玉樹真一郎『「ついやってしまう」体験のつくりかた』は、元任天堂企画開発者の著者による、ユーザーの心を動かす体験をどう作るかという設計書である。ツイッターで見かけた本なのだけど「ついやってしまう」というタイトルに惹かれて手にとった。僕自身は「しっかり学ぼう」と言いがちな人なのだけど、「つい学んじゃう」「うっかり学んじゃう」体験ってどうデザインすればいいのかなって考えたくて。
「直感」「驚き」「物語」の3つの体験デザイン
本書の柱は、ヒットしたゲームを支えている次の「3つの体験デザイン」の説明にある。
- 直感のデザイン(仮説→試行→歓喜).
- 驚きのデザイン(誤解→試行→驚愕)
- 物語のデザイン(翻弄→成長→意思)
「直感のデザイン」は「こうかな?」というユーザーの仮説を誘発し、予想どおりにやってみたらフィードバックを得て歓喜する体験デザイン。ついで、疲れや飽きを感じさせないように、ユーザーの仮説を誘発しつつも、あえてそれを裏切り、予想が外れる「驚きのデザイン」。さらに物語を構築しようとするユーザーを(伏線などで)翻弄して物語らせ、プレイヤー自身を成長させ、プレイヤー自身の物語をつくりだす「物語のデザイン」。ぼくの理解でざくっと書いてしまうと、「直感のデザイン」は「なるほど、わかる!」を生むデザイン、「驚きのデザインは「そうきたか!」を生むデザイン、そして物語のデザインは「成長したなあ!」を生むデザインかな。特に、「ゲームは、ゲームの主人公の成長物語でなくプレイヤー自身の成長物語になる必要がある」という「物語のデザイン」の考え方は面白かった。
本書では、この3つのデザインが、スーパーマリオブラザーズ、ドラゴンクエスト、ラストオブアスなどのゲームを事例として語られる。だから、具体例つきで理解を深めたい人はぜひ本書を手にとってみてほしい。ちなみに、これらのゲームをほぼやったことがない僕でもわりと楽しんでさらっと読めた本なので、ゲーム経験者の方ならさらに「なるほど」と思えるはず。
授業づくりのヒントにもなる視点?
で、教員としては、やはり「これをどう授業デザインに活かせるのかな」と考えてしまう。「やりなさいと言われたから仕方なくやる」ではなく、「ついやってしまう」体験をどうデザインするか….。たとえば、「直感のデザイン」は「わかりやすさ」に関連するデザインだけど、これを「授業では教師がわかりやすく説明することが大事だよね」とまとめてしまうと、本書の主張からずれてしまう。というのも、プレイヤー(生徒)自身が仮説を持ってそれが正しいというフィードバックが得られることにこそ、このデザインの重要な要素があるからだ。結局、プレイヤー=生徒から見えてどう感じるのか、という点が大事。そして、一人ひとりの子に個別対応しなくても、ある程度多くの生徒が「うっかり」学んでしまうデザインは、たしかにありうるはずだ。
面白く読んだ本だけど、じゃあこれを授業づくりですぐに活かせるかというと、いまの僕にはまだ具体案をポンポン出すのは難しそう。ただ、自分の授業にもこれらの要素は何かしらあるだろうから、まずはそれを発見していくところからかな。こういうビジネス書系を読んだのは久しぶりだけど、もう少し成長してまた後日戻ってこようと思える本だった。