[読書]正直、低調だった2023年6月の読書。その中で印象に残ったのは朽木祥『かはたれ』

2023年度6月は本当にヘロヘロの月。もともと「作家の時間」の出版の月だったので、印刷をするのと子どもたちの作品にコメントを書くので休日出勤もあったのだけど、それ以上に、身体的にも精神的にも疲労がたまる月だった。毎年のことだけど、6月は子ども同士でも色々とある。毎日13時間は学校にいる感じになり、帰宅して寝る前の30分読書も寝落ちしてできずに終わる日も少なくなかった。というわけで、6月の読書量は少ないけど、まあ、しゃーない。次行こう、次。

目次

美しい映像が目に浮かぶよう。朽木祥『かはたれ』

そんな中で読んで良かったのが、朽木祥のデビュー作『かはたれ』。散在が池に住む河童の子供・八寸が、猫に姿を変えて人間の世界にいき、そこで出会った少女・麻と交流する話。麻と八寸のやりとりも微笑ましいものがあるが、そこよりも、麻の亡くなった母親が、キーツのHeard melodies are sweet, but those unheard are sweeterを書き写してノートに綺麗なものを一緒にたくさん書いたり、かわたれ時を「いろんな魔法が一番美しくなって解ける、儚い時間」と教えたり、そのお母さんの死後に麻が「きれいって、誰かがそういうから綺麗なの?」と美しいものがわからなくなったり、お父さんがその麻を思う長い手紙を書いたり….。そういう家族の交流がとても美しい作品だった。第35回児童文芸新人賞など、色々な賞を受賞したのもうなずける作品。惜しむらくは、ちょっと子どもにはスローテンポかな?と思うところ。でも、映像的なエンディングも含めて堪能した作品。

アンラーニングすることの大切さ

孫泰蔵『冒険の書 AI時代のアンラーニング』は、各所で評判を聞いて手に取った本。読んでみたが、やはり面白かった。ジョセフ・ランカスターのモニトリアル・システム、フーコーの監獄、アリエスの「こども」の誕生論といった近代の定番テーマ、ロックやルソーの教育思想、フィクションとしての「能力」「才能」に支えられたメリトクラシー社会の成立をたどりながら、そこから離れたこれからの社会や教育のスタイルを構想する本。これまでの学校や社会の歴史や色々な思想家の言葉を踏まえて、それらとの対話を通じて、筆者が「学び」についての自分の考えを組み立てていくストーリーで、こういう本が好きな人は、徹底的に好きそう、という本だ。ただ、色々な哲学者や思想家の入門的内容が散りばめられて著者のストーリーが組み立てられている…という点では、こう書くと失礼かもしれないのだが、一昔前の自分の現代文の授業のようなうさんくささはある。

個人的に一番面白かったのは、終盤の次の一節。

アンラーニングをうながすには探究する環境が多様であることが大事であり、同じような人たちの集まりはアンラーニングには不向きだ。(p322)

これは、まさにそうだなあと思う。同じ思想の人たちが集まると自己強化のループにはまって、アンラーニングから遠くなってしまうのだろう。これは風越にも言えること。こうならないようにするにはどうしたらいいのかな。

ところでちょっと笑ってしまったのだけど、「アンラーニングが大事だ」という考えの人が集まってしまったら、その考えをアンラーニングできるのだろうか…?

ワークショップとは何かを問う本でもある

7月1日(土)に東京での研修会でお話しさせてもらうことになっていたこともあり、今月はナンシー・アトウェル『イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室』を再読した。とにかく色々と読み応えがある本なのだが、今回は「ワークショップとは何か?」という問いにつながりそうな次の2つの断章を引用しておく。

ワークショップで読み書きを教える教師が押さえるべきポイントがあります。それは、生徒自身が自分の学びの質を見定めることを評価の中心に据える、ということ。そうでなければ、私がそれまで言ってきた「書き手や読み手として考えて行動しなさい」ということを、私自身の評価のやり方が裏切ってしまいます。(p314)

ワークショップの第一の特徴は、この自己評価にあるのだろう。そして、次のような、それぞれの個性の発現を助けるような環境整備もまた、ワークショップの特徴である。これは、自己評価を柱とすれば、自分の伸びる方向を自分で決めることになるので、当然このようになっていく。

ライティング/リーディング・ワークショップは、この海の水のような環境です。私たち教師はこの環境を生徒のために整えます。生徒たちを、多様な物語や自己表現のあり 方の中にひたすと、一人ひとりから鮮やかな色と模様が現れます。すべての子どもたちを一律に灰色の石として教えるやり方やプログラムとは正反対です。(p343)

アトウェルはこの本で「ワークショップとは何か」という問いに直接的にはあまり答えていないが、こういう断章に彼女のワークショップ観が見えるし、決して彼女が厳しいだけの先生でないこともよくわかる。

学習法についての読みやすい本

Twitterで寺田昌嗣さんがおすすめしていたので読んだのがこれ、菊池洋匡『小学生の子の成績に最短で直結する勉強法』。検索練習、分散学習、インターリーブ(交互配置)などの学習法や、漢字なら定番の「部品に分ける」まで、小学校の勉強に紐づけて学習法を解説する本。

以前に読んだヤナ・ワインスタイン他『認知心理学者が教える最適の学習法』と内容はかなりかぶるのだが、こちらは小学生をもつ保護者がターゲットなのだろう、だいぶとっつきやすい。

ちなみに同じ著者の菊池洋匡『小学生の勉強は習慣が9割』も読んだのだが、こちらはSMARTな目標設定や外発的動機付けの活用による習慣化について書いた本。1さつめと同じくそう目新しい情報はないのだけど、コンパクトによくまとまっている。この程度は保護者と共有されているといい。

絵本からは『ジュマンジ』『リンドバーグ』

今月読んだ絵本からは定番の2冊を。まずは、クリス・ヴァン・オールズバーグ『ジュマンジ』。ボードゲームの世界が現実になってしまうこの設定、子どもたちは大好きだろうな。オールズバーグは、僕にとっては西風号の作家なのだが、その次くらいに好きかも。「作家の時間」のメンター本としても良さそう。

トーベン・クールマン『リンドバーグ 虎とぶネズミの大冒険』も今月初めて読んだ本だが、こちらは絵の精密さに惹かれる。人類の飛行の歴史が一冊にぎゅっとまとまったような構成も巧みだ。

今月の読書はおおむねこの辺まで。気がつくと山の本を一冊も読みきれなかったのがちょっと寂しい。7月はもう少し読めていますように…。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!