[読書]フィクションにもノンフィクションにも良い出会いがあって満足!な2022年12月の読書。

2022年も年の瀬。今年は30日と31日は家で過ごす予定で、仕事もありつつ、のんびりする予定。というわけで、今日は2022年12月の読書まとめエントリを書いた。2022年の年間読書まとめエントリは明日更新することにして、まずは12月を振り返ろう。

目次

今月のベストはやはり『君は君の人生の主役になれ』

今月の読書といえば、やはり鳥羽和久『君は君の人生の主役になれ』を抜きにはできない。詳しくは別のエントリに書いたのでそちらを読んで欲しいけど、特に親子関係について書かれた章が心に刺さった本だ。子どもたちにも読んで欲しくて一冊それ用に買ったけど、今のところ読まれる気配はない(笑) 個人的な読書記録でも10点中10点満点の本で、今月のベストを挙げるとなると、この本になる。

[読書]10代から大人まで、グサッと知的に刺さる人生のエール。鳥羽和久『君は君の人生の主役になれ』

2022.12.18

ノンフィクションの1冊は、鈴木忠平『嫌われた監督』

図書館で登山の本を眺めようと7類(スポーツ)の棚をうろうろしていたら、なぜか手にとってしまった鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか 』も素晴らしかった。確かどこかでネット経由でこの抜粋を読んで面白かった記憶が残っていたのだろう。落合監督といえば「日本シリーズでのノーヒットノーランしようとした選手を交代させて勝ちに行った監督」「チームは強いけど勝ちにこだわって面白くなくて観客動員が落ち込んだ」程度の予備知識だったのだけど、読み始めるとこれがめちゃくちゃ面白くて、500ページ近い本なのに一気読み。落合博満という徹底した個人主義を取る監督の厳しさ、冷たさ、温かさが、彼の指揮下にある選手たちを通して語られる。特に、いつも同じ場所から同じ選手をじっと観察することで、その選手の些細な変化を見つける観察眼はおそろしいほど。詳しくない僕でさえこれなので、野球好きの人にはたまらない読書体験になるはずだ。こういうのがあるから、Amazonだけで本との出会いを完結させられないなあと思う。

今月はこれに加えて仙田満『遊環構造デザイン』も読んで風越の校舎について考えていたのだから、ノンフィクション読書はかなり充実していた。『遊環構造デザイン』については、下記エントリを参照。これも、風越学園のこれからを考えるときの大事な一冊だと思う。

[読書]風越学園の3年間とこれからを考えつつ読む。仙田満『遊環構造デザイン』

2022.12.04

今月出会った素敵なエッセイ2冊

独立研究者の森田真生さん。僕はエッセイストとして『数学の贈り物』がとても好きなのだけど、今月読んだ『偶然の散歩』もとても良かった。実は『数学の贈り物』の「意味」というエッセイ、僕は『中高生のための文章読本』に入れたかったのだが、最終的にこの本の想定する難易度よりやや高く、断念した過去がある。『偶然の散歩』は『数学の贈り物』よりも話題が日常的で文体も柔らかくて、誰でも楽しめるエッセイ集だ。「7たす5が11」なのが間違いなのは、あくまで算数というルールのもとでそうなのであって、そうでない正しさにも身体が開かれていることの大切さを見つける「『正しさ』の正しさ」が一番好き。進路について真剣に考える高校三年生の質問に答えて実際に会う「道草の記憶」で、素晴らしい本だけを読んでいたら、その素晴らしさも色褪せてしまうと書いている点も印象に残った。

同じエッセイでは、歌人の堀静香『せいいっぱいの悪口』も読んだ。僕とはもともと東京時代に国語の勉強会仲間として出会った堀さんは、今は山口で国語の先生をしつつ、歌人・エッセイストとして活躍の場を広げつつある。本書は、百万年書房の新エッセイシリーズ「暮らしレーベル」の1冊目として刊行された、堀さんのエッセイ集。

わたしはいったい、どうしたってわたし以外のだれになることも許されず、いや、許されるとかそんな大仰なことでもない。ただわたしはわたしを引き受けなければならない。(p156)

教え子の死という重い話題を扱った「はみ出しながら生きてゆく」から、我が子を前にオロオロする「あーちゃん」まで、「わたしのどうしようもなさを引き受けること」が全編にわたって散りばめられているエッセイ集だ。呼吸のリズムを思い起こさせる読点や句点の打ち方も素敵だと思う。

海外作品に良い出会いがあった物語

今月の物語は、結果的に海外ものに良い出会いが多かった。レティシア・コロンバス『三つ編み』は、妻のおすすめで読んだ本。インドの被差別民(不可触賎民)のスミタ。イタリアの毛髪加工会社の娘ジュリア。カナダの弁護士サラ。3人の女性がそれぞれ過酷な運命に襲われ、やがてそれぞれの物語が一つになる、読後感の美しい本だった。翻訳がいいのかなあ、フラットな緊張感のある文体も好き。今月のベストに近い。フェミニズム小説の系譜に位置付けられるらしいけど、あまりそんなこと意識しないで読める。中学生で読めるかどうか、かなあ。風越の子にはちょっと大人向けかもしれないけど、レティシア・コロンバニの作品、他にも読んでみたい。

他で読んだ物語は、基本的には風越の子向けを念頭に置いたもの。その中でブリジット・ヤング『かわいい子ランキング』は受け持ちの小5・6年の女子にぴったりだろうなと思える作品。クラスで誰かが作った「かわいい子ランキング」が出回り、クラスで人気第一位のソフィーをおさえて、地味なイヴが1位になってしまう。そこからイヴが周囲の好気の目にさらされて…というストーリー。ルッキズムをテーマにした作品なのだが、そんなにドロドロしてなくて、児童書の範疇に入る感じでちょうどいい。版元の「ほるぷ読み物シリーズ セカイへの窓」は、ジュニア向けの翻訳を扱うレーベルなのかな、今後注目したい。

マーガレット・マーヒー『足音がやってくる』は1982年度のカーネギー賞受賞作。少年バーニーが、大叔父さんのバーナビーが死んだ時からある「声」が聞こえるようになる。その声は次第にはっきりして、幽霊と思えるようになり、バーニーは自分がその幽霊に乗っ取られるように感じるのだが…というストーリー。徐々に声や足音がバーニーに迫ってくる感じが怖い。The Hauntingというタイトルを「足音がやってくる」と訳した訳者の青木由紀子さんもお見事だと思う。僕の家族は妻も息子もマーヒーの『魔法使いのチョコレート・ケーキ』が大好きで、この『足音がやってくる』にも魔法使いが出てくるのだけど、彼女の描く魔法使いは全然完璧じゃないのがしみじみ良い。

木下龍也『オールアラウンドユー』はやっぱり素敵。

歌集も。木下龍也さんの歌は、本当に良い意味で一般受けする。もちろん一般人の僕も大好きだ。先日、風越の図書館に入った『あなたのための短歌集』を同僚たちに紹介したら、彼らも「いいねえ」連発で嬉しかった。そんな木下さんの最新歌集『オールアラウンドユー』は、東京に行ったときに装丁の色をじっくり選んで煉瓦色の本を購入。持っているだけでじんわり嬉しい。なんとなく家でも、好きな歌のいくつかを声に出して読んでしまう。

  • またわたしだけが残った、そう言って花瓶は夜の空気を抱いた
  • 空き缶は雨を貯めつつ唇に触れられた日の夢を見ている
  • 雪だったころつけられた足跡を忘れられないひとひらの水
  • 空席がすばやく埋まる東京でだれが消えたか思い出せない
  • 読み終えてややふっくらとした本にあなたの日々が挟まれている

僕が好きなのは、こういう、「時間」を感じさせる歌。また、次のような、主客転倒というか、人間が対象となって見られる歌にも惹かれる。こういう歌の構造を、僕も真似して書いてみようかなと思う。これからも歌集を追いかけたい歌人だ。

  • 空き缶の日の空き缶に早朝のごみ捨て場まで連れて行かれる
  • ひっぱってくれるタイプの犬だったときおりぼくにふりむきながら
  • 人間へ まだ1割の力しか出してないけど? 消費税より
  • 食う者と食われる者をはっきりと隔てるために箸は置かれる

今月の「山」本は、冬シーズンが楽しみなこの本。

今月の「山」本は、実用書の石丸哲也『始める!スノーシュー』。僕の住んでいる御代田町は、浅間山の麓の町。そして、浅間・烏帽子火山群と言われる連峰には、スノーシューが楽しめる高峰高原があるのだ。スノーシューを買うのはお金がかかりすぎるけど、まずはレンタルで楽しむぞー!

こうしてみると、今月は収穫の多い月だったな。フィクションでもノンフィクションでも、良い出会いがあって、11月、12月と、なかなか良い感じかも。明日のエントリで、一年間の振り返りをしてみよう!

 

 

 

 

 

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