添削が効果的に機能する条件(5) まとめ

ここ4回のエントリで、作文の添削指導が効果的に機能する条件について考えてきた。最後に、これまでの内容をまとめてみる。

条件1.人海戦術をとれること
条件2.事前に丁寧な指導や充分な時間があること
条件3.添削の結果を活かす次の機会があること

  

添削が効果的に機能する条件(1)

2014.10.28

添削が効果的に機能する条件(2)

2014.10.29

添削が効果的に機能する条件(3)

2014.10.30

添削が効果的に機能する条件(4)

2014.10.31

他にも細かい条件はありそうだけど、ひとまず以上にしておこう。大事な原則は、添削は「書かれた結果=作文」に対して介入するやり方なので、書くまでのプロセスには関われない。したがって、何らかの方法でその欠点を補う必要があるということだ。

例えば、事前指導をしっかり行って目指すべき文章の姿を共有し、生徒がまがりなりにも独力で文章を書き終えるように準備しないといけない(条件2)。また、その添削内容を次の作文に活かす機会を設定する必要もある(条件3)。さらに、生徒が添削コメントきちんと読んで次に活かすためにはできるだけ早く返却するべきで、そのためにはどうしても人手が必要になる(条件1)。

ただ、こういう条件を満たせるような教育機会は、実はあまり多くない。例えば大学の研究室での論文指導は、とても添削に向いているシチュエーションだ。教師一人あたりの添削枚数が少なく(条件1をクリア)、目指すべき文章の型もはっきりしていて(条件2をクリア)、また添削指導を受けて論文を大学や学会に提出することを目指している(条件3をクリア)。加えて、書いている内容についても、先生の側が熟知している可能性も高いのだから、ばっちりだ。

一方で、100人以上の生徒に対して学期末にレポート課題を提出させて添削して成績をつけるようなケースだと、添削に時間がかかって返却時期が遅れるし(条件1が×)、次にその結果を活かす機会も設定されていない(条件3が×)ので、教師がどんなに頑張ったところで、努力に比して効果はあまり上がらないだろう。

つまり、添削は研究室での論文指導のような限定的ケースで使う手法であって、40人クラスを何クラスも持つ中高国語教師が、通常の授業の中で行うに適した方法ではない。過剰な負担のわりに高い効果は望めないし、家庭にも負担のしわ寄せがいく。何より、負担の過剰さに教師が作文指導そのものから遠ざかってしまっては元も子もない(作文教育の現状はそうなっていると思う)。

これまで、添削が効果的に機能する条件について考えてきたけれど、中高の国語の通常授業は、その条件を満たしていない。従って、先生が頑張って添削するよりも、他の方法を模索するほうがずっと効率的、というのが僕の結論である。「他の方法」とは、書くプロセスを指導するプロセス・アプローチの発想であり、生徒同士のピア・フィードバックを活用する方法のこと。こちらはこちらで大きな課題があるのだけど、僕は当面はこっちから自分の作文教育を積み重ねていきたい。

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