[読書]学校生活を通して、法の基本的な考え方を紹介する。小貫篤『法は君のためにある』

この秋に刊行がはじまった新シリーズ「ちくまQブックス」、第2弾のラインナップから2冊を読んだ。どちらも知人が書いたものなのだが、どちらも面白かったので順番に紹介しておきたい。1冊目は前任校・筑駒(筑波大附属駒場中高)の公民科教師の小貫篤さんによる『法は君のためにある』

目次

筑駒の公民の授業を書籍化した本

小貫さんと一緒に働いた期間は短かったのだけど、同じ学年を教えていたので、「授業が面白い」という評判を聞いていた。それで2018年の公開授業を見に行ったら、「AIによって自動運転となった車の運転における法的責任」を議論する授業をしていて、とても印象に残ったのだ(その授業はこちらこちらでレポートされている)。

その小貫さんが筑駒での授業を書籍化(といっても、実際の授業よりだいぶ易しくなってそう)したのだから、そりゃあ面白いでしょう、という本である。中学3年生のタツルくんの一年間の学校生活をもとに、法に照らし合わせるとどう考えるのか、法ってそもそも何を目指したものなのかをやさしく説明していく

部活、遅刻、行事…話題の身近さがピカイチ

なにしろ、とりあげる話題がいい。「部活の大会に誰が出場すべき?」(配分の正義)、「文化祭で出店を希望する部屋が重なったらどう決める?」(交渉と紛争解決)、「ボールで自転車が壊れたら誰の責任になるの?」(過失と責任)、「電車の遅れで学校に遅れても遅刻になるの?」(契約)など、身近なものばかりなのだ。法関係の入門書は、用語がどうしても硬い印象を与えるので、話題の身近さはとても大事だ。この設定なら、きっと中高生でも面白く読めるはず。

法の基本的な考え方を紹介

この本の良いところは、個人の自由を守りつつ、利益や負担のバランスを公正にとることで、みんなが共生できる社会を目指すという「法の考え方の紹介」に話の焦点を絞っているところ。例えば、交渉と紛争解決の話では、お互いが満足できる合意に至るために、「問題と人を分離する」「利害に目を向ける」「代替案を用意する」などの考え方の原則を、オレンジの取り合いを例にしながら丁寧に説明する。こういう考え方の原則は、苫野さんの「自由と自由の相互承認」を思い出すし、この考え方が理解されれば、子どもたちがクラスや部活を運営するうえでも非常に有益だと思う。そのぶん、出てくる用語の量やその解説はさほどくわしくない。これまで出てきたジュニア向けの法律入門というと、大村敦志さんの岩波ジュニア新書がすぐに思いつくけど、それよりよりも一段易しいイメージがあって、小貫本→大村本というルートが思い浮かぶ。

評論入門一歩前の本としても

現代文教員視点では、評論入門一歩前の本としてもおすすめできるのがありがたい。例えば、この本には「この考え方を◯◯といいます」のように、考え方を単語で抽象化がされているところが多い。具体と抽象をいったりきたりするのが評論を読み解く基本であり、その練習ができないとなかなか高校教科書の評論文には歯が立たない。だから、「読みやすいのだけど、適度に抽象化がある」この本は、評論を読む一歩前の段階としてちょうどいい。

また、「忘れられる権利」「LGBTからSOGIへ」「リバタリアニズム」など、評論を読む上での背景知識となる話題に触れられる点も同様にありがたい。というわけで、法入門としてだけでなく、「評論入門一歩手前」の本としておすすめできる一冊になっている。風越では、法律系の本というと『こども六法』くらいしかあまり読まれている印象がないけど、中学2・3年生くらいにはこの本もすすめてみたい。

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