[読書]詩集、エッセイ、そして子ども向けノンフィクション。先月から少し浮上した2022年7月の読書。

2022年7月の読書記録です。仕事が大変で超低空飛行だった6月を乗り切り、7月、特に月の後半は本をゆったり読む精神的余裕も出てきました。読んで良かった&面白かった本にも出会えたし、一息つけた感じです。というわけで、

目次

ノンフィクションを中心に読んだ7月!

今月はお仕事の関係もあり、子ども向けのノンフィクションを多く読んだ月だった。ほぼ全て再読なのだけど、良い本はやっぱり良いのである。前田亜紀『カレーライスを一から作る』最相葉月『調べてみよう、書いてみよう』はこのままテーマ・プロジェクトの参考になりそうだし、下地ローレンス吉孝『ハーフってなんだろう?』は、風越の子にはちょっと難しそうだけど、ミックスルーツの子の抱える問題を社会構造の問題として考える問題設定が、ちょうど社会に目を見開く頃の中高生にはちょうど良いのでは無いかと思う。

あとは、このブログでも既に取り上げた本が中心になる。プロジェクト・ワークショップ編『改訂版 読書家の時間』は、自分の「読書家の時間」を見直すための良い指針になりそう。もう少ししたらまた自分のブログ記事を再読して、二学期に備えようと思う。編者として中心的役割を果たした冨田さんとも、またお話ししたい。

[読書]基本的情報から実践者たちの「いま」まで、リーディング・ワークショップの魅力を伝える決定版。プロジェクト・ワークショップ『改訂版 読書家の時間』

2022.07.12

今井むつみ『算数文章題が解けない子どもたち』も、調査が手堅くて今後の指針もあって良かったな。普通の小学生にとって「相対的な視点」を持つのが難しいことがよくわかった。国語でもそうだけど、子どもの間違いにはそれ相応の理由があることを忘れずにいたい。この「算数とことば」については今興味を持っていて、もう1、2冊読んでみるつもりです。

[読書]「文章題ができない子」のつまづきを丁寧に分類する。今井むつみ、他『算数文章題が解けない子どもたち』

2022.07.19

文学系で印象的なのは、詩集『美しいからだよ』

今月の文学系読書は、児童書の物語をいくつか読むも高得点には至らず….というわけで、今月のNo.1だった本として詩集を取り上げよう。水沢なお『美しいからだよ』。2019年に中原中也賞を受賞した詩集である。一言で言うと、なんとも不思議で美しい本、でもそういう言葉で片付けてしまっていいのかどうかよくわからない本だった。詩なの?物語じゃないの?という気もするけど、物語ほどストーリーがはっきりしておらず、言葉でイメージを作っているあたり、やはり詩なのかな。映画、それも映像がきれいなアニメ映画の断片を見ているような詩。でも、自分はこの詩について語るだけの言葉がまだないなあ。巻末の田野倉さんや文月悠光さんといった詩人による解説を読んでふむふむ、へーと思ってるくらい。よくわからない。でも、ひっかかる、うっとりする詩集です。詩ってそんなものなのかもしれないな。この詩集の解説とか他にあったら読んでみたい。

文月悠光さんと言えば、実は今年度の上半期は「詩を書く」ことに挑戦しようと思って詩人の文月さんの詩のオンライン講座をとっている。書いてみるとわかるのが、自分が「好きな詩の型」からなかなか抜け出せないこと。他の受講生さんの詩には散文詩だったり長いものも多いのだけど、僕は比較的短めの行分けがこまめにされている詩が好き。こういう自分の殻、破ってみたいな。

伸びやかで味わい深いエッセイ集『言の葉の森』

もう一冊、『美しいからだよ』と双璧で今月のトップ扱いなのがチョン・スユン『言の葉の森 日本の恋の歌』。これ、ツイッターである出版社の編集者さんが褒めているのを見て読んだけど、とても良かった。本当にしみじみ美しいとはこういうこと。韓国で日本文学を翻訳されている著者チョン・スユンさんが、百人一首をはじめとする日本の和歌に寄せて書いたエッセイ。もとは韓国語で書かれていて、それがさらに吉川凪さんによって日本語に翻訳された少し込み入った成立の本である。でも、「これ翻訳なの?日本語母語話者が書いたんじゃなくて?」と思うくらい、翻訳であることを感じさせない。どれも短いエッセイなのだけど、引用される和歌と自在に絡んで、自由に呼吸するような文章。伸びやかで美しい。こんな文章、書けるようになったらいいなあ。

70年前の魑魅魍魎の世界!「定本・黒部の山賊」

今月の「山読書」からの1冊は伊藤正一『定本・黒部の山賊 アルプスの怪』。これは山好きじゃなくても面白い本だ。北アルプスの黒部峡谷で三俣蓮華小屋(現・三俣山荘)の先代オーナーをされていた伊藤正一さんの自伝的エッセイで、深田久弥『日本百名山』などと並んで山岳エッセイの古典扱いされている本だと思う。舞台は戦後のまもない頃から黒部ダムができるあたりまでの黒部峡谷。当時、実際にいた山賊を雇って山小屋を作るエピソードから、当時の黒部に実際にいると思われていた化け物や人をよぶ声、そして佐々成政の埋蔵金まで。まだ山が観光資源化する前の、魑魅魍魎の世界がここにある。

まあ、素人の僕など当時の黒部に行ったら一瞬で死んでるタイプなので時代の変化がありがたくもあるのだけど、当時の黒部には(人間の思いこみではなく)本当に化け物が生きていたのだろうなと思わされる、とても面白い本だった。なお、現在では、伊藤正一さんの長男・伊藤圭さんが、三俣山荘水晶小屋を、そして次男の伊藤二郎さんが雲の平山荘を営まれている。どちらも非常に「読ませる」ウェブサイトで、父・正一さんが切り開いた「伊藤新道」を復興するプロジェクトをはじめ、読むだけで北アルプスの山小屋の歴史に詳しくなれる。特に雲の平山荘はいつか行ってみたいな〜。

….というわけで、振り返ってみればそれなりに楽しい読書ライフが送れた気がする7月。やっぱり時間のゆとりは大事ですね。今年の8月は、実はけっこう原稿仕事が溜まっているので、できるだけ学校の仕事はしないで、本を読んで、文章を書いて…で過ごすつもり。7月は物語で良い出会いがなかったので、物語の出会いに期待したい。このブログを読んでくださる皆さんも、8月は色々な本を読まれるんですかね。お互いに良き読書ライフを!

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