学習指導要領「書くこと」を読む:削減と模索の第3期(1977-1999)

学習指導要領「書くこと」を読む企画第三弾。過去2回のエントリはこちら。

学習指導要領「書くこと」を読む:理想に燃える第1期(1947-1951)

2015.08.12

学習指導要領「書くこと」を読む:系統性重視の第2期(1956-1970)

2015.08.14

今回は、2015年時点で20代〜40代の方が習った指導要領を扱いたい。この時期は、1970〜80年代に「詰め込み教育」の弊害(精神的な重圧や落ちこぼれの発生など)が問題視されてゆとり教育路線を突き進んでいた時代である。なお、メディアでは「ゆとり教育」の意味を狭い意味で使って2002年度からの学習指導要領で学んだ現20歳代を「ゆとり世代」などと揶揄的に呼ぶ場合も多いが、実際には教育内容の削減は現40歳代からはじまっている。

 ▷ 学習指導要領 (Wikipedia)

ゆとり路線の中、この時期は国語でも「読むこと/書くこと/話すこと/聞くこと」の4領域が「理解/表現」の2つの領域へと再編され、大きな変化を見せている。

 (1)1977(S52)年告示、1981(S56)年実施【校種:中学】
(習った世代:36〜47歳)

 ▷ 中学校学習指導要領第二章第一節国語科

 (2)1978(S53)年告示、1982(S57)年実施【校種:高校】
(習った世代:37〜48歳)

 ▷ 高等学校学習指導要領第二章第一節国語科

指導要領本文を見てもらうとわかるが、これまでと比べると思い切って簡素化されているのが印象深い。④ジャンルごとの記述といったものはあまり見られず、どのジャンルの文章でも通用するような文章作成の基本的姿勢が述べられている。本質的といえば本質的なのだが、活動例などもあまりないので、現場の先生はちょっと困った人も多かったのではないだろうか。

高校では「国語表現」が初登場。「進んで表現することによって生活を充実させる態度を育てる」ことが目標になっているなど、系統性一辺倒だった第2期への反省からか、②創作性を重視しなおす姿勢も見せている。

この指導要領が80年代いっぱい続き、平成を迎えた次の改訂でも基本的に「表現/理解」の2領域にする姿勢は堅持されている。

 (3)1989(H1)年告示、1993(H5)年実施【校種:中学】
(習った世代:27〜35歳)

 ▷ 中学校学習指導要領第二章第一節国語科

 (4)1989(H2)年告示、1994(H6)年実施【校種:高校】
(習った世代:28〜36歳)

 ▷ 高等学校学習指導要領第二章第一節国語科

「ゆとり路線」を継承しつつ、中学校の学習指導要領では国際理解という言葉が最後に入ってきたり、高校では「国語表現」「現代文」の他に「現代語」という科目が新設されたりと、国語全体としては試行錯誤のうかがえる指導要領。しかし、こと「書くこと」に関しては前例踏襲の感がある。基本的にはどのジャンルでも通用するような書く力のエッセンスを並べ、「目的や場に応じて」書けるようにするという⑤重視のスタンスと言えるだろう。

この実用文重視の姿勢をいっそう明確にしたのが「生きる力」を掲げた次期指導要領だ。ちょうど総合学習や情報科が導入されたのもこの学習指導要領で、国語科ではそれに呼応するように「伝え合う力」がキーワードとして出てくる。現役の教師にはまだ記憶に新しい学習指導要領だろう。

 (5)1998(H10)年告示、2002(H14)年実施【校種:中学】
(習った世代:17〜26歳)

 ▷ 中学校学習指導要領第二章第一節国語科

 (6)1999(H11)年告示、2003(H15)年実施【校種:高校】
(習った世代:18〜27歳)

 ▷ 高等学校学習指導要領第二章第一節国語科

この時期の学習指導要領から4領域が復活し、「話すこと」と一緒に「表現」にまとめられていた「書くこと」は、再び単独の領域となった。そして、「伝え合う力」からも想像ができるように、内容としては⑤重視に傾いていく。中学高校とも、言語活動例としては、説明・意見・記録・報告・手紙など、④ジャンルごとに並べられた実用文がずらり。中学では③プロセスに沿った活動が書かれていたり、高校「現代文」には②「創作的な活動を行ったりすること」という記述もあるが、全体の印象としては⑤重視の姿勢が圧倒的な学習指導要領である。

さて、この1977〜1999年の20年間は、「ゆとり教育」路線で教育内容を精選する流れの中で、何を教えるべきか模索していき、最終的には⑤実用文のみに的を絞った時代という印象だ。僕自身はこの時代の学習指導要領で育ったのだけど、第1期や第2期に比べるといまいち個性が感じられず、面白くないのが残念…。特に思い切って削減された前半期の指導要領を見た先生たちの中には、手のつけようがなかった人もいたんじゃないかと思う。別に、この指導要領が、僕が作文の授業を受けた記憶が特にないことと直結はしないと思うけど…。

 
(8/18追記) 続き

学習指導要領「書くこと」を読む:創作性復権の第4期(2008-)

2015.08.18

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