ようやく再浮上?楽しい出会いの多かった、2023年10月の読書

8月、9月と続いていた読書生活の低迷期だが、10月上旬にテーマプロジェクトのアウトプットが終わり、ようやく浮上。寝る前の30分読書の習慣も取り戻すことができて、やっと呼吸ができる感じになってきた。しかも、これから書くように、今月は良い本との出会いが多かった。ようやく気持ちよく読書エントリを更新できます(笑)

目次

今月のベストは安房直子コレクション!

安房直子といえば教科書にも掲載されている「きつねの窓」が有名だが、僕は幼い頃に読んだ「青い花」や、大人になってから読んだ『ハンカチの上の花畑』の印象が強い。どの作品をとっても一枚のメルヘンチックな絵のような作品の枠に、たとえようもない喪失感を漂わせる書き手で、そのさびしい感じが好きで、今回、全集を読みたいな、と思った。

それで手に取ったのが、「安房直子コレクション」第1巻の安房直子『なくしてしまった魔法の時間』である。冒頭の「さんしょっ子」がいい。少女・すずなに片思いをする三太郎と、その三太郎に片思いをするさんしょっ子。さんしょっ子の悲しくも美しい最後が印象的な作品だ。縄跳びで夕日の国に行く「夕日の国」、魔物が信頼していた少女に片手を切り落とされてしまう「小さいやさしい右手」など、珠玉の作品集。この一週間は、1日に一話、この本を丁寧に読み進めた。ため息が出るほどの美しさだ。安房直子コレクションは、全7巻。一月に1巻、読めるだろうか。でも読んでみたいと思わせる1巻目だった。

美しさを問うというより、美しさそのもの。

今月読んだ本では、エッセイの矢萩多聞・つた『美しいってなんだろう?』も同様に印象深い。最初の「はじまり」を読んだだけで、あ、僕はこの人の文章が好きだと確信し、続きを楽しみに少しずつ読み進めた。インドのカトマンドゥについて書かれた章から始まるその構成のせいかもしれないが、やわらかな日差しが降り注ぎ、風が吹いてくる文体。娘さんのつたさんとの、贈答歌のようなやりとりもいい。美しいってなんだろうという問いに鋭く切り込むというより、いくつものテーマに思いを寄せる二人の文章を読んでいるうちに、美しさそのものにいつの間にか出会っているような。これは本当に良い本です。もっと早くに出会っていたら、『中高生のための文章読本』に入れたかったかも。

お仕事系読書は評価を正面から扱ったこの本

今月のお仕事系読書は八田幸恵・渡辺久暢『高等学校 観点別評価入門』。学習指導要領の観点別評価のポイントを押さえつつ、単にそれを受容するだけでなく、批判も交えつつ、国語という教科の枠にとどまらない評価の問題を正面から取り扱っている。詳しくはブログの別エントリに書いたので、そちらをご覧いただきたい。

[読書]自分の立場を示しつつ、読者に考えを促す。八田幸恵・渡邉久暢『高等学校・観点別評価入門』

2023.10.21

ダムの底に沈む村の最後の日々を切り取った写真絵本

今月は、絵本も10冊くらい読んだ。ユニークだったのは、下田昌克『死んだかいぞく』。死んだ海賊の遺体にいろいろな生き物が群がってくるシュールな展開で、「この先どうなるんだろう?」と予想したくなる作品。また、宮西達也『サカサかぞくのだんなキスがスキなんだ』もよくぞここまで回文で通した!と膝を叩きたくなる快作だ。でも、それ以上に強い印象を残したのは、大西暢夫『おばあちゃんは木になった』。かつてあった徳山村がダムの底に沈む最後を迎えるときに、そうと知りつつも、そこで生まれ育った老人たちが過ごす最後の日々を、モノクロ中心の写真で切り取っていく。電気もガスもない村の最後の日々を彩る自然の美しさを、時折入るカラー写真が一層鮮やかに映し出す写真集である。実はこの絵本、僕が選んだのではなく、風越の子に「読んで」と言われて出会ったもの。風越では、こういう偶然の出会いもある。

今月の「山」本は2冊!どちらも満足の逸品でした。

今月の山の本は2冊。どちらも楽しく読めた本だった。中でも池内紀『ひとつとなりの山』は、大河原峠の山小屋「峠の小屋・Adamo」で見つけた本。「一つとなり」、つまり、有名な山の一つ隣にある、あまり知られていない山に登るというコンセプトの山旅エッセイ。力みのない、さらっとした文体で、まるでお蕎麦を一枚ぺろりと平らげるように読めてしまう、その手軽さがいい。文章の末尾も変に凝っていなくて、あ、ここですとんと終わるこの感じ、好きだなと思う。ドイツ文学者の池内紀は、山のエッセイのアンソロジーも編んでいるが、自身も山旅を綴る名手なのだ。

串田孫一『若き日の山』は、言わずと知れた山の名随筆家・哲学者の串田孫一が若き日(といっても30代後半)に刊行した初のエッセイ集。初版1955年。真っ直ぐな抒情性や思索が今となってはキザな風で鼻につく人もいるかもしれないが、僕は好きだ。やはり1960年に旧版初版が刊行された山口耀久『北八ツ彷徨』を彷彿とさせる文体で、同じ時代の空気を感じる。僕を山に誘ってくれるのは、こういう本である。

とまあ、振り返っても、今月は久しぶりに満足感のある読書ができた月だった。中でも安房直子『なくしてしまった魔法の時間』と矢萩多聞・つた『美しいってなんだろう』は、年間でも数少ない10点中9点の作品で、良い出会いだったと思う。11月はまた繁忙期になりそうでちょっと心もとなくもあるが、でも、冊数は少なくとも楽しい読書生活を送りたい。多忙に負けず、どうしたら充実した読書生活を送れるか、考えていきたいな。

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