[読書] 戦略的「郷に入っては郷に従え」がキラリ。ディオン・ン・ジェ・ティン「東大留学生が見たニッポン」

これまでこのブログでは、読んだ本のうち教育系の本を中心に載せてきたのだけど、今年度は中高生が読む本をもっと本腰入れて読み、このブログで簡単に感想を書く、という目標をたてました。去年秋からの流れで読書教育に力を入れたいし、アトウェルの学校の先生たちが本当によくヤングアダルトを読んでいたので、それに倣いたい気持ちもある。

アトウェルの学校の見学レポート(3) では、これからどうするの?

2016.04.18

もちろんそのぶん「硬い」本を読む時間はなくなるし、英語の勉強にも時間を使えなくなるので、痛し痒し。でも、少なくとも今年度は、それらを犠牲にしてでも10代に薦められる本を読もうかと思う。
今回は岩波ジュニア新書の新刊から。

若い著者の「戦略的・郷に入っては郷に従え」

この本は刊行時東京大学4年生に在学中の女性ディオンさんの日本留学体験記。表紙のイラストから軽いタッチの異文化体験記かなと思って、実際まあそうだったのだけど、著者の感じた異文化ニッポンの姿よりも、彼女自身の賢さとバランスの良さが強烈に印象に残る一冊だった。

異国にきて様々な文化の違いに遭遇したときに、普通は自国のそれと比べて肯定的、または否定的な感情を抱くものだ。ディオンさんもおそらくその点は変わらないのだろうけど、彼女は意識的に「郷に入っては郷に従え」の精神を発揮して、日本人の感じ方がどういうものなのかを積極的に理解しようとしている。それは、単純に日本人の考えや感覚をまるごと肯定するというのではなく、戦略的にいったん受容した上でその正体が何なのか見極めてやろうという好奇心が背景にあるように思う。大学生のコンパでの振る舞いや、タメ口と敬語の使い分けなど、ちょっとしたことも観察して、自分でもそれに溶け込もうとして、その上で評価する。でも、こういうのってとても良い異文化への接し方ではないだろうか。恥ずかしながら、自分のイギリス留学の時と全然違う…。

この人、きっとすごく周囲に気を使っているのだろうし、共感能力も高くて、頭も回るんだろう。書いている文章も、これが著者にとっての第三の言語である日本語だということが信じられないほど上手だ。読者である僕達日本人に気遣いしながら書いているのがよくわかる。そんな彼女が語る日本の「配慮しあう文化」「お酒の席でのふるまい」「外国語の学び方」には、それぞれ実感もこもっている。外国の人が日本文化に溶け込もうとするケーススタディとしても面白い。留学や国際交流に興味のある人、ぜひどうぞ。

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1 個のコメント

  • あすこまっ!さんが勧めておられたので、公共図書館で探したら、なかったので、どうしようかなと思っていたら、リクエストしますか?と係の人にいわれ、購入をリクエストしました。楽しみです。
    最近読んだのに How to Japan, Colin Joyce NHK Publishing があります。日本語版(こっちが3年先に出版されたようですが)もあって学生さんにも便利かも。東京と英国に縁のある人には更によくわかって興味深いと思います。特に高校~大学生におススメ。