[読書]小説も評論も満足の2018年10月の読書。今さらの「橋のない川」「月と6ペンス」が良かった!

2018年10月は、合計で15冊。すぐに読めるものも、じっくり読むものも交えながら、平均2日で1冊ペース、これが僕の上限かな。結果として、小説も評論も、今月は良い本にたくさん出会えた。良い読書月間でした。

目次

名作と言われる理由あり!「橋のない川」

まず名前をあげたい「橋のない川」は、明治時代の被差別部落・小森に住む兄弟、誠太郎と孝二を軸にして、差別されながら生きていく彼らの成長を描いた物語。賢くて仲の良いこの兄弟をめぐる周囲の人々の姿が胸を打つ。「自分たちがエタであることを知らせまい(しかしいつか知るであろう)」と配慮する親。何ということのない言動の中に無自覚な差別意識をあらわにする周囲の人々。その中で、次第に自分たちの置かれた境遇を自覚していく兄弟を描くのが第一巻。

第二巻では、兄の誠太郎が大阪の米問屋に奉公に出て、残った孝二が厳しい差別に直面する巻。大きな事件がいくつもおきて、淡い恋も悲しい終わり方をして、二巻の結末となる修学旅行の夜は読んでいるこちらも辛いほど。でも、その中で強く生きていこうとする孝二と友達の貞夫の成長を描いていく。

この巻で印象的な脇役は、孝二の学校の先生たちだ。「公の場や教師や生徒という立場では孝二たちを尊重するが、個人の付き合いとしては差別意識を隠せない」彼ら、特に、最初は親切に振舞っていたのに徐々に距離をおく柏木先生の心境には、軽い共感すら覚えてしまった。

名作と名高いこの作品、たしかにと思わせる筆力の確かさ。心情描写も巧みで問題意識も深く、ぐいぐいと引き込まれていく。今後も、月に1巻のペースで読んでいこうと思います。

今だから共感できる?「月と六ペンス」

サマセット・モーム「月と六ペンス」は、かつて手に取ってあまり印象に残らなかった本。でも、この本を大好きな生徒の影響で金原瑞人訳を手にとったら、大ベストセラーも納得の面白さで驚いた。前は読んでいるようで読んでいなかったのかな。

平凡で幸福な、そして退屈な夫に見えたチャールズ・ストリックランドが突然妻や家族を捨てて失踪してしまい、語り手の「わたし」が夫婦の間を取り持つところから物語が始まる。ミステリ的要素や、芸術に生きることを決めたストリックランドの生き様に惹かれ、一気に読んでしまった。中でも心に残るのは、ストリックランドを支援したお人よしのストルーヴェが、妻にストリックランドを看病させ、結局は妻を奪われてしまうこと。この時の妻の心情は、一人の人間の持つ複雑な心の襞を見せてくれた。

これ、なんでこんなに良かったんだろう。前に読んだ時は、この作品で描かれる様々な「夫婦」の姿にピンとこなかったのに、今は夫婦関係について経験に基づいて考えることがあるから、こんなに惹かれるのかも。

今月は、この二つの小説を読めただけで「良い月」!

読み応えのある二冊の評論・ノンフィクション

評論系にも楽しく読める本が充実。まず面白かったのは次の二冊。

一冊目は、詩人・批評家の細見和之による石原吉郎論「石原吉郎 シベリア抑留詩人の生と死」。今回のライティング・ワークショップで僕は石原吉郎の詩「位置」の批評を書いたので、その参考文献だった。

石原吉郎の詩は、シベリア体験を綴ったエッセイと関連づけて読まれることがしばしばある。でも、著者の細見さんはそういう見方から慎重に距離をとって、詩を詩として読んでいる。漢語を使った詩とロマンス語を使った詩という対比がとても興味深くて、「フェルナンデス」「自転車に乗るクラリモンド」などの詩の魅力が改めて浮かび上がる。「盲導鈴」という最晩年の散文詩に出会えたのも良かった。

もう一冊の評論は、幸福論の入門書「幸福とは何か 思考実験で学ぶ倫理学入門」。ちくまプリマー新書だけど、このシリーズによくある、大人が読んでも十分に楽しめる一冊。

幸福の本質について(1)快楽説、(2)欲求実現説、(3)客観的リスト説、の3つの立場から議論を展開し、様々な思考実験を通してそれらの長所と限界を確認する。また、後半の時間と幸福の関連についての考察も面白い。幸福の総量は変わらなくても、「前半が幸福で後半が尻すぼみの人生」よりも、「だんだん幸福の総量が高まる人生」のほうが幸福な気がしちゃうけど、確かになぜなんだろう…。

書くことについて教えてくれる2冊

10月はライティング・ワークショップもあったので、書くことについての本も読んだ。

最初の一冊はすでに別エントリで感想を書いている。タイトル通り、文章を整えるための推敲の技術を書いた本。Kindleでバーゲンセールしていたそうで、安く買えた方はラッキーでしたね。

[読書]読みやすい文章を書くための技術がまとまった、下良果林「文章を整える技術」

2018.10.13
もう一冊はアメリカの作家スティーヴン・キング「書くことについて」。キングが自分の半生を振り返りつつ、書くことについて書いたエッセイ。
一番面白いのは彼がティーン時代に書いていた頃の話だったかな。後年の大作家が、どうやって無名時代を生きていたかという話は興味ある。特にアルバイト先の新聞社のジョン・グールドからキングがもらった助言「ドアを閉めて書け。ドアを開けて書き直せ」という言葉は印象的で、授業でも紹介させてもらった。楽しみながら書くことについて学べる一冊。

久しぶりに北川浩二さんの詩集を読む

詩集では、北川浩二さんの新詩集「わたしの胸は反響する」を読んだのが印象深い。北川浩二さんは、1990年代末に雑誌「詩学」の新人に選ばれた詩人。同時期に活躍されていた常連には、詩人の蜂飼耳さん、日和聡子さん、俳人の十亀わらさんなどがいらして、皆さん優れた作品の書き手だけれども、僕はその中でも北川浩二さんの詩が最も好きだった。

北川さんの詩の良さを僕が言葉にするのは難しいが、彼の詩の言葉には、「北川節」とも言いたくなる、つまづきながら、時々黙りながら歌うような独特の旋律があって、時に甘くも思える言葉の選択が、リフレインされる言葉が、その旋律を作り出している。いわば、「寡黙な歌」。僕には決して真似できない世界を作る、確固とした個性を持った詩人だ。

この新詩集「わたしの胸は反響する」は私家版なのでAmazonでは置かれていないけれど、ご本人のツイッター経由で作品を読んだり、申し込んだりができると思います。ぜひ読んでみてください。

北川さんの過去の作品はこちらから。あすこまはもちろん全部持ってます。
北川浩二

書の歴史をマンガで学んだふり

今月最後の紹介は学習マンガ。国語の免許持ちなのにこの方面には全く疎いあすこまです…。この2冊のほんのおかげで、中国史の復習も兼ねて、書の歴史を少し知ることができました。

ほんと素人丸出しの感想で申し訳ないのですけど、顔真卿、超絶に字がうまいですね…(笑)。でも彼独特の書風である「顔法」を確立する前の楷書の方がうまく感じられるのは、きっと「ピカソの絵って子供の時の方がうまいじゃん」と感じるアレなのでしょう。そして王羲之、中国の科挙では、彼の書体で答案を書くことを求められていたとは、凄すぎ…まさに「書聖」。

僕でも名前を知っているビッグネーム(王羲之、褚遂良、虞世南、欧陽詢、顔真卿)が並ぶのは第一巻。中国を支配する異民族が中国文化や書とどう付き合ってきたかがわかるのが第二巻。全体的に、中国史を学びつつ、それと関連して書の歴史についてたどることができる一冊です。鍾繇、玄宗、康有為、孫文といった歴史上の人物がとても見事な書を残しているのも印象深い。玄宗皇帝、字がうますぎですよ…。

楽しくたくさん読めた10月。

というわけで、全体的に楽しくたくさん読めた10月でした。古典文学に関係しそうなところを全然読んでないので、11月は古典がらみを読もうと思います。お勧めがあったら教えてください!

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