[読書]アイデアマンの著者による具体的な問題解決の数々。池田修『作文指導を変える つまずきの本質から迫る実践法』

池田修『作文指導を変える つまずきの本質から迫る実践法』は、作文を書くときに子供たちが突き当たる壁をどう乗り越えるかという課題を一種の問題解決と捉え、それには教師のどのようなサポートが必要かを論じている本。国語の先生はもとより、行事作文を書かせる担任の先生などに有益な具体案を提供してくれます

「書けない」問題から出発した本

本書の大きな特徴は、「なぜ子供たちは作文を書けないのか?」という、現場の先生が直面する問いから出発している点です。特に作文教育に関心のないたいていの教員にとって、作文教育について深く考えなければならない機会とは、目の前の子どもたちが作文を書けないときにやってくるはずです。ちょうど、病気のときに体の健康について考えるように。そういう先生にとって、本書は極めて具体的な処方箋を提供してくれます。

「書けない」問題の具体的な処方箋

著者の分析によると、子供たちが書けない理由は以下の4つに分類されます。

  1. 何を書いたらいいのかわからない
  2. 何から書き始めたらいいのかわからない。
  3. どういう順序で書き進めたらいいのかわからない。
  4. 何のために書くのか理由がわからない。

著者はこれらの4つの書けない理由に対してどのような対応をすればいいか、一つ一つ提案をします。その提案の多くは、著者が中学校教員時代に実際に実践したものであり、具体的でとても使いやすいものです。おそらく筆者の作文指導史は、書けない子の困難をどう解決するかという歴史だったのでしょう。実際に書けない子を前にして考え出されたであろう具体的な指導法の数々は、おそらくどの人にとっても参考になるはず。そしてこの本では行事作文を書かせる場面が主として念頭に置かれているため、国語科の教員はもちろん、行事作文を書かせないといけない担任の先生にとっても具体的なチップスを提供してくれます。

あらかじめ断っておくと、著者の作文教育観は僕のものとは違いがあります。これは良し悪しではなく、ただ教育観が違うのです。著者は学習指導要領も引用しつつ、作文指導は書き手の書きたいことを書くのではなく、読み手の読みたいものを書くのだという立場を基本にしています。この、他者の存在を前提とする作文教育観は、自己発見の作文から出発する僕の作文教育観とはかなり異なることは、間違いありません。

アイデアマンの著者ならでは

とはいえ、それでも著者の具体的な提案の数々が有用であることには疑いがありません。「デートの企画書」「聖地巡礼」のような、アイデアマンである著者ならではの提案がたくさんありますが、とりわけ書き込み回覧作文はイチオシです。これは、短時間で生徒がお互いに温かいフィードバックを取り合う簡便なシステムで、どの教室でも使い勝手が良いはず。著者の実践の中でも白眉でしょう。これは特にオススメなので、まだ知らない人は、この詳細を知る目的だけでも、ぜひ本書を手に取ってください。

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