[読書]学校教育でも役立つ指針の宝庫!安斎勇樹『問いかけの作法』

安斎勇樹『問いかけの作法』を読んだ。前著の『問いのデザイン』がベストセラーとなった著者の本だけど、僕が手にとったきっかけは、下記エントリにあるようにポッドキャストを聞いたから。基本的には会社のチームマネジメントの本なのだけど、学校にも通じる話が多く、子どもとの関わりについてヒントをもらえる本でした! 今回はあくまで「教員」目線で面白かったところをメモします。

[紹介]ぎっくり腰で寝ながら聞いてたポッドキャストfukabori.fm「問いかけの作法 w/YukiAnzai」が面白かった話。

2022.01.18

「現代病」を抱えている学校教育

本書の冒頭で、筆者は、トップが課題を定義して現場がその解決策を磨いていく組織を「ファクトリー型組織」として、その限界を指摘する。ここで現場教員として面白いのは、筆者が批判的なファクトリー型組織の事例に、学校教育が登場することだ。筆者はファクトリー型組織の持つ「現代病」を以下の4点に整理する。

  1. 判断の自動化による、認識の固定化
  2. 部分的な分業による、関係性の固定化
  3. 逸脱の抑止による、衝動の枯渇
  4. 手段への没頭による、目的の形骸化

このうち3番めの「逸脱の抑止」事例として、学校教育が登場するのだ。なるほど、たしかに学校では校則その他の同調圧力によって、学校の定める規範から生徒が逸脱することを許さない。そして、実はこの3番めだけでなく、先生や校則が「正しさ」を決めて子どもが判断する場面を減らす「判断の自動化」(1つめ)、本来手段であるはずの入試がゴールとなって目の前の知識を暗記し続ける「手段への没頭」(4つめ)など、学校における教師-子ども関係が、まさにファクトリー型組織そのものである点に気付かされるのだ。

そして、筆者がこのファクトリー型とは別のあり方として提案するのが、現場のメンバーが自分で問題を発見し解決策を模索するワークショップ型組織であり、それを作る上で鍵としているのが「問いかけの作法」である。この「問いかけの作法」とは「チームメンバーの魅力と才能を引き出し、チームのポテンシャルを最大限に発揮するための技術」(p28)のこと。「人の魅力と才能を引き出す」とは、「育てる」ことと100%同じではないかもしれないが、学校教育でも通用する作法なのは違いない。

付言すると、筆者はファクトリー型をすべて否定してワークショップ型を全肯定しているわけではない。ファクトリー型とワークショップ型の比率がどの程度だと最適なのかは、業種によると言っている(p37)。さて、学校での教員-子ども関係は、どのくらいの比率が適切なのだろう? これは興味深い問いだが、すぐには答えが出せそうにない。

1対1のやりとりで役立つ指針の宝庫

こういう視点で「組織」を「教員-子ども関係」と読み替えると、この本には子どもとの1対1のやりとりや「作家の時間」「読書家の時間」のカンファランスで役立つ指針がたくさんある。詳しくは本書を読んでほしいのだが、たとえば第2章で呈示される「問いかけのメカニズムとルール」は、「問いかけ」を使って子どもとやり取りするときの重要なポイントが書かれている。特に、問いかけは相手の未知数を照らす「ライト」であり、どんなポテンシャルを引き出したくてどんなライトを照らすのかに自覚的でないといけないという主張(p90-92)や、下記の問いかけの基本定石は、子供とのやり取りでも非常に重要そうだ。

  1. 相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
  2. 適度に制約をかけ、考えるきっかけをつくる
  3. 遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けをほどこす
  4. 凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す

特に自分にとって大事なのは、①「相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する」ところ。1対1のやり取りにはどうしても「生徒指導」的要素が含まれるのだが、その時にはえてして「相手の出来ていない点」にフォーカスするコミュニケーションになりがちだ。この冬、実際に受け持ちの学年の子とのやり取りで、その子も本当は頑張りたい(でもできない)と思っているのに、その気持ちにライトを当てられず、できていない事実を指摘するコミュニケーションをしてしまったことがあった。その子との関係もぎくしゃくしてしまい、反省点。自分が何にライトを当てるのか、それは本当にその後を左右する。良い面にライトをあてるためには、「どんな人にもポテンシャルがある」「必ず眠っているこだわりがあるはずだ」という信念(p189)を持つことがだいじなんだろうな。

また、②や③の発想には、ここ最近の授業での考え事である「子どもを自由にする制約とはなにか」や「ついうっかり学んじゃう状態をどうつくるか」と近いものを感じる。本書では「適度な制約のある問いかけ」や「答えたくなる問いかけ」の事例がたくさんあるので、ぜひ手にとってほしい。僕も、こういうことを考えだしたばかりでまだまだ実践が不足している。この本の問いかけの例が参考になりそうだ。また、④「凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す」は、「とらわれ」からの解放を目指すものとして重要なのだけど、学校だとプロジェクトの議論が行き詰まった時とか、子どもの悩みに対応する時とか、使う場面はある程度限られるのかもしれないな、と思った。どうなんだろう。

プレーパークのような作文課題ってどんなもの?引き続き、子どもを自由にする制約について考える。

2022.01.06

ついうっかり読んじゃうには?『時をさまようタック』ブッククラブのふりかえり

2022.01.24

「見立て」の三角形モデル

もう一つ、本書で僕にとって大きかったのは、問いかけのプロセス「見立てる-組み立てる-投げかける」のうち「見立て」について書かれた章だ。問いかける前に、相手がどういう状態なのかを「見立てる」。教育や保育だと「見取り」と言われるこのフェーズが、非言語情報の察知力が弱い僕はとても苦手である。例えば、「作家の時間」のカンファランスも、生徒の今を「見立て」ることから始まるのだけど、それが得意ではないのだ。この見立ての達人は本当に羨ましいが、まだまだ苦手な僕としては、この本で「見立ての枠組み」として「場の目的ー見たい光景ー現在の様子」の三角形モデルを提唱しているのがとても参考になった。

  • 場の目的…このカンファランス(やミーティング)のゴール
  • 見たい光景…相手がどういう状態になっていることが望ましいか
  • 現在の様子…実際に目の前で展開されている光景

これ、何が良かったかというと、「三角形」なところ。通常の僕のカンファランスだと、「生徒の現状」「ゴール=指導目標」の2つを意識することが多かったのですよ。つまり「あ、この子はいまこういう現状だな。今回は指導目標=ゴールがこうだから、こう働きかけよう」のように。ただ、こうするとどうしても現状と目標のギャップを埋めることに意識が行きがち。関わりは単線的になり、遊びがなくなる。真面目な生徒はそういうカンファランスでもついてきてくれて力もつくのだが、国語が苦手な子は、この関わり方だとどうしても息苦しさが出てくるのは否めない。

そういう時に、「場の目的」(ゴール、指導目標)と「見たい光景」をいったん切り離して三角形にするのって、いいなって思った。特に、「見たい光景」という言い方は、「ふだんなかなか授業に向かえないあの子が、集中して書いている姿」などを具体的にイメージさせる。そうなると、「この姿が見られるには、どういうゴールをこの子には設定するといいかな」と、ゴール自体も柔軟に考えられる気がするのだ。「見たい光景」という項目、自分のカンファランスでもいつも意識するようにしたい

レトリックの整理の仕方が面白い

この「見立てる」あとに、問いかけを「組み立て」、そして相手に「投げかける」フェーズが来る。「組み立てる」章では様々な問いかけのつくりかたのバリエーションが示され、「投げかける」では、それを相手に届けるための方法が紹介される。この時に面白かったのが、問いかけを相手に効果的に届けるためのレトリックの分類。擬人法や対照法など、国語教師におなじみのレトリックが、「ライトを照らす」という比喩に沿って以下の3つのタイプに分類されているのだ。

  1. 光の量を足すタイプ…質問の前提や特定箇所の印象を強める技法。誇張法、列挙法、対照法。
  2. 光の色を変えるタイプ…質問の意味を拡げ、イメージをふくらませる技法。比喩法、擬人法、共感覚法、声喩法。
  3. 光を和らげるタイプ…質問の言葉のニュアンスをぼやかす技法。緩叙法、婉曲法

こういう分類の仕方、面白いな。何かの分類をもとにしたのか、それとも筆者のオリジナルか。撞着語法のようにリストにないレトリックもあるけど、質問という場面だと使うことがないのかもしれない。

なお、この「投げかける」フェーズでは、良くない投げかけの例として「不意打ちの問いかけ」が出てくる。私語をしたりぼーっとしたりしている生徒をわざと指名して「ほら、聞いてないじゃないか」というアレですね。これはもちろん、相手の無能さにライトをあてるダメな問いかけの例として出てきます。うん、ダメですね。しかし、ダメなのはわかるけど、こちらが伝えようと工夫してもずっと聞いてくれない子たちはどうすればいいのかねえ…と、この本を置いてしばし現実的な難しさに思いも馳せてしまった(笑)

子どもとのやり取りを考える参考になる本

国語の授業でのカンファランスをはじめ、1対1での子供とのやり取りの際に参考になることがたくさんある本だった。いまの自分の場合は、「どんな人にもポテンシャルがある」「必ず眠っているこだわりがあるはずだ」という信念を持つことが大事だ、という部分が一番響いたかな。良い面にライトをあてる関わりをしていきたいと思う。もちろん、1対1ではなく学級経営とか職場のコミュニケーションとか、そういう方面にも参考になるのは間違いないと思う(触れていないのは、僕の関心がそっち方面にないだけである)。教育関係者の皆さんも、ぜひ読んでみてください。

 

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