「小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題」というサブタイトルの魅力にひかれて手にとった。ローカルな問題と、近代政治哲学という大きな話題。異物とりあわせの妙で、僕達の生活にひそむ政治の大きな欠陥について教えてくれる本である。
私達の社会は民主的か?
この本で筆者が強調しているのは、たった一つの問い。「私たちは主権者であるにもかかわらず、身近な生活に関わることに声をあげる権利がない。この「民主主義」とは何なのか?」ということである。たしかに、筆者に言われて改めて気づいたのだけど、僕たちの社会が民主主義といわれる所以は「立法府である国会・地方議会の議員を選ぶ権利」であって、行政そのものにはコミットできない。たとえば行政側はその地域の開発計画について「説明会」を開くことはあっても、それはただの説明で、住民の声を聞く必要がない。これで「民主的」といえるのだろうか?
民主主義は「まだ来ていない」
この疑問について、筆者は都道328号線計画への反対運動をケーススタディとして取り上げる。小平中央公園の雑木林を伐採してつくられる予定の幹線道路、都道328号線。都道筆者は、この都道の開発計画に反対する住民運動に自ら加わり、「住民の意見を聞くべき」とする住民投票請求に関わった。ようやく住民投票の実現にこぎつけたものの、行政側の巧みな戦略に「敗北」を喫した筆者は、なぜこのようなことになるのかを、近代の政治哲学まで遡って考察する。そして、「議会以外の制度を増やす」という方向性のもと、具体的な政治への改善案を示していく。
「実践から理論へ、理論から実践へ」というつながりが、この本の最大の魅力だろう。この本自体が、著者の考える「民主主義の実践」の一つであることも含めて、著者の行動や思想を貫く「何か」を感じる一冊だ。それは、デリダの「民主主義は、今もなお来るべきものにとどまっている」という言葉に託された、著者の行動や思考の原理なのだと思う。熱くて、静かな、行動する哲学者の本。これは生徒にも読んでほしいなあ。