リーディング・ワークショップの公開授業でいただいた質問にお答えします(2/2更新)。

目次

お答えした質問の一覧とリンク

  1. こちらで事前に用意したFAQ (11/19更新)
  2. 授業の目的に関する質問(11/22更新)
  3. 選書の基準に関する質問(1/10更新)
  4. 動機付けに関する質問(2/2更新)

長らく更新の間があいてしまいました。数年前に患っていた持病が悪化し、先週はちょっとブログ更新どころではありませんでした。学校も欠勤続きだったのですが、同僚のサポートのおかげで教育研究会でリーディング・ワークショップの公開授業ができ、ほっとしています。

リーディング・ワークショップ、通常の国語の授業の枠組みでやるにはなかなか勇気がいると承知はしていますが、提案性のある公開授業を、と思って取り組んできました。ご来校くださった皆さま、ありがとうございました。

研究協議会の場で「時間の都合で答えられなかった質問には、ブログでお答えします」と話したとおり、明日以降、いただいた質問について、こちらで順次お答えしていこうと思います。一回ではお答えしきれませんが、その都度、新たにエントリを追加することはせず、こちらのエントリを順次更新していく形にします。追記する際にはツイッターとfacebookで更新情報を流しますので、そちらをご覧下さい。

なお、写真は以前のリーディング・ワークショップの授業のもので、公開授業当日のものではありません。

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まずは、こちらで事前に用意したFAQ (11/19更新)

まずは、事前にこちらで資料集に用意しておいた「想定問答」から。

読書の授業をしている理由は何ですか?

読む力は読むことによってしか身につかないのに、全員で一つの教材を何時間も書けて読むだけでは、読む量が圧倒的に足りないと思ったからです。また、この授業形式でも、学習指導要領には十分に対応できると思います。

参考)学習指導要領・国語総合 読むこと
ア 文章の内容や形態に応じた表現の特色に注意して読むこと。
イ 文章の内容を叙述に即して的確に読み取ったり,必要に応じて要約や詳述をしたりすること。
ウ 文章に描かれた人物,情景,心情などを表現に即して読み味わうこと。
エ 文章の構成や展開を確かめ,内容や表現の仕方について評価したり,書き手の意図をとらえたりすること。
オ 幅広く本や文章を読み,情報を得て用いたり,ものの見方,感じ方,考え方を豊かにしたりすること。

[読書] 個別読書の研究についての基礎資料!Gambrell, et al. (2011) The Importance of Independent Reading

2017.10.31

[読書] 実践者必携、研究にもとづいたリーディング・ワークショップの提案。Miller & Moss. No More Independent Reading Without Support.

2017.09.26

[読書] 読書教育の重要性と方向性を明確にする一冊。猪原敬介『読書と言語能力』(1)読書教育編

2016.09.21

たくさん読むだけでは力はつかないのではないのですか?

たしかにそうですが、読まないとなおさらつかないのではないか、と思っています。特に高校生の不読傾向は各種調査でも明らかなので、授業時間中にじっさいに読む時間を確保する必要性を感じます。なお、リーディング・ワークショップでは教師の介入がありますので、「読むだけ」でもありません。なお、英語圏のある研究では、たくさん読む「だけ」でも、他の読みの教育と同等程度の効果はあり、他の様々な働きかけによってさらに効果を高めることが示唆されているようです。

読書教育の課題は高校生の「読書クライシス」にあり。

2017.01.08

手応えは感じますか?

多くの生徒はこの授業に積極的に取り組んでくれていますし、図書館の貸出数や口頭で答えた読書量は増えているので、その点では手応えを感じています。しかし、それが実際に読む力に結びつくかどうかは、直感的には結びつくだろうと思っていますが、まだ確証はありません。生徒がこの時間で何を学んでいる/いないのか、今後研究をする予定です。

生徒に聞いてみた、リーディング・ワークショップで役立つ要素とは?

2017.10.20

ミニ・レッスンでは何を教えているのですか?

ミニ・レッスンで教えることは、リーディング・ワークショップに関する本(参考文献)を参考にしつつ、生徒のカンファランスや記録用紙を見て決めています。これまで10回のミニ・レッスンでは、次の内容を扱いました。ミニ・レッスンで教えたことを生徒がどのように保持し、使えるようにするかという点が、まだまだ課題です。

リーディング・ワークショップにとりくむためのブックリスト

2016.11.14

一学期(5/12-6/7)
(第1時)目標をたてる/読者の権利10か条
(第2時)点検読書
(第3時)読むスピードを制御する
(第4時)飛ばし読みのレッスン
(第5時)記録をつける

二学期-1(9/11-10/3)
(第1時)選書のヒント
(第2時)小説を読むことの価値
(第3時)リーディング・ワークショップでやっていること
(第4時)関連づける
(第5時)時間をつくる

生徒との会話(カンファランス)では何を聞いていますか?

主に、「生徒がその本を楽しく読んでいるか」のチェックと、内容理解の簡単な確認です。どんな内容なのか要約してもらうこともあれば、好きなところを聞くこともあります。参考にしているのはナンシー・アトウェルのカンファランスです。

試行錯誤中、リーディング・ワークショップのカンファランス。

2017.05.26

生徒の邪魔? 有意義? リーディング・ワークショップのカンファランス

2017.10.03
教育研究会で配布した資料には、カンファランスのやりとりの文字起こしを添付しました。

どのように評価していますか?

毎回の生徒との会話(カンファランス)の中で評価したり、「リーディング・ワークショップの記録」や最後の自己評価を読んで評価したりしています。成績という意味でしたら、記録用紙の提出や最後の振り返りの提出点のみにとどめています。目標の質や読んでいる本の内容では成績に差をつけません。

リーディング・ワークショップの他にはどんな授業をしていますか?

今年は、全授業時間の3分の1程度をこのような読書の授業にあてる予定です。残り時間は、(1)教科書を使った一斉授業での文章の読み解き(芥川龍之介「羅生門」や清岡卓行「失われた両腕」などの定番教材)、(2)野矢茂樹氏「論理トレーニング」を使った論理の把握の訓練、(3)ライティング・ワークショップ形式での作文の授業に使います。

ふだんの授業とはどのように関連づけていますか?

現状では、一斉授業とリーディング・ワークショップで使い分けています。たとえば小説を読む場合、リーディング・ワークショップでは小説の世界に没頭して読み進めることが大事だと考えていますが、一斉授業では、逆に分析的に読みます。ふだんの読書では無意識のうちに印象を形成するような「語り手」の機能などの要素について話がしやすいのが、一斉授業の良いところだと考えています。

読書会やビブリオバトルはしないのですか?

最近の読書教育は、読書会やビブリオバトルのように「交流」に重点を置いたものが多いですね。もちろんそれにも価値を感じますが、私の場合は、まず量を読ませたい、多くの語彙に触れさせたい、授業中に読む時間を最大限取りたいと思っているので、個別読書を中心に行っています。個別読書の中で読書会を行えると良いなと思って呼びかけているのですが、なかなか人数が集まらないのが悩みです…。

何が一番大変ですか?

生徒たちの年代の読者が読む本を日々読むことです。全て読むことは到底無理ですが、彼らが読んでいる本をある程度は知らないと、彼らの読む力や好みを大雑把に把握することもできず、次にどんな本を薦めればいいのかもわかりません。せめて人気の本くらいは読んでおきたいと思っています。この授業をして一番痛感しているのは、国語教師は、10代の読者が読む本をもっと読むべきだということ。これは、一斉授業で小説や評論を読む場合も、本当は必要なことなのだと思います。生徒の現状を知るのと知らないのとでは、大きな違いがあります。

授業をしていて迷うことはありますか?

いくつもありますが、一番大きなものは、個人のプライバシーと授業の質との倫理的な葛藤です。特に最後の「共有の時間」。この時間では、生徒に今日読んだ本の内容を説明してもらったり、感想を言ってもらったりしています。読みの研究を踏まえるとこのようなアウトプットによって理解が深まるのですが、一方で、「図書館の自由に関する宣言」やダニエル・ペナック氏の「読者の権利10か条」を読むと、読者のプライバシーを守ったり、「読んだことを共有しない権利」を守ったりことの大切さにも思いが至ります。今は「共有することを推奨するが、言わなくても良い」ようにしていますが、そうすると便乗して単にだらける生徒もいるので、迷うところです。2名の司書は「その子の読書生活全体の中でプライバシーを守りたい時に守れれば良いのだから、授業では全員に共有させても良いのでは」と言ってくれていますが、どうするのが良いか、まだ迷っています。

「この授業のゴールはなんですか?」授業の目的に関する質問(11/22更新)

「この授業でめざす読者観を教えてください」「この多様性の先にあるものは?」など、授業のゴールについての質問を多数いただきました。よくライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップでは「自立した読み手/書き手」という表現を使うのですが、僕にとっての「自立した読み手」のイメージは、以下のようなものです。

読むことを自分の人生を豊かにする方法の一つにできる人。そして、豊かな作品の読み方ができる人。

前者は、小説の世界に読み浸るのでもいいし、熟考するのもいい。本を調べて有益な情報を得るのでもいい。昔読んだ本を再読するのも。そんな風に、自分の人生のために読むことを有効に使えるということ。こちらの軸は、あくまで自分にある。一方の後者は、自分ひとりの好みを超えて、読む対象を、より豊かに読むことができるということ。「自分の好みではないけど、この文章はこんなところが評価できるんじゃないか」「この本の書き手はこんなことをいいたかったんじゃないか」と、自分の好みを超えて、その文章の持つ可能性を最大限に活かせる人。

そんな風に、「自分」の軸を持つことから出発して、やがてその「自分」をもっと大きな「読むことの世界」の見取り図の中で相対化し、やがて「読むことの世界」そのものを豊かにする側にまわること。自分もそういう人になれたらと思うし、生徒にもそういう人になって欲しい、と思っています。

協議会では前者が態度目標であり、後者が技術目標、みたいな言い方をしてしまったのですが、その言い方は不正確でした。前者にも後者にも、技術も態度も必要でしょうから。「自分から出発して、世界を豊かにする人」。ひとことで言えば、そんな人を育てることがゴールです。

「何を読むか?」選書の基準に関する質問(1/10更新)

いただいた質問の中で授業のゴールの次に目立ったのが、生徒の目標設定や選書に関する質問でした。複数まとめてお答えします。

「何を読むか」の指導はどうされているのでしょうか?

まず大事なのは、この授業は「何を読むか」の選書をする力を育てること自体を目標としている、ということです。従って、「課題図書」は設けません。しかし、授業で読むのは「文字が主体の本」であるという制限はしています。マンガ、英語や数学の参考書、画集、写真がメインの雑誌類は範囲に入れていません。

また、自分で本を選ぶときには「自分のレベルにあった、面白い本を読むこと」を強調しています。難しすぎる本は類推による語彙学習が働きにくく、面白くない本は興味を持続しにくいので、あまりおすすめしていません(その上で難解な本に挑戦したい生徒にはさせています)。もう一つ大事なのは、「つまらない本は途中でやめること」。中学までの間に「本は途中で読むのをやめては行けない」という指導を受けている生徒もいるので、授業ではむしろこちらを強調しているかも。

原則としてはそんなところ。いずれもナンシー・アトウェルのやり方に従っているのですが、これに加えて、以前のミニ・レッスンで、こんな観点で本を探してみるといいよという話もしました。ご参考まで。

1)自分:読者としての自分はどんな人間か?

  • これまでの読書歴は? 好きなジャンル・作者・テーマは?
  • 読むことをこれからの自分にどう活かしていきたいか?
  • どのくらい読書時間を作り出せるか?

2)深まり:ジャンル・作者・テーマなどの深まりはどうか?

  • 自分がもっと深めたいジャンル・作者・テーマはどれか?
  • そのジャンル・作者・テーマで、自分がもっと深められるのはどの領域か?

3)多様性:ジャンル・作者・テーマなどの多様性はどうか?

  • 日本十進分類法の表や、ジャンルを眺めてみよう。
  • 自分がよく知っているジャンルや未知のジャンルはどれか?

4)難易度:どんな本が理解しやすいか?

  • 本の内容や作者についてどの程度知識を持っているか?
  • 語彙のレベルはどうか? いまの自分にあっているか?
  • 本の形式、フォント、ページ数、イラストなどの分量は?
  • これから読む本の内容について、自分はどんな知識や経験をあらかじめ持っているか?

生徒の選書の基準は?

生徒はおおよそ自分の興味から本を選んでいますが、実態はいろいろです。作家読みをする生徒も、テーマ読みをする生徒もいます。友達の影響もあります。また、その日に読む本が見つからず、図書館の棚から探して読んでいる生徒もいます。

本を読まない生徒、マンガとかを読む生徒はどう対応するのか?

特別な事情のある生徒を除いて、本を読まない生徒にはまだ出会っていません。自分のレベルにあった、読みたい本に出会えれば、生徒は本を読みます。マンガについては上記のように指定範囲外にしているのですが、それでも読みたい理由のある生徒には、理由を聞いて認めています。

むしろ、こういう生徒よりも課題を感じるのは「小説ばかりを読む生徒」のような、ジャンルの幅がいつまでも広がらない生徒です。例えば物語と説明文では語彙も読む方略も異なるのでどちらも読んで欲しいのですが、なかなか、もう一方に手が伸びない生徒がいます。

今のところ、そういう生徒には個別にカンファランスで促したり、リーディング・ワークショップの後に来るライティング・ワークショップでジャンルを指定することでリーディング・ワークショップで読む本のジャンルを誘導したりしています(例えば、ライティング・ワークショップでエッセイを書くよというと、その前のリーディング・ワークショップでもエッセイを読む生徒は多くなります)。もしくは、「今回のリーディング・ワークショップは新書限定ね」のように、読むジャンルを指定しても良いと思います。どこまで強制するかは難しい問いですね。

生徒の動機づけに関する質問(2/2更新)

引き続き更新。いただいた質問の中には、生徒の動機づけに関する質問も数多くありました。何を読むかという指導や、育てたい読者観とも関わるので、こちらでお答えします。評価(成績評価)の話もこちらで。

  • 動機づけはどんな形で?
  • 本を勧めるとどうしても押し付けがましくなる。話術を含め、どう「読む気」にさせられるのか
  • どういう読書をしてほしいのか、そのためにどんな仕掛けを用意しているのか
  • 評価はどんな形で?
  • 好きな場所、好きな姿勢で読ませる意味とは?

動機づけはどんな形で?どうやって読む気にさせる?

結論から言うと、動機づけについて一番意識しているのは、「生徒がその本を読むのに適した環境を作る」と言うことです。言い方を変えると「邪魔しない」「安心して読める環境を作る」こと。具体的には、「読者の権利10か条をできるだけ守る」ことにつきます。

教室でどう扱う?「読者の権利10か条」

2017.05.16

授業である以上全てを守ることはできないのだけど、教師ができるだけ守ろうとするだけで、ずいぶん違うと思います。教師がやりがちなことに関連して言うと、「共有やアウトプットを強いない」ことは結構大事という実感があります。

あとは、僕の話術なんかよりも、本そのものの魅力が強力な動機づけになるはず。もちろん現実に100パーセントというわけにはいきませんが、その子にあった本があると信じて、カンファランスを通じて色々と手伝います。この時に大事なのが、自分の本についての知識と、その生徒についての知識。これが不足していると、なかなかうまくいきません…。

好きな場所、好きな姿勢で読ませる意味とは?

そして、そういう環境の中で「選択」が保証されていることが生徒の意欲ある取り組みにつながります。好きな場所で、好きな本を、好きな姿勢で、好きなように読む。まずはそれをできるだけ保証してあげること。ナンシー・アトウェルが下記エントリで言っていることと同じです。

作文教育の成否の鍵は、自律性を高める仕掛けにあり

2015.04.07

ちなみに、生徒へのアンケートでも、「自分で本が選べる」ことの重要さは明白。一番役に立つ要素だと思われてます。同様に、自分で読む場所を選べることも高評価ですね。

生徒に聞いてみた、リーディング・ワークショップで役立つ要素とは?

2017.10.20

評価はどのようにしているのですか?

そして、そういう風に「自由な選択」を保証するには、リーディング・ワークショップの成績は、自己評価の提出点などの「大甘」なものにならざるを得ません。もしも教師が、生徒の読んでいる本の難易度や事前に立てた目標の達成度で成績に差をつけたら、リーディング・ワークショップは一気に台無しになるでしょう。生徒が、本当に自分の読みたい本を選ぶのではなく、「教師受けのよい本を選んで読んだふりをする」「目標が達成しやすそうな本を読む」ようになるからです。これでは、本気の取り組みにはなりません。

このスタンスは、ライティング・ワークショップのスタンスと少し通じるものがあるかもしれません。

作文の成績をどうつけてるの? という質問にお答えします。

2017.08.15

もちろん、僕にも「読んでほしい本」「勧めたい本」はありますし、それをカンファランスで勧めます。でも、それが押し付けがましくなく、「読んでみてもいいかな」という気にさせるには、当然、教師のおすすめを断る権利を生徒が十分に持っていることが大事。そのための環境づくりがあり、自分で本を選択して読む経験が積み重ねられた時に、「教師からのおすすめ」「同級生からのおすすめ」も、意外に素直に受け取られていくのではないでしょうか。

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