[読書]「文章題ができない子」のつまづきを丁寧に分類する。今井むつみ、他『算数文章題が解けない子どもたち』

僕は今、勤務先の軽井沢風越学園で、5・6年のラーニンググループを担当している。で、直接教えているわけじゃないんだけど、気になるのが「算数ができない子」。算数は、得点ではっきり結果が見えてしまうぶん、しんどい子にはとてもしんどい科目だ。しかもご存じの方はご存じの通り、小5って、割合や速さなどに代表される、算数がとても難しくなる学年である。

で、算数の文章題ができない時によく槍玉に上がるのが、「文章題の読解力」。何でもかんでも国語科のせいにされるのは勘弁なのだけど、国語科としては、もうちょっと「できない子のつまづきポイント」について知りたい。そこで読んでみたのがこちら、今井むつみ・杉村伸一郎・中石ゆうこ・永田良太・西川一二・渡部倫子『算数文章題が解けない子どもたち: ことば・思考の力と学力不振』である。タイトルや副題にあるように「解けない子たちがどういう思考回路をたどっているのか、どこにつまづいているのか」にフォーカスしているので、算数でのつまづきを見とる視点になる本だ。

独自に開発したテストの分析が中心

本書は、筆者たちが開発した「ことばのたつじん」「かんがえるたつじん」という2つのテストの設計・実施・分析の報告である。そのせいか文体も一般書というよりはやや報告書チックなのだが、内容は面白い。2つのテストの結果を踏まえて、「できない子」がどこにつまづくのかを丁寧に類型化しているのだ。それに冒頭の、そもそも「全国学力調査」をはじめとして算数や国語のテスト、知能テストも山ほどあるなかで、なぜわざわざ新しいテストを開発したのかというくだりからして面白かった。筆者たちの「生きて働く学力を測るテストを作るのだ」という信念がうかがえる。

個人的な注目ポイントはこちら

この調査では、そんな問題開発の意図から始まって、実施の結果、そして誤答の基本的パターンの分析まで事細かに書いてあるのだが、それをここに詳しく書くとネタバレにすぎるので、ここでは個人的な注目ポイントを少しだけ書いておこう。

  1. 子どもは、文章中の数字を、自分の計算のしやすさのために勝手に変えてしまうことがよくある。
  2. 「1」に、序数詞の「1」(1個、1cm…などの「1」)に加えて、「全体」や「単位」を表す比較の基準としての「1」(割合や分数で全体を「1」とするときの「1」)があること自体が、多くの子にとってすでに難しい。序数詞の「1」が強烈なスキーマとなって、後者の「1」を学習できない。
  3. 算数や国語の学力の説明に結びつくのは、「空間や時間を説明する言葉の運用能力」である。
  4. 高学力層の子は、自分にとって重い認知的処理に、何らかの方略で工夫して推論を働かせることができる。低学力層の子は、負荷に負けて推論ができなくなってしまう。

上の①や②の話は、これまでも聞いていたことのある話だが、実際の事例をたくさん見せてもらえて納得。言われてみると、「1」に複数の意味があるの、めっちゃややこしいよね….。また、今回の読書で一番面白いなと思ったのは③の部分。「空間」や「時間」を相対的に説明する言葉の運用能力(「帽子が椅子の左にある」や「7月14日の2週間後」などの表現)が、算数や国語の学力を説明するっていうのが意外すぎた。でも、どうしてそうなのかは、最後(p180あたり)の説明を聞くと納得します。興味を持った方はぜひ読んでみてください。

なお、空間や時間を表す言葉に関する小ネタとしては、空間では自分の視線の方向を「前」を意味する前が、時間軸だと「後ろ」を意味してしまうという話も面白かった。「自分の2人ぶん前の人」の「前」は、自分の視線の方向を指すのに、「2週間前」の「前」は自分にとっては後ろ側の「過去」を表すの、確かに「前」や「後」という言葉を習ったばかりの子からしたら、混乱の元でしかないね…。

「読めない」を丁寧に紐解く一冊

というわけで、本書は、こういう学力と言葉に関する小ネタを挟みつつ、全体としては「文章題が読めない」の「読めない」の内実を、テストの分析を通じて丁寧に紐解いている。まあ、分析手法の妥当性については僕はコメントできる立場ではないので、そこは専門家の方に評価をお願いしたいが、論述の進め方はとても手堅い印象だ。

その「読めない」の内実は、知識が断片的でシステムになっていなかったり、誤ったスキーマを用いてたり、認知処理の負荷に対して対処できなかったり….。全部で7個に分類されたこの原因は、算数ができない子が「どこでつまづいているのか」を僕らが見とる参考になるはずだ(もちろん、現実にはこの原因は絡み合っているので、そう単純な話ではない)。

ただ、正直な気持ちとしては、全体として子どもたちのつまづきポイントがわかればわかるほど、「学習指導要領の範囲の算数ってそもそも小学生がやるのには難しすぎるんじゃないの?」という気にもなってしまう。この本では「1」を理解する難しさが取り上げられていたが、僕の知る範囲では「等号(イコール)」の意味が説明できない子も少なくないし、「わかってないけど作業だけできている」ことが実はとても多そう。もちろん優秀な子にはそんなことないんだろうし、その他の子にしても「作業だけできる」段階が「わかる」段階の前にあるのだと割り切れば良いのかもしれない。でも、そもそも算数で求められている概念的理解が「背伸びさせすぎている」んじゃないかなあ。その結果、実際には多数の小学生が小学校の算数の段階で取り残されてるんかも…。

具体的にどう指導すればいい?

では、「そういう取り残された子たちに、具体的にどのような指導法が良いのか」ということは、残念ながら本書の守備範囲外である。前書きによると、これについては別に本が用意されるらしい。本音を言うと、この本でそこまで書いてくれると嬉しかったな…と思わなくもないけど(笑)、一章で収まるボリュームではないそうなので、新刊を楽しみに待つことにしよう。

なお、本書のテーマ「算数とことば」については、広瀬友紀『ことばと算数 その間違いにはワケがある』も最近出たばかり。こちらはきっと『ちいさい言語学者の冒険』的なノリで、お子さんの誤答サンプルが分析の中心かなと思うが、こちらも読んでみたいところだ。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!

1 個のコメント

  • 算数の文章題についてはなかなか簡単には書けません。しかし,ちょっとだけ書いてみます。
    文章問題ができないのを教師は国語の読解力のせいにするのは短絡すぎます。文学好きな児童が算数の文章題ができるかというとそう簡単ではないのといっしょです。
    国語の読解力と算数の読解力は似ているようでちがう部分が多いのです。英語が読めても日本語に翻訳できるとはかぎらないのとおなじです。
    算数の文章題は「算数語」というコトバで書かれているので,その算数語を式に翻訳しなければ立式できないのです。
    「たし算かひき算か」「かけ算かわり算か」を読み解くには算数語の翻訳方法をおしえるしかないと思います。
    割合を例にとって説明します。
    「お年玉に3000円もらいました。兄はボクの1.5倍お年玉をもらいました。兄さんはいくらもらったでしょうか」という問題があります。このとき3倍(割合)の前にある「の」がキーポイントになっていることを児童に理解させる必要があります。基準になる量(元にする量,1とみる量)が何かをはっきりさせないと比較できないからです。
    次に「お年玉3000円」「兄はいいなあ」などと余計な想像をかきたてられるのが子どもの特徴です。だから文章題を単純化する方法をおしえる必要があります。
    3000円をもらったのは兄とボクのどちらかをはっきりさせます。ボクと3000円はむすびつきます。すると「兄は3000円の1.5倍もらった」と単純化できます。1.5「倍」とあるのでこれはかけ算だとわかります。
    このように算数語を式に翻訳する方法がわかれば立式から計算式,答えと導くことができます。