とある小学校教師「岩淵先生」と、その同僚「中谷先生」の「メール振り返り書簡」物語。岩淵先生が一日の振り返りを書き、中谷先生がそれに反応した一年を記録したお話である。一応物語化されているけれど、著者である元公立小学校教諭(現・東京学芸大学准教授)・岩瀬直樹さんと、メンターの中川綾さんの、実際の毎日のメールのやり取りを反映したものだ。
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全体を通して、ほとんど全く助言をしない中谷先生の反応の仕方が、かえって岩淵先生の学習を促進しているのが面白い。授業者と助言者という関係ではなく、お互いがお互いの学びの並走者である関係を作ることで、安心して岩淵先生が「走れる」ようにしている。たぶん、走るために一番大切なのは、走り続けることなのだ。中谷先生は、要約すれば「私はあなたに興味があるよ」というたった一つのメッセージを、ずっと送り続けている。こんなところがいいと思うよ、とか、面白いね!とか、なぜだろう?とか、こんな見方もあるんじゃない?とか、いろいろな形で。こういうメッセージが、走るエネルギーになって、岩淵先生の学習を促進している。
以前にも下のエントリでちょっと書いたことだけど、振り返りはただ書けばいいわけじゃなくて、それをうまく機能させる仕組みが必要なんだ。ここでは、中谷先生の存在とそのメッセージが、本当に大きな仕組みとして働いている。
▷ 「振り返り」を書くことは自己を客観的に振り返ることにつながるか?
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そうしたやりとりの中で、色々な「はっとする言葉」が出てくるのだけど、僕が好きなのは中谷先生の「(自立の)
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また、一年間を通じて岩淵学級の子たちは成長していくのだけど、最後の方になっても結構だらけちゃう場面があって、個人的にはそれがまた好き。人間の成長って、そうだよね。期待することと、「まあ、人間ってそんなもんじゃん?」みたいなゆるさを持つこと。この二つが揃ってないと、期待される側もなかなかにしんどいもんなあ。
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物語化される過程できっと細かい点は色々と変わっているのだろうけど、このお話の元になっている岩瀬さんと中川さんのやり取りも、全体としてはこんなまっすぐな温かい雰囲気なんだろう。自分もこんな風に自分の授業について振り返りを書いて反応をもらえたらいいなあと思うと同時に、こういう雰囲気を同僚とのあいだにも築けるようになれたらと思う一冊だった。