挑戦中! ライティングとリーディングのワークショップをどう統合するか?

久々に国語の授業についての記録。以前に下記エントリで書いた「俳句創作と批評」の授業を終えて、10月からはまた通常の「作家の時間」(ライティング・ワークショップ)「読書家の時間」(リーディング・ワークショップ)に戻っている。ただ、これまでと大きく違う点が一つ。それはどの時間に作家をやり、どの時間に読書家をやるかを、子どもたちが選べるようにしたこと。まだ進行中のこの授業、果たしてどうなるのだろう? 自分でも不透明ながら、現時点での振り返りを書いておこう。

小学生にどこまで求める?俳句創作の授業ふりかえり

2021.10.09
今回の写真は北八ヶ岳にある雨池。もみじの名所として知られて毎年賑わう白駒池の近くなのに、とても静かでゆったりできる美しさの池なんですよ。この秋の私的登山ブームで見つけたお気に入りの場所。

目次

そもそもなぜ統合しようとした?

統合しようとした大きな理由は3つ。大きなきっかけは、夏休み中の議論をもとに、9月からラーニンググループ(僕のいる5・6年)の方針で他の授業を新設することになり、国語の授業数が5コマから4コマに減少したことだ。これまでは5コマあったのが4コマに減り、「作家は2コマ、読書家は2コマ、もう1コマは『ことばの時間』」のような配分が成立しなくなったのだ。『言葉の時間』を完全にはなくしたくない。とはいえ、「作家2コマ、読書家1コマ」をずっと続けるのも、「作家1コマ、読書家2コマ」をずっと続けるのもバランスがよくない。だったら、「作家の時間」「読書家の時間」を選べるようにして、子どもが自分で最適なバランスを見つけて時間配分を考えるしかないのではないか…というわけ。

ただ、もっと積極的理由もある。そもそもそれ以前から僕は、子どもたちが「作家の時間」と「読書家の時間」の中で力を伸ばすには、両者を関連づける意識を子ども自身が持つことが鍵だと思っていた。例えば下記エントリで紹介したように、去年受け持った生徒の中で「読んだ本を真似して書く」意識を持つ子は上達も早い。

作家ノートはどう使われているの?ある生徒の場合。

2021.04.04

しかし、今年の受け持ちの子たちにいくらそういう例を示して語りかけても、作家と読書家の時間が分かれているだけで、子どもたちが「作家は作家、読書家は読書家」と勝手に境界線を引くケースは少なくない。この2つの時間を統合することで子どもの中での意識の壁が低くなるとしたら、大きなメリットになる。この問題については、下記エントリの頃に考え始めていて、いくつか統合のためのアイディアも書いている。これらを、今回の機会にいよいよ実行に移そうというわけだ。

「書き手の視線で読み、読み手の視線で書く」をどう実現する? 一学期の授業ふりかえり。

2021.08.17

リテラシー・ワークショップという考え方

では、実際にどうやって両者を統合するか。アメリカの実践現場では、「ライティング・ワークショップ」「リーディング・ワークショップ」を統合した「リテラシー・ワークショップ」の実践がある。詳しくは下記の本にあるけど、これは、Interest・Çhoice・Question・Structureなどの「概念」をcommon threads(直訳すると「共通の筋道」?)として、デモンストレーション・レッスンを通じて読み書きを統合するやり方だ。

この本、僕も入手したのだけど、結局、日々の仕事に追われて勉強時間がなかなかが確保できず、パラパラ読み程度…。もうちょっとちゃんと読まなきゃと思っているところ。ただ、9月のWW/RW便りでこの本が紹介されていたので、参考になります。

読み書きを統合する時間を設定する

http://wwletter.blogspot.com/2021/09/blog-post_11.html

「作家」と「読書家」、実際にどうやって統合するか?

今回、僕はこのリテラシー・ワークショップ形式に挑戦している。10月の一ヶ月間を「説明と描写」ユニットと名付けて、作家の時間も読書家の時間も、「説明と描写」について学ぶ期間とした。具体的に書くと次のような感じ。

共通テキストで「説明」と「描写」について学ぶ

まず個別のワークショップに入る前に、「あの坂をのぼれば」(教育出版6年)を使って、「説明」「描写」について学ぶ時間をとった。そもそもこの概念を導入するところからはじめ、「説明」の度合いが高い文章や「描写」の度合いが高い文章を見つけたり、それらを書き換えたり、それぞれの表現の特徴について学んだり…という一斉授業を展開した。

読み聞かせで「説明」と「描写」について学ぶ

この全3回の一斉授業が終わってからワークショップに入った。子どもたちは「今日は作家/今日は読書家」と自分でその日の活動を選ぶ。でも、ミニレッスンの時間にまだしばらく共通教材を使った。定番教材の「大造じいさんとがん」だ(教育出版5年。光村のとはバージョンが違う)。これを4回にわけて読み聞かせをしながら、やっぱり説明と描写についてフォーカスしていった。

作家の時間と読書家の時間の課題を設定する

今回、作家の時間の課題は「ジャンルは自由、ただし、描写を意識した箇所を入れること」、読書家の時間には、毎日の読書30分(でもまあ、読んでない子が多いんだな…😅)に加えて、「描写を分析する課題」を出した。だから、子どもたちは何を書き、読むのであれ、今回のユニットでは「説明と描写」を意識して読み、書く期間になる。

作家ノートと読書家ノートを一冊に集約する

これまで別々だった「作家ノート」と「読書家ノート」を、より両者の意識が統合しやすいように、一冊に集約した。ただ、読書家ノートのほうは子どもの読書状況を見るためにこれまで集めていたので、その代わりに読書記録カードを配布して毎回の授業後に記入してもらうようにした。

自分がどちらを何回選んだかを一覧できるようにする

細かいけど、毎回の授業の最初に自分がどちらの活動をするのかシールを貼ってもらうことに。「あ、自分はずっと読書家ばかりだな、そろそろ作家やろう」みたいなことに気づいてほしいので。

こういうふうにして、ライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップを統合している。このやり方で、金曜日まででちょうど10回が過ぎた。

やってみて、今のところの成果と課題は?

まだこのユニットは終わっていないので評価は早計だけど、成果もあれば課題もある。どっちかというと、今の所は課題のほうに僕の目は向いてるかな。

成果は、メンター・テキストを使った授業と、ミニレッスンと、個別カンファランスの内容が、より結びつくようになったこと。「説明と描写」というユニットの柱がしっかりと存在するので、生徒にとっても相互を結びつけやすい。今週から授業観察に入っている筑波大学の勝田さんからも、「ジャンルやテーマでなく、機能(描写と説明)でリーディング・ワークショップとライティング・ワークショップを繋いだ結果として、ミニ・レッスンと個人読書/作文の時間が直接繋がるようになった」というコメントをいただいた。このやり方だと子どもの自由度(どんなふうに書くか、ミニレッスンを取り入れるかどうか)は低下するのだが、読み書きを関連づけて学べる点で、効果はけっこうあると思う。実際に、子どもの作家ノートを見てもそれは感じる。ただ好きに書くよりも、「説明と描写」を意識して読み書きすることで、ぐぐっとレベルアップしていそう。

一方の課題も明確。それは、読書時間と読書量の減少だ。今のところ、子どもが選ぶ活動は明らかに作家に偏っている。これまで全10回のワークショップで、平均して6対4か7対3で作家の時間のほうが多く、中には10回全て作家の子もいるほどだ。シールがなかったら過去の自分の選択が可視化されないので、もっと偏っていただろう。これもまあ分かる話だ。アウトプットすべきものが明確な作家にばかりつい意識が行き、なかなか自分でコントロールするのが難しいのだろう。そのぶん家で読んでくれればまだ良いのだけど、風越の子は、残念ながら「宿題はやるもの」という意識の子が多くはなく、毎日30分の読書の呼びかけも、読書記録カードを見る限り、やっている子は実際のところ少数にとどまっている。

ただ、読書は野球でいう素振りのようなもの。語彙の獲得も読む時の流暢性やスタミナの獲得も実際に膨大に読むことで身につけていくのだ。もしも読書時間と読書量の減少が続くようなら、長期的に見て書く力の向上にも結びつきにくい。だったら、このシステムも見直さないといけないな。今はまず、子どもたちが当たり前に本を読む環境をどうしたら作れるのか。読書パートナー、ペア読書、ブッククラブ、ブックトーク、読み聞かせなど、手札は色々とあるはず。56年だけでなく、異学年での働きかけもあると思う。限られた時間で何をどうするか、ライティングとリーディングのワークショップを統合するには、これからの試行錯誤が大事になりそうだ。

 

 

この記事のシェアはこちらからどうぞ!