[読書]関わりが育つ場をどう作る? あんず幼稚園「きのうのつづき 「環境」にかける保育の日々」

あんず幼稚園「きのうのつづき 「環境」にかける保育の日々」は、子どもが育つ場、子ども同士の関わりが育つ場をどうデザインするの?という問いに関心のある方におすすめしたい。もの、時間、空間、行事…埼玉にあるあんず幼稚園では、その全てが一貫した理念のもとにデザインされている。保育関係者だけが読むのはもったいない、環境と成長の関わりがよくわかる一冊だ。

目次

子どもが育つ「環境」とは?

この本では、あんず幼稚園で子どもが育つ「環境」がどのようなものか、「もの」「自然」「人」「場」「時間」「ことば」「行事」という7つの観点で説明されている。基本的には保育園でのエピソードと子どもたちの生き生きした姿が印象的な写真で進んでいくのだけど、そのエピソードを生む「仕掛け」が随所にあって、しかもそれが一貫しているのが、この幼稚園の素敵なところだと思う。

関わりを生む「もの」

たとえば「もの」。あんず幼稚園には、「家庭ゴミ」と言われそうな牛乳パックや段ボール、ヤクルトの空き容器、ストローなどがたくさんある。これらはみな立派なおもちゃではないが、だからこそ様々な見立て遊びに使えるし、はさみやカッターなどを使って加工できるので、そこで子ども同士の関わりを生む。一見粗末な、でも可変性に富んだものこそが、子どもの想像力を使った遊びや、子ども同士の豊かな関わりを生む。

遊びこむための「場」

たとえば「場」。あんず幼稚園の構造はかなりユニークだ。回廊式のデッキがあり、そこを子どもたちが走り回る。回廊デッキからは、年少から年長までのそれぞれの専用の庭に出られる。そして、それぞれの部屋は、見通しの悪いL字型だ。子どもたちは、こういう見通しの悪い囲われた空間でこそ、少人数で遊び込むので、見通しの悪い隅っこを意図的に作っている。また、外遊びは子どもの発達段階の違いが大きく出るので、それぞれの年齢がそれぞれに応じた遊びを遊びこめるように、あえて年齢別に分ける。でも、回廊デッキを子どもたちが走り回ることで、異なる年齢の子たちが何をやっているかが見え、異学年の交流も生まれる。なんて素敵な仕組みなんだろう! さらに、幼稚園の中心には、カラフルな壁画やビー玉が敷き詰められた床の楽しいトイレがある。これも、排泄という大切な行為に関わる場所は、何よりも明るくて行きたくなる場所でないといけない、という考えから。

「きのうのつづき」から始まる「時間」

たとえば時間。子どもたちは朝登園してから、たっぷりと遊び込む時間がある。朝の10時半までは「自由活動」、つまり、園やクラス全体で何もせずに、ひたすら遊び込む時間なのだ。スロースターターの子は登園してすぐに遊べるわけではない。でも、ここまでゆったりした時間が確保されていれば、たっぷり遊び込み、その中で色々な子どもと関わっていける。そして、この時期は時間意識が育ち始める頃。子どもたちは登園して「きのうのつづき」の遊びを始めることで、1日が続いていく感覚も身につけていく。

そして、その後の時間も、学校のように「時間割」がはっきりと決まっているわけではない。子どもたちの様子を見ながら、柔軟に判断される。それについて書かれた次の文章が心に残る。

主体としての保育者が、自らの判断で活動の切り替えを行なっています。それは、主体としての子どもたちの様子を読み取ったうえで行われています。お互いの対話によって、そのタイミングを決めていくのです。

保育者も主体的であるためには、誰かから「こうしなさい」と言われて保育をするのではなく、「こんな子どもたちに育って欲しい」という自分の内なる願いと、それを共有する保育者集団がその背景になければ成立しないのです。

意図的に環境を構成することの大切さ

このように、あんず幼稚園では様々な「子どもが育つ環境」が用意されている。そしてその環境はみな、子供達が遊びこめるように、その中でゆたかな関わりを持てるように、という願いからデザインされている。そういう一貫した願いが随所に込められた環境で育つことで、子どもたちは本当に楽しく幸せに学べる時間を過ごしていけるのだろう。

僕はこの本を風越学園の同僚たちと一緒に読んで、実際にあんず幼稚園に見学にも行き、そして今またこの本を読み直している。もちろん実際に見学することで「なるほどそういうことか」と実感がわくことはとても多い。でも、この本は写真が豊富なので、本だけでも十分に雰囲気は味わえると思う。意図的に環境を構成することって、とても大事。読み終えた後、心からそう思う。

この記事のシェアはこちらからどうぞ!