In the Middle読書日記の番外編。
昨日、アトウェルのリーディング・ワークショップについて紹介する記事を書いた。
ただ、アトウェルには、In the Middleとは別にリーディング・ワークショップについて書いた本がある。それがこのThe Reading Zoneだ。
アトウェルの著作の中では薄い本(144ページ)なので、僕もIn the Middle 第2版を読んだ後に続けて読んだ記憶がある。没頭して読む(reading in the zone)ための環境を整えて生徒に自分で本を選択させることが、生徒の読解力を伸ばすのだという信念が、一冊の中に満ち満ちている本だ。当時の僕の読書メモに従うと、
・読むことを学ぶには読まないといけない。常に、たくさん読むことが読者を育てる。
・生徒に「あなたは自分で本を選べるほど賢くない」とは言わない。自由に本を選ばせる。
・生徒の邪魔をするメソッドは使わない。Reading Zoneに入ることが大事。
などの姿勢が、自分の印象に残っていたようだ。「読むことを学ぶにはたくさん読むこと、書くことを学ぶにはたくさん書くこと」というのがアトウェルの基本方針で、そこが僕がアトウェルの授業に全体として共感を覚える点でもある。
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そして、注目したいのは最後の「邪魔をするメソッドは使わない」という点だ。この本が刊行された90年代後半〜2000年代のアメリカでは、ワークショップ型の授業にメタ認知戦略を学ぶアクティビティを持ち込んだり、シンキングツールを用いたりすることが流行していた。優れた読者がどんなメタ認知戦略を用いているのかを抽出して、その戦略を直接教えようとするやり方だ。キーンやジマーマンのMosaic of Thoughtはその代表的な著作。
キーンは、こちらの『理解するってどういうこと?』の著者でもある。
そして、アトウェルがThe Reading Zoneで「生徒の邪魔をするメソッド」として批判の対象にしているのは、まさにキーンのような、「理解するための方法を教える」ことなのである。アトウェルは「理解」という一章を立てて、それについて論じている。
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アトウェルは、認知心理学のような研究に裏打ちされたメソッドが人をひきつけやすいことを認め、自身も一時期それに熱心に取り組んだことを告白する。しかし、そういったメタ認知戦略を教えることで、かえって生徒がReading Zoneに入る喜び、没頭して読むことの喜びから引き離されてしまったことを述べる。特に、小説を読む時にはその弊害が大きい。そして、アトウェル自身がメタ認知戦略を(それを誰からも明示的に学んでいないのに)すでに身につけていることを述べて、「メタ認知戦略を身につけるために、本当にメタ認知戦略を直接学ぶ必要があるのか」ということを問いかける。むしろ、Reading Zoneに入ってたくさん本を読む経験が大事なのではないかと。これはなかなかおもしろい論点だと思う。
この本、他の面白いところでは、アメリカでは(日本でも?)男の子の方が女の子に比べて本を読まないというデータがあるらしく、一章を割いて男の子への読書指導について書いている。