[ITM]中高生に回想録を書かせる理由

以下の2つのエントリで紹介した導入的なミニレッスンのあと、アトウェルの回想録の授業はいよいよ具体的な技術のミニレッスンに入っていく。


 

[ITM]回想録を書く前に(1) モデルを見る、トピックを探す

2015.04.20

[ITM]回想録を書く前に(2) 自分の評価基準を作る

2015.04.22

この回想録の章は、ミニレッスンの説明がことのほか丁寧だ。ここで扱われるトピックには、上で紹介した導入部の後にも次のようなものがある(pp433-457)。

書き出し:典型的な書き出しのパターン(Action、Dialogue、Reaction、Description)を教える。
文脈を埋め込む:自分について読者に伝える必要がある情報をどう埋め込むのかを教える。
The Rule of Thought and Feelings:自分の考えや感情を文章の中に書く方法を教える。
「映画」を作る:頭の中で映像を思い浮かべて文章を書く方法を教える。
対話:対話を表す表現の方法について教え、効果的に対話を用いた生徒の作品例を紹介する。
バランス:自分の内面、対話、行動、描写といった各要素のバランスをとることを教える。
時間:時間の移行を示す表現について教える。
結末:読者に印象を残すための結末の書き方として12のパターンを教える。
完成後:2日間置いた後で、チェックしなおす時のチェックリストについて教える。


1つのミニレッスンのテーマで複数回かけることもあるらしいから、相当丁寧な授業作りだ。もともとは詩ではなく回想録を最初に書かせていた(p317)ということからも、アトウェル自身がこのジャンルに相当な思い入れを持っているらしいことがうかがえる。

なぜ、アトウェルはこのジャンルを教えることに価値を見出しているのだろう? アトウェルはこの本の中で次のように語っている。

回想録について教えることは、そのためのレッスンや事例を必要とする。そしてそれらの助けを借りることで、生徒は、用語の選択に、感覚的なイメージに、内面に、個別性の豊かさに、詳細を語ることに、テーマに、そして選択について、自分の意識を向けることができる。(p458)


ここまでは、言語学習という観点からの有用性だろう。次のほうがより本質的な理由といえる。

回想録は、中学校で教えるにあたって重要なジャンルのひとつだ。というのも、青少年たちは大人の世界に抵抗して自分たちを把握しようとし、回想録を書く中で自分の立ち位置を想像するようになるから。高校で教える最も重要なジャンルでもある。というのも、若い大人たちは、自分自身を文学として作ることで、自分の生を把握するのだから。そして、幼稚園から高校までの学校(k-12)のキャリアを通じて、彼らはもっとも重要な作文のジャンルである回想録(個人的なエッセイ)の書き方について練習するのだから。(p458)


10代の中高生(アトウェルが相手にしているのは中学生)にとって、回想録を書くことがどのような意味を持っているのか。アトウェルの考えがここに示されている。そしてこれは、アトウェルが詩を教える理由にも通じるものがある。

[ITM] アトウェルはなぜ詩を重視するか

2015.03.25

書くことは、生徒が自分の生を生きることの力になる。アトウェルのライティング・ワークショップの底流に流れているのは、そのことへの信頼なのだろう。

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