[読書] 実践者必携、研究にもとづいたリーディング・ワークショップの提案。Miller & Moss. No More Independent Reading Without Support.

もしあなたがリーディング・ワークショップに関心があり、英語読書にさほど抵抗感がないのなら、この本はマストバイの一冊かもしれない。この本は、読むことに関する多数の研究成果にもとづいて、読む力を伸ばすためには「実際に読む時間をたくさんとること」という方針を支持しつつ、かつ「ただ読むだけ」に終わらないリーディング・ワークショップの組み立てを提案している本だ。わずか70ページの薄い本なのに、情報量はたくさん。詳しくは後述するが、この本の提案に僕が積極的に賛同しているわけではない。しかし、研究という裏付けがあるという点で、どんな人でも一度は参照するべき本だと思う。

目次

読む力を伸ばすには「読む時間をとること」が大切!

まずこの本では、授業中に生徒がおのおの本を選んで読み進める「個別自由読書(independent reading)」の重要性が、様々な研究を引用しつつ主張されている。個別自由読書で確保される「本を読む時間」こそが読む力の成績の向上につながっている(単に相関があるというだけでなく、実験デザインの研究experimental studyでもそれが支持されている)ことが、色々な研究を引用しつつ述べられているのだ。

単に「読むだけ」では足りない

しかし、筆者は「ただ読むだけ」を特徴とする DEAR(Drop Everything and Read)や Uninterrupted Sustained Silent Reading(USSR)という実践は、支持していない。個別自由読書が効果を発揮するには以下のような条件が必要だと述べている。

効果的なリーディング・ワークショップになるための条件

  • 授業中に実際に読む時間があること
  • 自分が読む本を生徒が選べること
  • 「読者がなぜ、何を、どのように読むのか」について、教師がはっきりと教えること
  • たくさん読むこと。多くの冊数と幅広いジャンルを読む
  • 本を手に取れる環境があること
  • 教師が生徒を観察し、評価し、彼らをサポートすること
  • 読んだものについて話す機会があること

なぜ上記の条件が有効なのかについて、詳しいことを知りたい方はぜひこの本を読んで欲しい。すべての項目について、複数の研究にもとづいて理由が説明されている。ただの実践報告や現場のレポートではなく、なぜリーディング・ワークショップをすべきか、どのようにすべきかについての根拠となる研究成果を、コンパクトにまとめているのがこの本の良いところだ。

色々ある教師の役割

では、このようなリーディング・ワークショップにするために、教師は何をすべきなのだろう。この本は、ここでも丁寧にポイントを書いてくれている。

  • 自分にあったレベルの本をどう選ぶかについてはっきりと教えること
  • 読む方略についてはっきりと教え、モデルを示すこと。この方略は、読む時間、共有の時間、その他の方法を通して使われる
  • カンファランスを行うこと。教師が記録をとりながら生徒が音読したり、本について生徒と教師で議論したり、今後の読む目標を定めたりする
  • 読んだ後に反応してもらうことを通じて、生徒の主体性を高めること。例えば、ポスターを作ったり、グラフィック・オーガナイザーを描いたり、文章を書いたり、読書記録やノートをとったりする。
  • 大小のグループで読んだ本についてディスカッションをすること

おおー、ずいぶんたくさんある。「ただ読めばいい」だけでなく、教師がここまでサポートするからこそ、成果をあげられる、というわけだ。これでは、授業中に教師が一緒に本を読むヒマはないなあ…。

「方略を教える」リーディング・ワークショップ

ここまで読むとわかるのだが、読むことの研究成果を根拠にしてこの本が推奨するリーディング・ワークショップは、かなり「読みの方略」を教えることに焦点をあてている。この本では、リーディング・ワークショップは次のような実践なのだ。

  1. まず、教師がミニ・レッスンで読みの方略をはっきりと教えたり、モデルを示したりする
  2. 生徒は、「読む時間」に自分にあったレベルの本で、その方略を実際に使う
  3. 生徒がそうやっている間、教師はカンファランスやグループへの指導を通じて、方略が使えているか観察・評価・指導を行う
  4. 「読む時間」が終わったら、生徒は読者としての自分を振り返り、方略が使えたかどうか振り返る

教えて、やって見せて、やらせて、サポートして、それを振り返って…と、読みの方略が授業全体を貫いたデザインになっているのである。

アトウェルのリーディング・ワークショップとの違い

僕のブログを継続的に読んでくださっている方にはおわかりと思うが、この本で提案しているリーディング・ワークショップは、ナンシー・アトウェルのリーディング・ワークショップとはずいぶん異なる。アトウェルの場合、何よりも読むことに没頭する経験を大切にしていて、方略をいちいち意識させていない。むしろそれは「リーディング・ゾーンに入ること=読むことに没頭すること」を妨げるとして、否定的な立場だ。

[ITM]「Reading Zone」に入る

2015.02.04

これ、どっちが良いのかは僕にはわからない。「はっきりと教えて、個人練習を通じてそれを定着させることが大事だ」という意見もわかるけど、もともとアトウェルにシンパシーを抱いている僕としては、「このやり方だと方略の学習のための読書というのが前面に出てて、息苦しいなあ」とも思う。

また、読むことの研究は「明示的に教えて使うと効果が出る」という教え方を支持しているけど、もともと「こうすると成果が出ます」という方が、没頭することの効果よりもずっと研究しやすい(そもそも没頭の度合いって測れないですよね)という事情もありそうなので、アトウェルの側に研究成果がないということを、あまり重視しなくてもいいのかなとも思っている。

実際にアトウェルの学校を見学した時、あそこの生徒たちは小学校5・6年生とは思えないような本を読んでた。あの印象はかなり強烈だったので、自分としては大切にしたい。

アトウェルの学校の見学メモ(2日目)

2016.04.13

というわけで、僕自身はこの本で提案されている形そのままでリーディング・ワークショップをすることはないかもしれない。でも、どんな立場であれ、この本は読むべき一冊だ。リーディング・ワークショップをなぜすべきなのかという点を、ここまでコンパクトに、研究成果にもとづいて書いている本は、少なくとも今のところ日本語では見当たらないからである。超おすすめ。

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2 件のコメント

  • ここまで考えてあればいい方向に進めるだろうなと思いました。あとは教師も生徒も自分の枠組みやペースでやればいいだけ。ただ、こうしたことは気づいてはいても、なんらかの理由でやれてないのかもとも思いました。そう考えると実践は意外と難しいのかも知れませんが。
    以前、外国でつくられた英語教育の教材を使ったことがありますが、方略がまとめられ、解説が丁寧で、練習問題があり、それが積み上げらえていて、発展に向かうというものでした。自学自習用でも十分な感じ。それに比べて日本の教材は「すきま」だらけに見えました。でも、実際に使って教えると、意外と懇切丁寧な教科書には教師が工夫する部分が見出しづらく、また、生徒の側も「流れ作業的に」やらされている感じになりがちでした。頭で考え抜いたものというものには、雑音や揺れが少なく、かえって現実のものから遠ざかるようにも思いました。日本のものはすきまに教師が考えるピースをはめ込めば、それなりに個性的な味付けができました。五つ星のレストランではないのでしょうけど、その店の味のするラーメン屋みたいなものです。
    というわけで、自分たちがやっている平凡な授業にもこうした先駆的な実践につながる要素はあるので、そこを強化したり、また欠けている要素を補強すると、革命的ではないけれど、バランスのいい、「ちょっといい」授業がわりと簡単にできるように思います。チェックリストとして活用するといいかもと私は感じました。

    • そうですね、チェックリスト的な使い方が研究の活かし方としてちょうどいいのかもしれませんね。