ずっと前に書きかけになったままのエントリに、「ライティング・ワークショップって結局何なの?」というエントリがある。
目次
WW/RW便り
http://wwletter.blogspot.co.uk
ライティング・ワークショップ(作家の時間)
https://sites.google.com/site/writingworkshopjp/
しかし、ここに来てようやく「アウトプットして現段階の自分の理解を確認する」「専門の方に読んでもらって修正点を教えてもらう」程度には知識が増えてきたので、上記のブログとはやや異なる切り口で、これから不定期連載の形で何回かに分けて書いていこうと思う。ただし、ライティング・ワークショップではなく、もう少し視野を広げてプロセス・アプローチについて書いてみたい。
ライティング・ワークショップとプロセス・アプローチ
さて、最初に混乱を招かないように、この連載内の用語の定義をしておこう。ものすごくざっくり言うと、プロセス・アプローチとは「プロダクト(書かれた作文)」よりも「プロセス(書く過程)」に重点を置く作文教育や作文研究のアプローチである。一方、ライティング・ワークショップとは、本来の語義から言えば、「書くことについてのワークショップ」なら何でもライティング・ワークショップと言えてしまう(句会だってライティング・ワークショップである)のだけど、作文教育の文脈での「ライティング・ワークショップ」は、「プロセス・アプローチを採用した作文の授業の一形態」を指す。プロセス・アプローチは「作文教育への取り組み方の基本スタンス」、ライティング・ワークショップは、「そのスタンスを採用した具体的な授業」という関係だ。
なぜこんな面倒な区別をするかというと、
- プロセス・アプローチは、一授業法であるライティング・ワークショップよりも広い概念で、授業法だけでなく研究のアプローチも含むから。
- そのせいもあって、作文教育研究の世界では「プロセス・アプローチ」の方が一般的だから。
- プロセス・アプローチを採用してはいても、吉田・小坂訳本『ライティング・ワークショップ』とは異なる形態の授業(例えば書くプロセスの一部分にだけ焦点を当てた授業など)もあり得るから。
である。この連載では、授業形式であるライティング・ワークショップだけでなく、その背景にある研究の動向なども扱うので、基本的にはライティング・ワークショップよりも広い概念であるプロセス・アプローチについて書くことにする。
今後の予定:色々な特徴を持つプロセス・アプローチ
プロセス・アプローチは、歴史的には1970年代のアメリカで始まったとされている。そして、プロセス・アプローチはその広がった時の事情もあって、単に「プロセスに注目する」だけにとどまらない、いくつかの特徴や傾向を持っている。次回からの不定期連載は、自分の知識の整理を主目的に、作文教育におけるプロセス・アプローチの特徴・歴史・批判についてまとめてみたい。専門の研究者の方、もし間違いがあったらご指摘ください。
大切な注記:日本の作文教育の話はしません
このエントリはあくまで英語圏の作文教育研究の話。作文教育に関心のある方ならご存知かもしれないが、プロセス・アプローチに似た観点は、日本にも大正期以降存在している。たとえば大正自由教育における綴方教育や、その後の生活綴方教育と、プロセス・アプローチにはどんな共通点や相違点があるのだろうか。これは個人的には興味深いテーマで、いつか取り組んでみたい問いではある。単純に同一直線上では語れないものの、素人考えでは部分的には「日本の作文教育の方が先を行っているんじゃ?」と思う点もある(僕は日本の作文教育の蓄積ってすごいなと思っている派である)。しかし、これについて語るにはなにぶん僕の勉強が足りていない。というわけで今回の不定期連載では、日本の作文教育については一切語らず、アメリカやイギリスのプロセス・アプローチについてのみ書こうと思う。決して日本の作文教育を無視しているわけではないのだけど、僕の力量不足ということでご容赦願いたい。