[読書] 「理解と表現の相互循環」の原理で学校をつらぬく、渡辺貴裕・藤原由香里『なってみる学び 演劇的手法で変わる授業と学校』

今日紹介する本は、渡辺貴裕・藤原由香里『なってみる学び 演劇的手法で変わる授業と学校』です。演劇的手法に興味を持ち始めた僕がまず手に取って大正解の本でした。国語の授業の中での演劇的手法の使い方から、教科の枠を超えた学校研修や公開研究発表会のデザインにおける演劇的手法の活用まで、幅広い文脈の中で演劇的手法がどのように使えるかを具体的に紹介していて、とても面白い一冊です。

前説:演劇的手法に興味を持った理由

自分が最近演劇的手法に興味を持っていると聞くと、僕のことを知っている人は驚くんじゃないかな。というのも僕は自他ともに認める「即興苦手・非言語苦手・身体性苦手」、守備範囲は文字オンリー、みたいな人だから。で、その僕がなぜ興味を持ったかというと、「読書家の時間」が中心の風越の国語のカリキュラムの中で、1つの作品をみんなで深く読む経験をもっとやってみたいと思ったから。恥ずかしながら、ブッククラブ形式だと、風越では事前に読んでこない子があまりに多くてうまく授業が成り立たないんですよね…。そんな中、12月までテーマプロジェクトで演劇をやって、子供たちの演じることへの抵抗感の少なさに驚くことがありました。というわけで、一つの作品を深く読む方法として、ブッククラブよりも演劇的手法を使えば、みんな楽しく読解ができるのではないかと思ったのです。

そして、関西のとある演劇的手法の国語の授業を見に行く機会ができ(この話はまた別のエントリで)、その予習として読んだのが本書「なってみる学び」でした。

演劇的手法をどう活かすか、豊富な具体例

本書の構成は大きく3つ。第1章は国語を中心とした授業の中で演劇的手法がどのように活用できるかを述べたパート。第2章では演劇的手法で校内研修をどのように変えられるか、そして第3章では公開研究会が演劇的手法でどのようにデザインできるか。そうした授業→校内研修→公開研究会の流れの紆余曲折のストーリーが第4章で語り直され、著者の一人、八幡市立美山小学校(当時)の藤原由香里さんを中心に、さまざまな人の声が紹介されます。

本書のウリは第一に、これらの3つの章を貫いて、様々な演劇的手法の具体が紹介されていることです。特に第1章(p50-51)ではホットシーティング、ティーチャーインロール、葛藤のトンネルなど、授業にも使えそうな様々な技法やその活用法が整理されていて、実際に自分の授業でも使えそうな気になってきます。その実例も印象的。とりわけ、特別支援学級での「スーホの白い馬」実践は、この手法の力強さを感じさせるものでした。

国語科教員の僕にとっては、これだけでも十分にお釣りが来るのだけど、さらに面白いのは第2章以降。校内研修での授業検討で、実際に参加者の教員が演じることで研修がどう変わるかと言う視点が抜群に面白かった。僕たちはつい自分の価値観の枠組みに基づいて、見た授業を「あそこが良かった」「ここをこうすればもっと良くなる」と思ってしまう。非常に強力なこの傾向に対処するために、子どもと大人の学びを同型にして、演劇的手法で実際にやりながら考えてみる。そうすることで、つい批判になりがちだったり、年齢差によるパワーバランスが生じがちだったりする校内研修を変えていく発想が、とても示唆に飛んでいました。僕も風越では「ベテラン」世代なので、我が身を顧みることにもなりました。そして、さらにその延長上に、演劇的手法を用いた公開研究会に、藤原さんを中心とした美濃山小学校の先生方がどう関わって行ったのか、1つの物語を読むように読み進めることができます。

作文にも共通する、表現と理解の相互循環

個人的にこの本でとても良かったのが、演劇的手法の基本的な考え方として、「表現と理解の相互循環」という原理が示されていたこと。演劇的手法とは、理解したことを表現するのではなく、表現しながら理解したり、理解がその表現をさらに変えていったりなど、その2つが相互に循環していくことを大事にします。これが、国語の授業・校内研修・公開研究会をつらぬいてるんです。

でもこれはさほど難しい話ではなくて、というのも、Discovery Wriring(発見のために書く)とはまさにそういう話なのですよね。「作家の時間」をやっていれば、読むことと書くことがお互いに影響し合う事例や、書くことでアイディアが生まれていく過程にはたくさん出逢います。つまり、演劇の原理と読み書きの原理が全く同じなので、そこに引きつけて読むことで、自分に遠かった演劇的手法にも親しみを持って読むことができました。

読んで明るい気持ちになるのが魅力の一冊

本書では、藤原さんを始め、校内研修や公開研究会に関わった多くの先生方のインタビューがあったり、失敗例があったりします。そのおかげで、文字だけでは魅力を伝えにくい演劇的手法の魅力、「なってみる」「やってみる」ことで生まれる豊かな可能性を示してくれます。また何よりも、藤原さんを中心とする先生方の前向きなエネルギーが感じられて、読んで気持ちが明るくなり、励まされる一冊でした。僕のように国語の授業で使ってみたい人だけでなく、校内研修を何とか変えたいと思ってる人にも参考になる本だと思います。

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