2021年度に頑張りたかったけどあまり手応えがなかったことの一つが「作家ノート」の活用だ。最終週の授業で子どもたちに作家ノートの利用状況についてアンケートをとったので、今日はそれをまとめておきたい。
目次
関心は「デジタルとアナログの使い分け」
下記エントリで書いたように、Chromebookを使う風越学園スタッフとしての僕の大きな関心事は「デジタルとアナログの使い分け」である。とりわけ、「思考の実験場としての作家ノート」を使う習慣を多くの子に持ってほしいと考えている。
これは僕だけではない。風越学園では同じ国語科の同僚のゆっこ(有山裕美子さん)が柴田博仁先生(下記の本の著者)の講座に出て、その内容をシェアしてくれたのだが、その内容を見ても、「触覚フィードバックのあるメディア」としての、デジタルメディアに対する紙メディアの優位性は揺るがない。「長文が書ける、推敲や複製が容易」というデジタルの優位性は利用しつつも、最初からデジタルメディアだけで文章を書くことは、多くの場合は良い執筆経験に結びつかないと考えている。ただ、この思いはなかなか子どもたちには伝わらないな、というのが実感だった。子どもたちはどう考えているのだろうか。
作家ノートの利用状況
まずは実際の利用状況を見てみる。利用頻度を①「毎回、作家のサイクルのどこかでは使った」、②「使ったり使わなかったりだった」、③「自分からは進んで使わなかった(使うよう求められた時だけ使った)」の3つにわけて聞いたところ、回答の36名中、「毎回使った」が13名(37%)、「使ったり使わなかったり」が15名(43%)、「使わない」が7名(20%)という結果だった。この数字の判断についてはここでは保留しておくが、わりとしつこく作家ノートの価値を語っても、使わない子が一定数いたということである。
作家ノートには何を書いたのか?
まず、毎回作家ノートを使っていた人や、時々使っていた人に、作家ノートに何を書いていたのかを聞いてみた。ほぼ同一の内容は省略して、一部の返答を掲げておく。
- 下書き、登場人物の設定などを書いている。
- 登場人物紹介、下書き、気になる書き出し、気になる書き終わり、書けそうなことリスト、使えそうな名前
- 簡単な物語のあらすじ
- 登場人物・話の流れ・書き出し(たまに下書き全部)・場面設定・案を箇条書きで書く
- 下書き、メモ、使いたい文章や題名、名前やアイディアや登場人物の性格など色々
- 主人公の性格を書いたりしています。でも、主にパソコンに書く前に、ストーリーを1回書くようにしています。
- ストーリーの内容をメモしたり、話のイメージを膨らませるように、こんな場面ではこうゆう感じにしたいなぁとか、出だしだけ作家ノートに書いたりしました!(出だし後の文章は、ドキュメントに流れをまた書いて、その場面に合う言葉や描写を考えて作っていきました。)
- 物語とかを書くときは、登場人物のプロフィールざっと書いている。あとは、全体の流れを少しだけ書いてパソコンで書くときに具体的に書いている。
- アイデアや物語のプロット、人物構成図
- キャラ設定とか、なんかアイディアとか、風景とか、なんか絵ばっか書いてます。(それで描写を書いてるよ)
- イメージのイラスト、細かな設定
- 絵や使いたい文章
こうして見ると、①登場人物の設定やストーリーの構成などのアイディア段階で使う人が多く、実際の執筆まで作家ノートを使う人は少数派だ。また、自分の作品以外にも、「気になる書き出し」などの参考情報を収集するのに使う子もいた。イラストを描けるのは、作家ノートの大きなメリットだろう。10番の子は、本当に作家ノートに絵ばかり描いていて、一見、ただのらくがき帳に見えるほど(笑)。でも、このイラストがこの子にとっての強力な創作ツールなのである。
作家ノートのメリットは?
続いて、作家ノートを使って良かったところを聞いた。まずは、毎回作家ノートを使い、この質問にとても詳しく書いてくれた子の回答を書く。
頭を整理できる。気になった書き出し・書き終わり・名前が見つかったとき、そのまんまだと忘れてしまうけれど、作家ノートにメモすることで、好きな時に使うことができる。Chromebookやパソコンだと、好きなところに好きなふうに絵を入れるのが難しいけれど、作家ノートだと、それができる。Chromebook・パソコンだと、一回書いたのを書き直した時に消すことになるけれど、作家ノートだと、縦線をひくなど、後で見返すことができるので、また変えたくなった時や、前のに戻したくなった時にありがたい。ネット環境がない時や、外出先でChromebookを持ち歩けない時、作家ノートはとっても便利!
メモをすることで頭を整理できたり、すぐに取り出せたりするのは紙のノートのメリットだ。Chromebookと比較して、好きなところに絵が入れられる、また、完全に削除するのではなく、取り消し線を引いて後で見返せるように消せる点を指摘しているのも、鋭い意見だと思う。以下に他の子たちの意見も掲げておこう。
- 話の矛盾点が無くなる。あれ?この子って〇〇じゃなかったっけ?ってなることが無くなる。
- 作家ノートには頭でポット浮かんだアイデアを記録できるところです。
- 案がまとまるようになった。パソコンだとどこにかけとか決まってるけど、作家ノートはぐちゃぐちゃに使えるから話の流れも考えやすい。
- 実際に書いてみると、思っていたより言葉のつながりが変だったり、一回読み直して少し表現が違う時に付け足しやすいこと。直した時に、今までどんな表現の言葉を書いていたのか見返せること。
- ・頭を整理できる
・私は忘れっぽい性格なので色々メモできる
・家用のだったらすぐに取り出せるからパソコンよりもすぐ使える(パソコンはロッカーの中のリュックの中からださないといけないから面倒くさい^^;)
・メモしといたらメモをみながら好きなときに下書きを書いたりできる
・作家ノートに書いた思いつきの登場人物の名前や性格を見ながら別の作家ノートに文章がかける- ・ドキュメントに書くより、気軽に自分が思いついたことをぱっとかけること。
・自分が今まで書いていたことをすぐに見返せることができること。- 行き詰まったときにアイデアを書き出して整理することができる。
- はじめからPCを使って書くよりは考えたことが頭に入ってかきやすくなったり、整理されているから書きやすい。目の前を決めていくことでスムーズに書けた。
- 最初にストーリーを作家ノートに書いておくとどういう感じで進めればいいとか考えれるし作家ノートを使ってよかった。
書く前に事前に準備して整理できることの良さ、手軽さ、閲覧性の高さ、「ぐちゃぐちゃに書ける」良さなどが指摘されている。
なぜ作家ノートを使わないの?
今度は逆に、使わない子に「なぜ使わないのか」を聞いてみた。以下が、「自分からは使わない」7名の子の回答である。
- 持ち運ぶのがめんどくさい、メリットがない
- パソコンで書きながら考えたほうが書きやすいから
- 頭で浮かんだ考えを新鮮な状態で書きたいから
- 作家ノートにいちいち書くのがめんどい・・・
- めんどくさいから
- 手書きよりもパソコンの方が書きやすいから。
- 文の構成が1分もしないうちにドンドンドンドン湧き出てくるから
やはり「面倒くさい」が理由として上位に来るのは予想どおり。風越学園では物の置き忘れなどがとても多く(普通の公立学校と比べて開放的な空間構成も影響している)、この「面倒くささ」にはなかなか勝てない…。他では、「頭で浮かんだ考えを新鮮な状態で書きたい」「文の構成が1分もしないうちにドンドンドンドン湧き出てくる」と、パソコンのスピード感の優位性を挙げた子もいた。この2人の子は、必ずしも「上手い」文章を書くわけではないが、たしかにどんどん書き進め、書くのを楽しんでいる子。楽しんで書いているのが伝わるので、読んでいるこちらまで楽しくなってしまうほどだ。彼らには、「ゆっくり考える」紙のノートの特性がかえってまどろっこしいのだろう。こういう子たちはおそらく文章の質の向上を本人たちが求めていないので、今はイケイケドンドンで好きなだけパソコンで書き進んでもらうほうが良いのかもしれない。
どう分けて使う?作家ノートとパソコン
これまでの結果からもわかるように、作家ノートを使う子たちとはいえ、「作家のサイクル」(ライティング・プロセス)のすべてで手書きノートを使う人は少数派だ。「パソコンと作家ノートをどのように組み合わせると良いと思いますか?」という問いに、作家ノートを必ず使う子たちはどう答えているだろうか。
これも、まずは詳しく書いてくれた子のものを先に掲載する。
ある程度先の構成を考えてやるといい。家造りみたいな感じで骨組みだけ作っておいてそこに壁を貼るみたいな感じでやりやすくなる。一番書きたいところは詳細まで書いておくといい。その他の詳しくかかないといけない「原稿を書く」とかは、PCの方が修正しやすいし、人によるけど効率がいい。まあここは人によると思う。作家ノートに全部やりたい!!みたいでそっちの方がいい作品ができるんだったら作家ノートに書いたらいいと思う。
この子の回答は、家造りの比喩が面白い。骨組みづくりに相当するのが作家ノートということだ。また、「一番書きたいところは詳細まで書く」のも面白い。これはどうしてだろう。今度つっこんで聞いてみよう。
それ以外の回答を列挙しておく。基本的には、設定やメモの場として作家ノートを使い、実際の執筆はパソコンで書く使い分けが多いが、中には4番や5番のように、下書きも作家ノートで一度書いてからパソコンに移る子もいる。
- 設定・下書きは作家ノート、本番はパソコンがいいと思う。
- 作家ノートにメモしてある、気になる書き出し・書き終わり・名前、書けそうなことリストを元にChromebookで書いてみる。作家ノートに下書きしたのをChromebookでうつしたり。作家ノートに書いてある、登場人物紹介なども活用。
- 1.話の流れ・書き出し・登場人物・人物設定・場面設定を作家ノートで書く。
2.書き出しから後はパソコン。
3.清書はパソコンと作家ノート。
4.完成!- まず作家ノートに下書きを書いちゃって、そこからもうちょっとこうしたほうが良いかな〜?と思うところを変えながらパソコンに書き写す
- 最初に作家ノートで大体の内容を書いてから、パソコンに移って物語を書き進めると良い!
- だいたいの作品を決めるのを作家ノートで、物語を書くときにPCを使えばいいと思う
- パソコンは書くときとか、修正するときとか?作家ノートは設定とか、下書きとか、大事な土台で。
- 下書きを作家ノート。本書きをPCに使い分ければいいと思う
- 作家ノートを見てそのとおりにではないけど、頭の中に物語を思い浮かべてパソコンに書く。
書くことが見つからない時に…
アンケートでは、「「書くことがみつからない…」と悩んでいる人に、「作家ノートをこのように使ってみては?」というアドバイスをお願いします」という項目も入れた。このアイディア出しは、手書きのノートの強みとなる場だ。書く時の一番難しい段階なので、「私も教えてほしいです、、、。ww」という率直な回答もあったけど(笑)、それぞれのアイディアが集まった。
- 本などを読んでアイデアが浮かんだときに作家ノートにメモするといいと思います
- 自分が読んだ本で、気になった書き出し・書き終わり・名前などをメモしてみる!
思い立った時にすぐ、『こんなこと書けそう!』をすぐメモする。
私は、絵を描いたりすることで、広がる物語もある。- 書くことが見つからないんだったら作家ノートを使うより生活の中で探したほうがいい気がする。
- ・こういうの良いな〜と思ったり、日常生活の中で物語作りに使えそうなことを見つけたりしたら作家ノートにメモする
・別のノートに日記を書いて、その日記の中から作家に使えそうなこととかを作家ノートに書き出して下書きに活用してみる- ・小さめの作家ノートを、いつも自分で持っているようにし、何かぱっと思いつくことがあったらすぐにかけるようにする。題材集めをするときにしやすくなる。
・本を読むときに、自分の近くに作家ノートを置いておき、良いなと思った表現方法や、良いなと思った物語の設定を書き留めておく。- アイデアを一回全部書き出してみてそこから選んだら進めやすいんじゃないかなぁと
思う。あとは、自由に作家ノートを使う。- 自分の特技(私だったら絵)とかを使って、作家ノートにアイディアとかをかくといいと思います。
- 自分が好きなように!例えば、イラストを書くのが好きだったら、大まかな動きをイラストにして、そこから書いてみる!
- 作家ノートを「いつ、どこで、何を」を何個か書いて、選んだらいいのでは。
- 自分が書きたい題材を決めてそこから関連することを絞ってみる。例えば物語を書きたいんだったら、自分が書きたい作品の主人公は男の子かなぁやそこから関連する年代、家族などをメモしてみると物語が作れると思います。
- 最初に考え、キーワードを出し、気になるワードから書く内容を探して内容が決まってから書く
- 作家に時間をすべて使ってもいい!みたいな人は、日常のどこかから持ってくるのがいいと思う。作家ノートにメモしたりする。
そこまでじゃないって人は北欧神話とかのストーリ、自分が読んでいた本とかからストーリーを持ってきて、底に変化を入れて書いてみたりすると思いついたりする。
あと何も考えないと思い浮かんでくることがあるからメモしたらいいと思う。すぐ忘れてしまったりする。- 書きたい題材が思いつかないときは自分の好きなことをまとめて、2〜3個くらいをミックスさせるととても簡単に作ることができる。
- 3回ぐらいに分ける。(おおざっぱ→少し詳しく→さらに詳しく)みたいな感じ。
ここでは、イラストを使う、好きなことをミックスさせる、「いつ、どこで、何を」を書くなど、ノートを使ってアイディアを育てる方法を書いてくれている子もいる。でも、ゼロからアイディアを考える段階の話しでは、日常生活や日頃の読書の中でのネタ集めが大事と言っている人が多い。ちょうどいま読んでいるラルフ・フレッチャーのA Writer’s Notebookも、日常の中でのネタ集めのツールとしての作家ノートの役割を強調している。
アンケート、もっと早くとればよかった!
とまあ、読んでいてなかなか面白いアンケート結果でした。それにしても、このアンケート、年度末にとるんじゃなかった! これが個人的な大後悔。年度途中にとって共有すれば、作家ノートを活用できない人やアイディアが出なくて困っている人に、とても良いヒントになったのに…。なんて大馬鹿なじぶん。次年度はこの失敗を繰り返さないようにしよう。
なにかいいネーミングはないの?
余談だが、この「作家ノート」という名称、実は好きではない。writing workshopまたはwriter’s workshopの訳語としての「作家の時間」にも言えることだが、「作家」という言葉は「職業としての物語の書き手」のニュアンスが強すぎて、英語のwriterとはだいぶ違うからだ。そして「作家ノート」という響きは、「さあ、小説を書くぞ」と気張って椅子に座って使うもの、というイメージを持ってしまう。本当は、もっと気軽に雑に使ってほしいのだ。かといって「書き手ノート」も変だし、「執筆ノート」とか単に「ノート」や「メモ帳」のほうが良いかも。この辺、よいアイディアがあったら教えてください〜。