[読書]ヤングアダルトから登山本まで。2021年に読んで印象に残った本。

今年も一年が終わります。自分のブログでは教育関係の本しか詳しい感想を書かないので、年末恒例、この一年に読んだ本のまとめとして、物語、ノンフィクション、絵本、教育系からそれぞれ数冊ずつ紹介してみたい。今年は、特に9月以降は山登りが増えて、そのぶん全体量は減ってしまったなあ…。まあ、それはそれでいいかも。

ヤングアダルト向けの物語、今年のベストは….

今年は別にヤングアダルト向けの本ばかり読んでいたわけではないのだけど、結果的にここに書く高得点の本はヤングアダルト向けの作品ばかりになってしまった。

伊吹有喜『雲を紡ぐ』は、不登校に陥った高校生の美緒が、山形で染色工房「山崎工藝舎」を営む祖父・紘治郎のもとに逃れてそこでゆっくりと自分が人生で打ち込みたいことを見つけていく話。女子高生の成長物語なのだけど、父親の広志がちょうどいまの自分と同世代なので、自分の父の老衰と妻との関係、娘との距離など、自分と共通する問題が多くてひきこまれてしまった。今年の物語のベストを決めるなら、この本かも。第8回高校生直木賞も受賞した作品だけど、まだ風越の子とはこの本の感想を交換していないので、ぜひ誰かに読んでほしい!

傑作『ワンダー』のスピンオフ作品、R.J.パラシオ『もうひとつのワンダー』。時系列的には同時期の出来事が、オギー以外の人物で語られていく。読んでいて「どんな人にも物語がある」ことを感じる、いい物語だった。特に最初のジュリアンの章は良かった。『ワンダー』では完全に敵役だったジュリアンが、おばあちゃんのもとで「背筋を伸ばして生きる」ことを獲得していく。個人的には、『ワンダー』本編よりもこちらのほうが好き。

子どもたちがまだあまり出会ってないのだけど、ぜひ出会ってほしい作家が宮下奈都。宮下奈都『よろこびの歌』は、高校の合唱コンクールをめぐる群像劇だ。皆、それぞれに抱えている屈折が、かかわりの中で徐々に解けていって、最後の「よろこびの歌」に繋がっていく。大きな事件は起きないけど、ゆっくりとそれぞれの物語が関わりあって、前向きになっていくこういう小説、とても好きだな。中学入試の出典にもよくなるので前任校時代は逆に読んでいなかったけど、読めてよかった。

今年も良い出会いがたくさん。ノンフィクション

今年もノンフィクションは良い出会いがたくさんあった。なかでも佐々涼子『エンド・オブ・ライフ』は、素晴らしいの一言。訪問看護師の森山さんが癌にかかり、それまで自分の仕事としていた西洋医療から代替医療に目覚めていき…という闘病記を柱にして、それまで森山が関わってきた終末期を迎えた患者のストーリーがサイドストーリーとして入ってくる。自分の終末についても思いをはせてしまう。今年のジャンルをこえたナンバー1を決めるなら、この本だなと思う。

森田真生『数学の贈り物』は、静謐な、考え抜かれた言葉たちが誘う素敵なエッセイ集だ。とりわけ、「意味」と題されたエッセイの、「赤ちゃんにとっても行為の果てに意味があるのに、なぜ人は数学には行為の前に意味を求めるのか」という問いかけにはハッとさせられる。意味が安定した正解の退屈を破るために、数学がある。数学の前でこそ人は幼子のようでいられる。この一文に会えてよかったと思える文章だ。装丁もフォントもふくめて、素敵な佇まいをした一冊だった。

笹原留似子『おもかげ復元師』は、東日本大震災で死んだ人々の面影を復元し納棺する納棺師のボランティアの記録。もとの姿に戻すことで家族が泣けて、泣けることで故人に別れを告げられるのがなんとも切ない。家族を失った悲しみを色々と連想してしまう。親になってから、こういうの弱いんです…。

もっと読みたい!今年出会った絵本たち

僕は絵本をあまり読んでいない。自分の時も、自分の子どもたちも、比較的早く絵本を卒業して小学校に上がる頃には文字中心の本に移行してしまっていたからだ。風越のスタッフは絵本に詳しい人も多いので、教えてもらいながら読んでいる。

そんな中で、安房直子『青い花』は「あ、これ読んだことある!」という記憶が鮮明な絵本だった。この人の作品は、いつも喪失の決定的な深さを残酷なまでに描く。それも、とても美しい筆致で。心に染み入る絵本だったが、子供の頃、僕はどんなふうにこの本を読んでいたのだろう。

ガブリエル・バンサンの絵本をたくさん読んだのも、今年だった。『たまご』『アンジュール』などの鉛筆画や木炭画が知られる作家だが、水彩画の「くまのアーネストおじさん」シリーズの作品も、くまのアーネストとねずみの少女セレスティーヌとの交流を描いた、心温まる作品群。なかでも、アーネストが自分の思い出の歌に出会うガブリエル・バンサン『とおいひのうた』は、誰にも容易に語れない過去があり、それと向き合うアーネストを描いた点で出色の作品と思う。

吃音の少年とその父を描いた自伝的絵本、ジョーダン・スコット(文)シドニー・スミス(絵)『ぼくは川のように話す』は、何よりも、言葉と絵の美しさに息を呑む。「川のように話す」という比喩が持つ力と、水が光のように感じられる絵の力を、ともに感じる一冊だ。同僚が5・6年の国語の授業で読み聞かせをしてくれた本。

同じく、同僚のおかげで知った本で印象的だったのは、テリー・ファン、エリック・ファン『夜のあいだに』。夜のあいだに町の街路樹を剪定して動物の形にしていく真夜中の庭師と、彼とともに剪定をする少年ウィリアムを描いた絵本。何ががおきたならば、それが終わったあとも、世界が全く同じにはならない美しさ。

もちろん、国語系・教育系の本も…

ここからは、すでにブログでも触れているものもあるけど、授業準備でお世話になった本から、国語教育について考える本まで。

メアリアン・ウルフ『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』は、ディスレクシアの研究者である著者が、デジタルベースのメディアと印刷ベースのメディアの特性を明らかにして、コードスイッチをどうするかを論じるもの。この本が共通了解になると、「デジタルか紙か」論争は一歩前に進むのでは。

[読書]デジタル時代に「深い読み」をいかに保つか?メアリアン・ウルフ『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』

2021.03.28

藤田湘子『新版 20週俳句入門』は、俳句の入門書として名高い本。とにかく、先達が初心者を導くために色々な「制限」をかけていくのが印象的だ。このデザインに、制限があってこそ初心者が自由になれるという信念がうかがえる。俳句そのものの勉強にももちろん良いが、授業デザインという点でも参考になる。

[読書]俳句初心者のために、適切な制限をかける。藤田湘子『新版20週俳句入門』

2021.03.27

もう一年近く前になるけど、百人一首の授業をする時に、たいへん楽しく読んだのが谷知子『百人一首 解剖図鑑』。「王朝文化がマルわかり」という副題の通りで、古典常識を学ぶのにとても役立った。歌の意味だけでなく、人物の紹介や背景となる文化の紹介まで、幅広く書かれていてとてもよい一冊。この本のおかげで自分も百人一首が好きになりました。

古典でいうと、川村裕子『平安男子の元気な!生活』酒井順子『平安ガールフレンズ』も、中高生にも薦められる古典入門としてよかった。特に川村さんのは前著『平安女子の楽しい!生活』と並んで、本当の意味で「ジュニア」に薦められる岩波ジュニア新書の一つ。

中村桃子『「自分らしさ」と日本語』は、人間が他人と関わりあう中でその都度アイデンティティを調整していくという構築主義の立場から、アイデンティティと言葉の関係について書かれた入門書。風越の子にはちょっと難しいけど、女子が「ウチ」という一人称を用いる現象の話や、親疎を表現するために敬語を使う用法など、こちらが噛み砕いてあげれば興味を持つ話題も多い。実際、一人称の話は子どもたちがすごく食いついてきて、面白かった。もう少し平易だと中学生にも紹介しやすいんだけど…。

今年も、「書くこと」についての本を何冊か読んだ。ナンバーワンをあげるのは難しいけど、古賀史健『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』は、とりわけ印象的な一冊だ。書くことと読むことは不可分なのだ、ということをこれほどメッセージとして繰り返す文章論の本はなかなかない。印象に残った言葉、共感した言葉に線を引くと、線だらけになってしまった。

[読書]「書くことは読むことから」の文章論。古賀史健『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』

2021.11.08

文章論の本でいえば、細川英雄『自分の〈ことば〉をつくる』も強い印象を残した一冊だ。ブログで書いたとおり、僕には筆者とやや見方を異にする部分もあるのだけど、そういう違いを明らかにしてくれた点も含めて、この本には感謝している。対話を軸にした、面白い文章論である。

[読書]「対話」を軸に「自己」と「他者」の関係をときほぐす表現論。細川英雄『自分の〈ことば〉をつくる あなたにしか語れないことを表現する技術』

2021.11.27

授業の本というと、つい最近またブログに書いたばかりだけど、冨田明弘・西田雅史・吉田新一郎『社会科ワークショップ』は、やはり外せない気持ち。すぐれた実践書だと思うし、先日の読書会では、ワークショップとはどんな場か?という問いも冨田さんからいただいた(下記エントリ参照)。ライティング・ワークショップの実践者として、この問いには向き合っていこう。

[読書]ワークショップとはなにか?を問いかける本書の読書会。冨田明広・西田雅史・吉田新一郎『社会科ワークショップ』

2021.12.30

最後に…いまホットな新ジャンル「登山」系の本!

最後に、おそらくいま個人的に一番読んでいる活字が『山と渓谷』誌ということもあって、今年読んだ印象深い山の本を書いてみる。去年の今頃は、まさか読むなんて思ってもいなかった本ばかり並ぶ。

山口耀久『北八ッ彷徨』を読んでは北八ヶ岳に向かっていったのは、コロナ対応で子どもたちと一緒にいる時間が長くなり、精神的にも一番きつかった8月末から9月の頃。「同じ子どもたちとずっと一緒にいる」ことで、精神的にかなり疲れてしまい、とにかく一人になりたくて登山をはじめたのでした。記録を見返しても、あの頃はほとんど本を読んでおらず、読んでいるのは山の本や雑誌ばかり…笑 本書は、まだ登山者が多く訪れる前の、静寂な森だった北八ヶ岳の姿を描いた紀行文。一斉にカラマツの葉が散る潔さを描いたエッセイ「落葉松峠」の美しさには圧倒された。

それまで興味のなかった山岳小説も読みはじめた。新田次郎『剱岳 点の記』は、明治40年に剱岳に登頂した陸軍測量官の柴崎芳太郎を主人公とした山岳小説。芳太郎を導いた案内人の宇治長次郎との信頼関係や、千年を超えた過去と現在がつながるまた、登頂を争うライバルである日本山岳会の面々との交流、そして千年もの過去とつながる剱岳山頂への思いなど、山岳小説の楽しさが詰まった作品だった。

実用的な本としていま一番お世話になっているのが佐々木亨『学べる!山歩きの地図読み』。国土地理院発行の地形図を知り、また、プレートコンパスを使って現在地から目的地の方向を見つけ出す「地図読み」の方法を学ぶ一冊。普段はスマホのGPSアプリに頼る事が多いんだけど、突然の故障や動作不良に備えて、やはり自分で地図を読めるようになっていたい。地図アプリを使った新刊『地図アプリで始める 山の地図読み』も便利だけど、やはりまずはアナログで仕組みを理解したい。この冬は、この本を読みながら低山を中心に歩いて読図の練習をするつもり。お世話になります!

とまあ、今回は過去の読書記録を読み返しつつ、適当に紹介してみました。読んでいる本がその時々の自分をつくり、自分を語る。過去の読書記録と比べると、やっぱり中高教員時代と読書傾向がまるで変わってきているのが明らかだなあ。絵本とか、登山とか….(笑) さてさて、来年はどんな本に出会えるのかな。楽しみに2022年を迎えます!

 

 

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