[読書]「いじめを増やす環境要因」に関する実証データが豊富。荻上チキ「いじめを生む教室」。

荻上チキ「いじめを生む教室」は、そのタイトルの通り、「いじめを生みやすい教室の要因」を分析し、いじめを減らす環境をどう構築するかを提言している。いじめにまつわる様々な俗論を排して、これまでの調査や研究成果に基づいて論じている点が特徴で、「いじめをおこしにくくする」ための教員必読の本だと思う。

「どうすればいじめは増える?」という問い

この本が優れているのは「どうすればいじめは減るのか」ではなく「どうすればいじめは増えるのか」という問いを出発点においている点。学級会や道徳の授業でしばしば見られる前者の問いは、心掛けとか周りの人の態度とか、要するにいじめを「個人」の問題にしがちである。ところが、問いの形を変えるだけで、「どういう状況だといじめは増えやすいのか」という環境要因に意識が行く。この問いにとても力を感じた。

環境要因へのアプローチ

そして、筆者がいじめにまつわる様々なデータや、いじめを分析した先行研究に基づいて議論を進めてくれるのも、とても勉強になる。例えば、日本のいじめは他国に比べても圧倒的に「教室で」が多い。これは、彼らが休み時間においてすら行動の自由を奪われ、ストレスが多い環境に置かれており、そのストレスのはけ口として特定の生徒が選ばれている可能性が高いことを意味する。そうすると、実は教室でのいじめ問題を減らすには、休み時間の流動性を高めることが有効になる。こんな風に、環境要因にアプローチしていくのだ。そして、様々な調査から、結局のところ次のような教室環境を整備し、子どものストレスを減らすことで、いじめは起きにくくなるという知見を導いていく。

  1. わかりやすい授業をする
  2. 多様性に配慮する
  3. 自由度を尊重する
  4. 自尊心を与えていく
  5. ルールを適切に共有していく
  6. 教師がストレッサーにならず、取り除く側になる
  7. 信頼を得られるようにコミュニケーションをしっかりとる

詳しくは、この本を読んでください!

効果的な道徳教育ってなに?

いじめ対策として一部の人が言いたがる「道徳教育の充実」。でも、この本の、道徳教育が「いじめをしてはいけない」「人にはこうしなければいけない」という特定の価値観を強制するものであればあればあるほど、そこから逸脱した者を生み、その逸脱者がいじめの標的になりやすい、という指摘は面白かった。実際に、同調圧力が強かったり特定の道徳観を押し付けたりする教室ではいじめが多い、という調査もあるそうだ。では、効果的な道徳教育とは何だろう?

いじめ加害者の典型的「言い訳」パターン

また、非行社会学の「漂流理論」を用いていじめの加害者の典型的言い訳パターンを分類しているのも興味深い。人は、自分が抱く罪悪感を中和するために、5つの「中和の技術」を用いるのだという。それが「責任の回避」「危害の否定」「被害者の否定」「非難者への非難」「高度の忠誠への訴え」である。こうしたパターンは、具体的には次のような「言い訳」として現れる。

  • いじめなければ自分がいじめられるから(責任の回避)
  • いじめではなくて遊んでふざけていただけ(危害の否定)
  • 相手に悪いところがあるから懲らしめていただけ(被害者の否定)
  • 誰だっていじめをしている。あの子だって(非難者への非難)
  • クラスのノリを乱す方が悪いんだ(高度の忠誠への訴え)

こうした「言い訳パターン」を教師がしっかり認識して、子どもの中和の技術に流されないことが大事、とこの本では書かれていたが、一歩進んで、こういうパターンを普段から生徒と共有しておきたいなあと思った。こうやって言語化して共有することで、いじめは減らせるのではないかと思う。

著者の「本気」を感じる本。「知識」を身につける一冊

いじめに関する本、僕も仕事柄、多くはないけど読んできた。その中では、日本型学級制度にいじめの原因を求める内藤朝雄の理論が興味深いけど、分析から一足とびに学級解体を訴える彼の主張は、現場の一教員としてはアクションが起こしにくいところがあったのも確か。

その点、この「いじめを生む教室」は、一人の教員としてできる知見も多い。また「いじめを先生に言ってもかえって悪化する」イメージを持つ人も少なくないが、この本で紹介された調査では「なくなった」「少なくなった」ケースが6割強を占める。少なくとも、いじめへの大人の介入は効果的なことが多いのだ。そういう点で、教員の動き方って大事だなあと思う。

必要なのは、正しい知識に裏付けられた、解決しようという気持ち。いじめを減らすために必要な「知識」を、大人たちに提供してくれている本だ。「すべきことは山積みです。共に、社会を前に進めていきましょう」という「あとがき」の言葉に、著者の本気を見ることができる。共に、前へ行きましょう。

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