風越では今年から「アドベンチャー・プログラム」が導入されている。学校を離れた非日常空間で協力やチャレンジを学ぶアウトドア・プログラムで、KAIさん(甲斐崎博史)を中心に運営されている。内容は登山、キャンプ、カヌー、ロック・クライミング・スノーシューなど、5・6種類くらいのプログラムから子どもが選んで参加するのだが、僕も、春の登山(浅間山の外輪山・黒斑山)、秋の登山(水ノ塔山〜東篭ノ登山〜池ノ平湿原〜見晴岳〜地蔵峠の縦走プログラム)、そして水曜日にはロック・クライミングと、5・6年のスタッフとしてすでに3回引率している。そのロック・クライミングでちょっと面白い経験をしたので、雑記としてここにメモしておく。
それぞれのチャレンジをする子どもたち
ご覧の通りの絶壁に、子どもたちも最初は「誰からスタートするかな?」とやや様子見。でも、いざ登り始めると、登るんですねこれが。ボルダリングの経験があって「するする」という形容がふさわしいくらいのスピードで登ってしまう子もいれば、20分から30分くらい時間をかけて、一つ一つ、ゆっくりと登っていく子もいる。「みょん!みょん!」と面白いかけ声をつけて登る子も。気のせいか、国語を苦手にしている子たちの多くが活き活きしてるように見えたぞ….(笑)
もちろん、みんなが上まで行けるわけじゃない。でも、それぞれのチャレンジをしている。例えば、レベル1のコースで30分くらい粘ったけど途中断念したある女の子も、登れなくてがっかりかと思いきや、「でもすごく楽しかった。5分くらいに感じた。あっという間だった」とかなり充実感を得た顔をしていた。その子は、2回めも同じコースを選んで、やはり、前回と同じかちょっと上のところで力尽きて断念したのだけど、「でも、あそこまでは前よりずっと早く行けた」と満足げ。その子なりの目標を設定して頑張ってるのに感心した。「上に行けたかどうか」だけじゃない、その子達の中の小さなチャレンジが、きっといっぱいあるんだろうな。ふだんの授業でも、そうかもしれない。「書けたかどうか」だけじゃない無数のチャレンジを、ちゃんと見られるようにしたい。
「あすこま、頑張ればできるよ!」
で、ただ見てるのは寒いだけなので、当然僕も登ったわけです。最初はみんながまだ登るのを様子見だった時に「失敗例を見せる感じでいいや」と思って率先して登ったレベル4のコース(全部でレベル5まで)、これは15分ほどで早々に断念。2回目は、何人もの子がクリアしていたレベル2のコースを、登り切るつもりでチャレンジしました。が、体が重い、体が硬い、そして足があがらない…。「あそこに手をかければいける」と見定めても、そこまで手が伸びなかったり、岩をつかんでもすぐに指先が力尽きて落ちたりで、なかなか上に進めない。ちょっと登っては落ち、ちょっと登っては落ち。ビレイヤー(下でロープを持って安全確保してくれる人)のKAIさんに助言を求めながら、じりじりと登っていく。でも、そのぶんじりじりと握力もなくなっていく…。
そういう時、そのコースを登りきった子が「あすこま、頑張ればできるよ!」と何度も言ってくれたのが、とても嬉しかった。その子、実は国語が苦手な子で、その子が僕に「頑張ればできるよ!」って声援を送ることは、国語の授業やってるかぎりは絶対にありえないんだよね。でも、その子に声援を送られながら、こういう逆転現象はいいなあと心底思った。あとから思ったのだけど、自分が国語だけ教えている中高では、この逆転現象は起きにくい。でも、風越では逆転現象の種がいたるところに転がっている。このロック・クライミングもそう。ラボでのものづくりもそうだ。この夏に僕はラボで一週間かけて「磨きの匠」をとったのだけど(ラボにはそういう技術認定制度がある)、この「匠」をたくさんとっている子も、見事な作品を作っている子も、風越にはごまんといるのだ。こういうのはいい。そういう、僕の苦手なフィールドで子どもたちと作る関係性が、まわりまわって国語の授業にも影響してくると思うし。
最後は、力尽きて残念でした…
声援を受けたこともあって、なんとか上まで行きたいと必死だった。こっちのコースを行くといいのかな、とか、体をこうひねるといいのかな、とか試行錯誤して、KAIさんも「おお、あすこまさんが新たな戦略を編み出している!」と声に出して応援してくれた。でも、悪戦苦闘すること1時間….。手の皮も何箇所か向けて、ついに全く握力がなくなってしまい、力つきて降りることを宣言しました。一時間以上も僕の体重を支えてくれたKAIさんにお礼を言うと、あとはもう立ち上がれない。そのままへたりこみそうになって、なんとか休憩エリアへ。木の根元に体を預けて保温ボトルとレモネードの粉末で休もうと思ったら、握力ゼロでスティック状の粉末袋も開封できないし、保温ボトルの口も開けない(笑)「あすこま、頑張れ!」と声援を送ってくれた例の子に手伝ってもらって、やっと一息つけました。「介護されてるみたいだね」と言いながら….。
とまあ、最後は登りきれずに残念だったけど、楽しい一日でした。登山と違って達成感がなかったので「すぐにリベンジ!」という気持ちにはなれないけど、あの女の子みたいに、自分なりの目標を設定してチャレンジするのがいいのかな。なお翌日、腕が肩の上のほうまであげにくかったり、手のひらの皮が剥けたままでひりひりしたりしたのは、言うまでもありません…。