[読書]学校でのブッククラブは何を目指す?吉田新一郎『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』

11月から12月にかけて『時をさまようタック』ブッククラブを展開していた関係で、あらためてこの本を読み直した。一口に「読書会」や「ブッククラブ」と呼ばれる実践も、本当に多様だ。この本を読んで、いったいブッククラブを通じて自分は何を目指しているのか?を改めて考えさせられた。これまでもブッククラブ関連のエントリで言及した本ではあるが、自分のメモとしてあらためてとりあげておく(写真は増補版だけど、僕が読んだのは旧版である)。

目次

立場を問わずブッククラブをやりたい人向けの1冊

本書は「ブッククラブとは」を説明する第一部、大人向け、学校など様々なブッククラブを紹介する第二部、ブッククラブの具体的な運営方法を説明する第三部の三部構成になっている。特に、第一部はブッククラブの説明、その歴史、多様なブッククラブのありかたの紹介、ブッククラブでつく力など懇切丁寧で、「ブッククラブってどんなもの?」「これからブッククラブをやってみたい」と思っている人にはちょうどいい。

ただ、特に第一部の内容について、どこまでブッククラブに関する文献を渉猟して得たものであるのか、わからないところもある。著者は吉田さんは読書史や読書教育史の専門家ではないし、引用文献も多くはないので、きちんとした情報を知りたい人はふさわしい文献を別に読んだほうが良さそう。特に「ブッククラブでつく力」については実証的な論ではない印象もある。

しかし、第三部のブッククラブのやり方の説明にいたるまで、これほど懇切丁寧な本はなかなかない。年齢や立場を問わず、ブッククラブをやってみたいという人がまず手に取るべき一冊だと思う。

学校でのブッククラブも色々…

今回注目したのは、この本の第二部第二章。『学校でのブッククラブ』という章である。この章には軽井沢風越学園の同僚のKAIさん(甲斐崎博史)が執筆した、「小学校高学年以上のブッククラブ」という節がある。このKAIさんのブッククラブ論が、他のブッククラブについての文献とはだいぶスタンスが違って面白い。

言葉の力をつけるブッククラブ

これまでの国語の授業の文脈でも、読書指導の中で「ブッククラブ」「読書会」が取り上げられることはもちろんあった。しかし、その取り扱い方は、「ブッククラブの中でどのように力をつけるか」や「力がつくブッククラブとはどのようなものか」が関心の的になることが普通である。例えば、役割を交代しながら読む視点を経験していくリテラチャー・サークルは、「読む力をつけるブッククラブ」のわかりやすい典型だろう。

また、今回やはり再読したラファエルのブッククラブ論も、『言語力を育てるブッククラブ』というタイトル通り、ブッククラブを通じて「読む・書く・話す・聞く」力を総合的に育てることを目標として、綿密な発問の計画を練っている。

こうしたブッククラブは、力をつける道筋がはっきりしているので、教師が授業で取り入れるのに抵抗がない。

力をつけてから行うブッククラブ

他に、ブッククラブでは読む力や話す力・聞く力が総合的に問われているという観点から、ブッククラブは力がついてから行うもの、という立場もありうる。たとえば大村はまは「読書会」実践に関して「これにはかなりの話し合いの力、発表力が必要なので、中学生では三年生が適当であろう」という記述を残している(『大村はま国語教室8 読書生活指導の実際2』p433)

もっとも、同僚のりんちゃん(甲斐利恵子)によると、こういう大村の言葉をそのままとらえて、読書会を「力がつかないとできないもの」と捉えてしまうと、形にとらわれて硬直化してしまうのでは?ということだった。これももっともな話だ。大村自身、読書会実践はこのように中3の時期に行ったとしても、小さな読書会のような単元はそれまでにもいくつも経験していたらしい。そして、時期を見て読書会に進む、ということなのだろう。

自分でつくる経験をするためのブッククラブ

以上のブッククラブや読書会の考え方に対して、KAIさんのブッククラブ論は、極端に言えば言語の力にはあまりこだわっていないブッククラブだ。象徴的なのが、リテラチャーサークルやラファエルのブッククラブのような「文章の読み取りを深めるための直接的なしかけ」がほとんど見られないことだろう。もちろん、「太った質問」「痩せた質問」などのミニレッスンはあるが、それは、直接的に読解を深めるというよりも、子どもが自分たちでブッククラブをよりよく運営するための手段として提示されている。つまり、KAIさんのブッククラブでは、「作品をより良く解釈する」や「言葉の力をつける」ことよりも、「自分たちでブッククラブをつくる」こと自体が重視されているのだ。そしてこの姿勢は、KAIさんの事例にとどまらず、この本全体を貫く基本姿勢でもある。

自分のブッククラブで何を優先するのか?

一般的に、教師は「より充実した話し合いをさせたい」思いから「考えると良い問い」を提示しがちだし、教師から見ると些細であまり実りのない話題で子どもたちが話しあいをしたり、本筋から外れた話し合いをしていると、「こんなの話し合って意味あるのかな」と思い、介入もしたくなる。もちろんそれが悪いわけでもないが、その思いで教師が介入すればするほど、ブッククラブは「子供が自分たちでつくる」ものではなくなり、一斉授業に近くなっていく。

これはおそらく、ブッククラブや読書会をやっている人はみな感じるジレンマだろう。僕もこのジレンマから無縁ではない。このジレンマを解決するのは、結局、「学校の授業で、ブッククラブを通して何を実現させたいのか」という教師の思いに尽きる。一斉授業での「読解」に近い効果を得たいのか、仲間と読書する楽しさを体験してほしいのか。自分もブッククラブをやりながらこの本を読んでいると、この基本的な問いにあらためて立ち返ることになる。ラファエルのブッククラブ本など、同じブッククラブを使っているのにこの本の対極にある本と合わせて読むと、自問自答が進む一冊だ。ぜひ併読をおすすめしたい。

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