2019年2月は入試やら私的な用事やらで忙しく、なかなか本を読むのが大変な月でした。疲れて夜遅く帰宅すると、電車の中でも読書よりもついスマホをいじっていることも多く、反省…。そして、今月もお仕事系読書が多かったのも反省…。今月は、詩についての本の紹介が中心になります。
目次
今月のメインは、詩の授業についての本
今月は中学生で詩の授業をやっていたこともあり、久しぶりに詩の授業に関する本や論文を複数読みました。その中から何冊か紹介します。
詩の鑑賞と創作を、「レトリック」という観点でつなぐ本
イチオシは児玉忠『詩の教材研究 創作のレトリックを活かす』。詩の受容(鑑賞)と創作を一体化させようという関心のもと、「創作のレトリック」(視点・語り手、発想・認識、想像・イメージ、比喩・象徴、オノマトペ、音韻・リズム、文字・フォルム、方言・語り口)ごとに創作と受容の実践を載せています。
僕もこの著者と同じように、詩の鑑賞と創作の間を往還する授業を作りたい、と思っています。これも『イン・ザ・ミドル』を訳した影響だと思うのですが、短く、レトリックを凝縮して使っているという詩の特徴を、もっと活かした授業がしたいなあと。この本は、その方向性を助けてくれる本のはず。山際鈴子、白谷明美といった先駆者の実践にも興味を惹かれます。
「異化」を足立悦男さんの詩教育の理論
本ではないのですが、足立悦男さんの詩教育の理論も一気に読んでしまいました。足立さんは、「異化の世界を作る」ことを詩の本質と見て、その観点から「話者」「存在」「思想」「時間・空間」「ことば」の5つに詩の教材を編成しています。そして、それぞれのカテゴリーでの鑑賞(受容)指導と創作指導を指導を分類しているのです。
どういう観点で詩を分類するか、児玉さんと足立さんの違いはとても面白い。これってかなり本質的な問題なので、自分がどういうスタンスを取るか、ゆっくり考えてみたいと思います。
島根大学学術情報リポジトリ
http://ir.lib.shimane-u.ac.jp/ja
「詩の書き方」に関する古本が個性的で面白い
今回は、気になる古本も読んでみました。阪本越郎『新しい詩の作り方』(同和春秋社, 1950年)は「中学生の文芸教室」というシリーズの一冊ですが、レトリックの解説が非常に詳しいのが特徴です。パッと見て、僕には何のことかよくわからないレトリックもけっこうありました。勉強になるなあ…。
一方、大木実『詩を作ろう』(さえら書房、1968)は、詩を理解するには詩の歴史を知らないといけないというスタンス。日本と西洋の近〜現代詩の歴史についてかなり丁寧に書いていて、こちらも読んでいて面白い。
今は、詩の書き方の入門書ってそんなにない気がするのですが、この頃まではわりと現役詩人たちが「詩の書き方」の本を出しているんですね。今日あげた2冊も、大人の読書に堪えうる本です。古本屋などで見つけたらぜひ読んでみてください。
近藤真さん、今月は大人向けの本
1月の読書記事で「中学生のことばの授業」をお勧めした近藤真さんの本は、『大人のための恋歌の授業』。島崎藤村「初恋」に同じ七五調で女性の立場から返事を書く、「逢ひ見ての…」の敦忠の歌の初句に続く歌を作る、「君かへす..」の白秋の歌に返歌を書くなど、この筆者らしい実践がいくつも。恋愛詩のアンソロジーとしても楽しめます。
詩の技法をまとめた本
ツイッターで教えて頂いた、詩人の小海永二さん監修『「詩の技法」をどう教えるか』は、その名の通り、教育用の詩の技法の事典。こういう技法を教えることを目的に詩の教育をするのは本末転倒だけど、詩の言葉の独自の世界を支えているのはこうした技法だし、こうした技法を知っていると子どもの詩の良いところ探しも上手にできる。これは手元に置いておきたい一冊だと思いました。
新学習指導要領をめぐっての、お仕事系読書2冊
2月は、この詩の本の他にも「お仕事」がらみの本を2冊読みました。まずは大滝一登『高校国語 新学習指導要領をふまえた授業づくり 理論編』から。
でも、「新学習指導要領では文学を軽視などしていない」「文学国語を選択しないのだとしたら、それは、選択しなかった高校が文学を軽視しているということ」という第4章の内容には、さすがに「うーん」と思いました。何度も話題になっていることですが、現在「現代文B」(4単位)を選んでいる学校は、時間割や教員数の兼ね合いを考えると、同じ4単位の「論理国語」か「文学国語」のどちらかを選ぶことが最も自然な状況に追い込まれています。そんな風に追い込んでおいて、「選ばないのはそちらの責任」って、ひどくないですか…。
一方、紅野謙介さんの『国語教育の危機』は、そういう現在の改定の動きに明確に反対の立場をとる一冊です。
安定感抜群の『橋のない川』、いよいよ第五巻
仕事を離れた読書として一番印象に残っているのは、ちょっとずつ進んでいる住井すゑ『橋のない川』。今月はようやく第五巻。被差別部落「小森」の少年・熊夫くんが傘を破られてしまったことをきっかけに、抗議に行った孝二たち若者が逆に暴動の罪を着させられて投獄される事件を中心に、平等を求めて戦う小森の人々の様子を描いています。
「不便」の「益」について考える本
毎月恒例のジュニア新書からは、川上浩司『不便益のススメ』。これはユニークな本でした。「不便」「便利」「益」「害」を分けて考え、「不便」の「益」を考える不便益。「断絶」し「分業」し「判断しなくて良い」方が便利だけど、そうすると「多様な、全体的な関わり」を失い、理解もしなくなり、主体性も失う(車の工業は分業が効率的だが、一人で一台作る方が愛着やモチベーションがわく)。この点は確かに!と思わされました。
まだ良さがよくわかってない『徒然草』
こちらも最近の恒例、古典と仲良くなるためのシリーズ。諏訪園純『〈今・ここ〉に効く源氏物語のつぶやき』は、すでに下記エントリで書きました。
もう一冊は、毎月一冊ずつのペースで読んでいるビギナーズクラシックス。今月は『徒然草』。ご存知三大随筆の一つですが、僕はまともに読むのは今回が初めてです(恥)全体的にはのめり込むというほど楽しんでは読めず、「卜部兼好さん、よほど過去に女性で嫌な目にあったのかな…(でも女好きそう)」とか、「酒飲みの観察眼がすごいな…」とか、「なんで仁和寺にある法師の話がよく取り上げられるのかな」とか、徒然によしなしごとを思いつつ読んでいった感じ。ちょっとした小話にちょいちょい面白いものはあったのですが、徒然草の面白さがわかるにはまだまだってことでしょう。そう思っておきます。