[読書]質量ともに充実の2018年9月の読書。中でも一押しは「子どもとファンタジー」!

9月の読書は3連休が多かったせいか質量ともに充実!だいたい2日に1冊ペースで読書できました。本当はいつもこのペースで行きたいけれど、無理だよね…。もうちょっとネットの時間を減らして読書に振り向けたいところです。

目次

今は絶版のかつての国語教育系名著たち

今月は、もう絶版のかつての国語教育系の名著に出会ったり、読み直したり、という月でした。以下に紹介する本は、国語教師の方には全てお勧めです。損はさせません。

守屋慶子「子どもとファンタジー」

守屋慶子「子どもとファンタジー」は、発達心理学の研究者による、日本・韓国・イギリス・スウェーデンの子供達が、シェル・シルヴァスタイン「大きな木」をどう読んだかという分析。まず面白いのは、子どもの発達段階によって話の受け止め方が大きく変わる、ということ。最初は現実と区別のついていなかった子供達が、次第にこれが現実とは違う話だということを理解し、その後、思春期のあたりでいったんは「物語の非現実性」を厳しく評価するようになった上で、年齢がさらに上がると、現実世界の関係を反映させた一つの物語形式として受け止めていく。その流れがとても興味深い。

また、日本・韓国・イギリス・スウェーデンでの「大きな木」の受け止め方の違いも示唆に富む。日本ではこの木を「母性の象徴」として捉える見方が多いのだそうだ。僕たちがあくまで文化的コンテクストの中で物語を読む、ということがよくわかる本でもある。

梅田卓夫・清水良典・服部左右一・松川由博「新作文宣言」

この本は、「高校生のための批評入門」などのいわゆる「高ため三部作」編者による作文教育の本。このメンバーは皆さん「自己表現としての作文教育」にこだわる方々で、好き嫌いはあるかもしれないけれど、僕は大好き。特に「メモ書きをする」ことの大切さに関してかなりページ数を使って強調しており、類書にはあまりない特徴なのではないかと思う。授業でも紹介させてもらった。

ついでに久しぶりに「高校生のための批評入門」も読み直したのだけど、こちらもやはりいいなあ。この筆者たちが編んだ短い作品のアンソロジーだけど、コラムに書かれている「評論」と「批評」の違いの説明に、胸を打たれる。国語教師なら読んだことある人も多いと思うけど、まだの方はぜひ。

苅谷夏子「評伝大村はま 言葉を育て、人を育て」

もう1冊の絶版書については、下記エントリですでに書いているので、そちらをご覧ください。

[読書]プロフェッショナルな教師の生涯。苅谷夏子「評伝大村はま ことばを育て人を育て」

2018.09.23

今月読んだ小説たち

上記の通り、今月は教育系の読書が多かった気がする。そのため小説は合計で3冊。いずれも読み応えあるものの中から、ここでは2冊を紹介。

1冊目は辻村深月「かがみの孤城」。今さらの本屋大賞の受賞作です。謎を解き明かす仕掛けはよく使われているものなのでそう驚きはないけど、それぞれに事情を抱えた7人の中学生の人生が微妙に交錯していき、また一歩前に歩き出すまでの軌跡が心地よかった。いかにも本屋大賞なテイストの本屋大賞受賞作という感じ。これまでの本屋大賞受賞作が好きな方には安心してお勧めできる。

2冊目は須賀しのぶ「革命前夜」。昭和が終わり平成になった頃、まさにベルリンの壁が崩壊する直前のDDR(東ドイツ)を舞台にして描かれる、留学生ピアニストたちの物語。最初は恩田陸「蜜蜂と遠雷」のような才能あるピアニストたちの青春群像ものかと思ったら、「また、桜の国で」の著者らしく、歴史的事件を絡めた骨太なエンターテイメント歴史小説になっていった。そうか、平成はもう歴史小説の範疇か…という感慨もあったが(笑)、この著者、本当に実力派の作家だなあ。また読みたい。

評論・エッセイからはこの1冊

今月読んだ評論・エッセイ系の本からは檜垣立哉「食べることの哲学」がよかった。やや硬めだけど、食べることについて考えさせられる、面白いエッセイ集。焼くことを中心としたアングロサクロン的な文化に対し、アジアやアラブでの、腐敗するものの利用を中心とした文化に食の本質を見る見方が面白い。たしかに、食べることは毒を体内にとりこむことである。これは、他者を殺して食べることの快楽、自死的な快楽につながるのだろうか。また、ザ・コーヴの映画についての、自身もまたイルカを殺してきたオバリーの、自己告発や懺悔というべき作品であり、太地町を攻撃しつつそれが非常に美しい映像なのは、そのゆえなのではないかという批評もとても良かった。読み終えて、食って、性と同様に、人間の生の根源に絡んでいるんだなあ…と思う。考えさせられた本。

今月の岩波ジュニア新書はこちら

毎月恒例の岩波ジュニア新書、今月は3冊読了。イチオシは迷ったけど、谷口長世「アンネ・フランクに会いに行く」に決めた。この著者のアンネ・フランクを訪ねる旅とともにアンネの生涯やそれを取り巻く状況が語られる形式で、歴史的な背景(ユダヤ人の置かれた立場、オランダでの全体主義の盛り上がり、アウシュヴィッツ)の説明と、アンネ自身の物語の追跡がバランスよく、とても読みやすい作品だった。アンネの父・オットーの会社で事務員として働いていたミップ・ギースとの会見は、著者自身にとっても記憶に残る旅だったのだろう。こういう旅の記録があるから、アンネという少女が生きていたことが、過去の歴史ではなく、現在に地続きの記憶として感じられる。アンネの日記の完全版、読んでみたい。

短歌と俳句が面白かった池澤夏樹の「近現代詩歌」

詩歌のジャンルでは2冊(少ない…)。池澤夏樹が個人編集する「日本文学全集」から「近現代詩歌」を取り上げよう。これ、小澤實さん選の俳句のアンソロジーがとても面白かった。一つ一つの句に句の大意や小澤さんの選評があるので、それを手がかりに俳句を鑑賞でき、俳句を読み慣れていない僕にはありがたい。俳句の持つ断片性ゆえのユーモアが浮かび上がってくる感じ。やっぱり「物語」を作れる短歌とは異なる立ち位置の詩なんだな。

穂村弘さん選の短歌は目次を見たら俵万智がなくて驚いたのだけど、どうも年齢制限付きらしい…(1944年生まれまでから選ぶ。俵万智は1962年生)。近現代詩については短歌・俳句よりは知識があるので、概ねオーソドックスな中に「え、この詩人でこの作品を選ぶんだ」という驚きを楽しんだり、謎の長詩推しに「?」と戸惑ったりして、池澤夏樹さんが考える詩のアンソロジーの構成と自分の好みを比較して、楽しませてもらった。ただ、近現代詩は解説がほとんどないので、初めて読む人にはちょっと厳しいのではないだろうか…。個人的には、俳句のアンソロジーの面白さでここに掲載。

というわけで、今月はわりと読めたと思う。反省するとしたら、国語や教育系の本がやや多かったことかな。国語教師って、教育書を読んでたらどんどん痩せ細ると思うんだ…。来月は教育系はあまり読まないように心がけて、色々なジャンルの本を読んで行きたいところ。

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