも、正直なところ、自分一人では難しい。いいのは、自分のカンファランスの仕方を人に見てもらって、助言してもらい、改善すること。そう思って、さっそく意中の人に「授業を見にきてくれませんか?」と依頼したところ、快諾していただけた。よし、今年はこのカンファランスを頑張ろうと思う。
授業の中から学ばなきゃ
「必要なときに、必要なものを相手に譲り渡す」。言うのは簡単だけど、実行は難しい。美術の先生が言うように、それはまさに職人の技なのだ。職人になるには、授業外で本を読むだけでは足りなくて、授業の中で、生徒とのやりとりの中から学ばないといけない。今年のライティング/リーディング・ワークショップ、特に新しいことはしないけど、一時間一時間のカンファランスの時間を、丁寧に取り組んでいきたいと思った。頑張ろう!