基本は「次を書いているか」どうか。作文へのフィードバックについて考えたこと。

先日、研修のお仕事で佐久までいらした詩人の向坂くじらさんと夕食をご一緒する機会があり、詩のワークショップや国語教室「ことぱ舎」について色々とお話をうかがうことができた。その中で印象に残った言葉を手がかりに、「評価」について考えたことを、つらつらとメモしておく。相変わらず読者向けには整理されていない。

写真は、10月1日の早朝に車坂峠(黒斑山登山口)から撮った八ヶ岳の写真。左の方には富士山も姿を見せる素晴らしい朝の一コマでした。そして、15日に発売された共編著『中高生のための文章読本』も、現在大きな書店で店頭に並んでいると思います。アマゾンにもありますので、ぜひ手におとりください!

目次

「次を書いてほしい」

印象に残った言葉とは、詩にどのようにフィードバックするかという話題の時におっしゃっていた、「次を書いてほしいと思っているんですよね」という一言だ。これはシンプルで良い言葉だなあと思った。詩と文章全般では違う点もあるかもしれないが「次」を書かないことには、そのジャンルへの習熟も上達も何もないのは同じだ。次を書いているかどうか。これは、評価の言葉がフィードバックとして有効かどうかを見るとても良い基準なのではないか。僕たち学校教員は児童生徒に対しては(評価権を持つという意味で)明確な権力者であり、書くことを「強制」させることができる。強制力を働かせられる強みもある一方で、指導事項に目が囚われ、子どもたちが「次を書きたい」気持ちになるかどうかを、ついおろそかにしてしまうこともある。

僕がこの言葉が印象に残ったのは、当然、最近の自分のフィードバックに反省があったからだ。詳しくは下記エントリに書いた。優れたところやプロセスについての文章によるコメントと、絞った改善点の指摘を書いて渡していたのだが、絞ったはずの改善点の指摘も、その後の原稿で修正されていなかった、という件だ。「絞った」つもりが絞れていなかった、子どもたちからすると不必要な、あるいは対応が難しいフィードバックをしてしまった。その反省は今もけっこう心に残っている。

もっとも、向坂さんは改善点を指摘しないわけではない。むしろ、褒めるに終始しないように意識していらっしゃるようだ。「まだ書き切っていないんじゃないか」と思える時には、それを言葉にする。単に褒めることだけが「次を書きたい」に繋がるとは思っていないとのことである。

実践するのが難しい!「求められるまで与えない」という真理。

2022.10.03

添削、するかしないか、どこまでするか?

添削による改善点の指摘については、びっしり添削するアトウェルから、ほぼ全くしない人まで、優れた教師の間でもさまざまな立場があり、答えは一つではない。

ちなみに、「ほぼ全くしない」一人は石川晋さんである。9月に授業見学をした時に読んだ彼の子どもたちの作品集は句読点ミスから誤字からたくさんあったので、「いまはライティング・ワークショップを始めたばかりの時期だからこのままなのはわかるけど、どのくらいになったら修正点を指摘する段階になったと判断するのか」と聞いたところ、「僕がこれまで教えてきた生徒でその段階に達したことはついになかった」と笑っていた。

その代わり彼は個々の作品の優れたところを書いた批評文を全員の前で読み上げているそうで、早速それを真似してみたら、ふだん賑やかな風越の子たちもわりと真剣に聞き入っているふうで、拍手が起きることもあり、なかなか良かった。このやり方を続けても良いかもしれないな。

写真絵本作家・小寺さんのフィードバックのあり方

先週には、国語ではないが、僕がメイン担当をしていたテーマプロジェクト「森の再発見プロジェクト」のアウトプットである「森の写真絵本」発表会があった。このテーマプロジェクトでゲスト講師を勤めてくださった写真家・写真絵本作家の小寺卓矢さんが、北海道からわざわざ駆けつけてくださり、一人ひとりの作品に丁寧にフィードバックをくれた、その姿も印象的だった。

小寺さんは、子どもたちが作った写真絵本を、作者一人ひとりの前で開き、読み聞かせをして、ページをめくるごとに驚いたり、楽しんだりしていた。それから、この写真の構図のどこがいいか、この言葉がどうして印象的か、丁寧に子どもたちに語っていた。プロの写真絵本作家が、自分の作った写真絵本をこのように楽しみ、その良さを愛でてくれる。そりゃあ子どもたちも嬉しかっただろう。他の子のフィードバックの様子を見て心待ちにしていた子も多かった。「見せるの嫌だ」と言っていた子まで、照れくさそうだった。

実は僕は東京時代にこの小寺さんのワークショップに子連れで参加したことがあり、その時に当時小3だった息子(現在中2)の作品へのコメントが印象に残っていた(詳しくは下記エントリを)。だからこそ今回のテーマプロジェクトでも小寺さんにご協力をお願いしたのだが、本当に感謝してもしきれない。

「世界で1冊の写真絵本を創る!」ワークショップに参加してきた

2017.07.16

基本は「次を書いているか」どうか

こんなふうに、9月後半から10月前半は、色々な人の「フィードバックのあり方」に触れることで、自分のフィードバックについて考える機会を得た。自分の思考の癖として、子どもたちに力をつけたという意識が強いのと、「この子にはこの課題を」と一人一人見定めて次のチャレンジを渡そうとしがちなところがある。でも、今回、それが多くの子どもにとって過負荷になっていることがわかったのだから、そこは改善していきたい。チャレンジを手渡すのは本当にカンファランス中に一部の子に限って、あとは良いところの承認や面白がることで終わってみるのも良いかもしれない。いずれにせよ、フィードバックの基本は「次を書いているかどうか」(書きたいと思っているかどうか)は大切な指針だ。胸に留めておきたい。

そして、これは言葉の正しい意味で「自戒を込めて」書くのだが、「指導と評価の一体化」もだいぶ怪しいものだ。指導と評価が一体化すればするほど、子どもは一本道の成長を強いられ、教室は息苦しくなっていく。僕の真面目な性格上、そうなりがちなことは自覚している。変な言い方になるが、いかに「ちゃんとやらない」かも、僕が風越のスタッフであろうとするときに、大切な課題なんだと思う。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!