前半快調、後半失速….「失敗」をめぐる本が面白かった、2022年5月の読書の記録。

5月の読書は、簡単に言うと「前半快調、後半失速」。前半快調だったのは、もちろんゴールデンウィークがあったからで、トータルの半分を5月6日よりも前に読んでいた。忙しくて実際問題として夜まで仕事しており、毎日30分の読書ができていないのが正直なところ。5月末に、去年教えていた子に「あすこま、いますぐおすすめを10冊教えて」と言われて、その信頼に応えられるほどいま読書できていない自分に、ちょっと胸がいたんだのでありました。読書は国語科教員の最も大事な筋トレ。なんとかして時間を確保したいなあ….そんな反省とともに送る、5月の読書記録。

目次

これは良かった!今月のベストは「失敗」をめぐる本

まず今月のベストは、雨宮処凛『生きのびるための「失敗」入門』。いい本だったなあ。親子関係のしんどさに焦点をあてたあさのあつこ、弱さをさらけ出すことで助けてもらえるロボットをつくる岡田美智男、「計画は失敗のはじまり」という人生観の角幡唯介、NPO法人「抱樸」で多くのホームレスを救ってきた奥田知志など、多くの人が自分の「失敗」談や、失敗をめぐる価値についてやさしく語りおろしてくれるノンフィクション。特に、安心して失敗できることの大変さ、安心な場を作ることの価値をあらためて感じた本だった。「助けて」と言えるのはとてもえらいこと、なぜなら自分が助けてもらえる価値があると思えている、もう一つは他人への信頼があるから、という雨宮さんの言葉(p135)も印象的だった。奥田知志さんの「弱さが人を出会わせる」のもそうだなー。そうではなくて、弱さで人とつながろう。失敗した人に、自分を責めなくていいよと伝えたいし、それぞれの弱さをちゃんとさらけだせる関係性でいたい。

今月、面白かった本たち

今月は物語をほとんど読めなくて(山の本も!)、読書記録で高得点の本もノンフィクションばかり。そんな中で、この2冊がとても印象に残った。

芸術研究者の斉藤亜矢『ルビンのツボ』は、大人が気軽に読めるエッセイ集だが、いま「作家の時間」で考えていることと重なることが多くて面白かった。たとえば「手の想像、目の想像」では、筆者の図工教育の授業における「見立て」のエピソードが面白く、これは作家ノートやネイチャー・ジャーナリングにおける観察すること、よく見ることの大切さとつながってくる。この見立てのレッスンは風越でもやってみたいなあ。また、「考える、考えない」では、事前に設計をしすぎないで「考えない」で待ったり手を動かしたりする大切さも感じる。こういう、複数の本がつながっていく読書体験は面白い。

白川優子『紛争地の看護師』は、国境なき医師団の看護師・白川優子さんのエッセイ。白川さんが国境なき医師団に憧れ、現地の過酷な勤務の中で、終わらない戦争ショックを受けたり、ジャーナリストを目指そうとしたり、失恋したりという経験を積み重ねつつ、奮闘する様子が描かれている。読んでいて、胸を打たれる迫力のある本だった。

全国大学のシンポジウム関連の本

つづいて、5月末の全国大学国語教育学会のシンポジウム関連の本から。まず最初に読んだのは、パネリストの遠藤みゆきさんが共訳された、エリクソン、ラニング、フレンチ『思考する教室をつくる 概念型カリキュラムの理論と実践』。これはもう何回めかに読んだ。僕はシンポジウムでは一般化された命題を教える「材料」として文章を扱うことへの違和感を表明したけれど、マクロ概念だけでなく各教科の学問的深さを保証するミクロ概念も大事にしていること(p143)などは、見逃してはならない点だと思う。あと、「え、それをこの年齢でやるの?」という知育の早さ(p102など)はけっこう衝撃的だった。これ、読んだ皆さんはどう思われました? ここにも教育観とか、人間の発達段階の捉え方の違いがありそうだな、と感じている。本文には抽象的な議論が多いので、資料も含めて訳されているのは、正直とても助かった。

もうひとりのパネリスト、中村純子さんの共著『中学校国語科 国際バカロレアの授業づくり』中学校国語科のIBの授業づくりの入門書である。IBにはじめて触れる国語教師はまずこの本を読むと良いのではないかと思う。「探究テーマ」を最上位に置くIBの授業づくりがどのように進むのかが非常にわかりやすく書かれている。一方で、「このようなダイナミックな発想の転換が。これからの授業改革には求められるのです」(p13)とか「これからの教師の役割はファシリテーターです」(p64)のような、「これまで」と「これから」を二分して、わりと無根拠に断言するライティング・スタイルは、やや気になるところ。

最後に、自分の立場っぽいから読まなきゃなー….と読んで挫折した本。「正統的周辺参加って、徒弟制のアレでしょ」的な浅い認識で読み始めたのだが、第1章から「正統的周辺参加は徒弟制の抽象化ではない」という宣言から始まって、混乱しちゃった(笑) たぶん、僕が忙しい中でぼーっと読んでいたせいもあるのだろう。自分にとっては大事な一冊だと思うので、またチャレンジしたい本。でもどなたか、正統的周辺参加論の入門書を教えてください!

テーマプロジェクト「峠」関連の本

いま、風越の5・6年生はテーマプロジェクト「峠」の真っ最中。ゴールデンウィーク中は碓氷峠についての資料を色々と読んだのだけど、誰かに一冊おすすめするなら、小林収『碓氷峠の歴史物語』かな。碓氷峠の地名の由来から、江戸時代の関所の設置と中山道、和宮降嫁、中山道から明治17年の碓氷新道に交通の中心が移ったことによる、軽井沢宿の衰退と別荘地としての再生、「峠の釜めし」の誕生物語…など、碓氷峠に関することがひととおり書かれている。こういう地域史の本を読むと、身近な地域をちょっと違った目で見られるのも楽しい。

そして、今回のプロジェクトでもとてもお世話になっている、中山道69次資料館、岸本豊さんの『中山道浪漫の旅』。これを事前に読んでから、碓氷峠の下見に行きました。岸本さんには学校にも来てもらって子どもたちに「どうやって中山道の道を探究してきたのか」をお話いただいたのだけど、子どもたちの食いつきがすごかった。本物の力、だね。

6月は物語を読みたい!

という感じの5月の読書でした。6月は、テマプロとか学会関連とか、そういう仕事関連じゃなくて、物語を読みたい。風越の子が読んでいる本で読みたいものがたくさんあるんだもの。子どもたちが読んでいる本を読んで、リーディング・ワークショップの時間をもっと楽しんでいこう!

 

 

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