ずいぶん前に読み始め、一時中断し、この春シーズンの個人的課題図書にしていたWriting Voices。結果的にこのブログでも8回もとりあげていたが、ようやく読了。
(参考)Writing Voicesの関連記事
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この本はもともと「著者買い」の一冊。著者の一人Debra Myhillは、イギリスのエクセター大学(University of Exeter)の教授で作文教育を専門にしている人。僕が前に読んだUsing Talk to Support Writingや、買ったはいいけどいつか読まれる日が来るのを待ち続けているThe SAGE Handbook of Writing Developmentの共著者でもある。Using Talk to Support Writingの感想を著者であるエクセター大学の先生たちに送ったら、すぐに返事をくれたのがMyhillさんで、彼女に新刊も読んでねと宣伝されてなんとなく買ったのがWriting Voicesという次第。
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そんなわけで読む前のモチベーションがあまり高くない状態だったのだけど、いざ本腰を入れて読み始めたら面白かった。Writing Voicesというタイトルの通り、作文教育に関わる様々な人(生徒、教師、プロの書き手)の立場の「声」を拾い上げつつ、作文教育のあり方について考察しようという本だ。第一部は「書き手としての生徒」、第二部が「書き手としての教師」、第三部が「プロフェッショナルの書き手」である。
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第一部は「書き手としての子どもたち」。ここでは、著者らの過去の研究をベースにしながら、書き手としての子どもたちにとって、「話すこと」「テキスト」「デザイン」「自律性と選択」「メタ認知」がどのような意味を持つかが述べられている。読んでいて感じるのは、著者がプロセス・アプローチにシンパシーを持つ立場だということ。プロセス・アプローチの実践者であるアトウェルが重視している「選択」や「自律性」の重要性が、この本でも述べられていて、「実践ばかりでリサーチに乏しい」が定説のプロセス・アプローチでも、アトウェルの実践をサポートするような研究があるんだなと嬉しくなった。
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しかし、個人的なこの本の白眉は第二部「書き手としての教師」。考えてみたら、作文教育を左右する大きな要素が教師なのも、その教師自身の書く経験や書くことへの思いが作文教育に影響するのも当然なのに、少なくとも管見の限りではそのような観点の研究を日本語では読んだことがない。
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第三部のプロフェッショナルの書き手と学校の作文教育の関わりも、学校の作文を相対化する役割として非常に興味深い箇所。これについては以下で書いた。
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とまあ、各方面から色々な刺激をもらえた本だった。この本の読書を通じて自分が改めて再確認したのは、生徒に選択と自律性を与えることの重要性、安心で挑戦できる教室空間を作り出すことの重要性、そして教師自身が書き手としてのモデルであり続けることの重要性だ。どれも、ライティング・ワークショップを行う上では、というよりも自立した学び手を育てるためには重要なこと。読んだことで、その重要性があらためてじわりと身体にしみ込んだ。こうした要素を、自分の授業でも忘れないように、空気のように当然にそこにあるものにしていけたら、と思う。その道ははるかに遠いけれども。