リーディング・ワークショップ「試運転」の振り返り

11月は中学生は小説に、高校生は新書・単行本の評論系の文章にジャンルを絞ってのリーディング・ワークショップ(以下、RW)の、個別自由読書だった。僕は以前に一学期間だけRWをやったのみなので、経験が浅い。これからのブラッシュアップが必須なので、期末試験やレポートの評価で忙しい時期だけど、忘れないうちに自分の手応えを書いておきたい。なお、生徒アンケートは別に取るので、生徒の反応については後日また改めて。

そろり運転中、リーディング・ワークショップ

2016.11.10

目次

「本を選ぶ」「読む時間を確保する」ことの意味は大きい

まずはプラス面から。やってみていいなと思うのは、何と言っても「生徒が自分で本を選んで読む時間を確保できる」ことだ。小学校なら図書(読書)の時間、中高でも学校によって朝読の時間があるけど、本校にはいずれもない。そして、勉強に行事に部活にと忙しい本校生徒は、学年が上がるにつれて読書が後回しになっていく。これは彼らが不真面目ということでなく、優秀で真面目な生徒も、空き時間があれば英単語をやったり英語の長文を読んだりしているのだ。

本当は僕がイギリスの大学院で勉強した体験を活かして「日本語も英語も読み書きの根っこの部分は同じなのだし、何より母語でしか考えることはできないのだから、母語をもっと読もう」と自信を持って語れれば良いのだけど、残念ながら力及ばずの現状です…。

そんな状況の中で、「実際に本を読む時間を強制的に確保する」ことの意味は思ったよりも大きいなと思った。本当はそれだけだと「朝読と何が違うんだ」となるんだけど、最悪、朝読と同じでも読む時間が確保されるだけマシなんじゃないか、という気もする。

図書館という空間の持つ意味

この授業は当然図書館でやったのだけど、図書館という本に囲まれた空間でこの授業ができたことは、とても良かった。うちの図書館はとても小さいので限界も色々あるが、机や椅子もあれば、隠れられるようなスペースもあれば、寝転べる畳コーナーもあるので、生徒は思い思いの場所で、リラックスして読んでいた。まあたまに寝ちゃう子も出るけど、概ね集中して読んでいたのは、やはり図書館という場の力だ。図書館の自習利用には様々な壁があるし、配慮しなければ行けないことも多いのだけど(下記エントリ参照)、今後もこの授業をするなら図書館以外の空間は考えられない。

根強い「学校図書館=自習室」という慣習

2016.11.26

このスタイルでこそ教えられる読書の技術

今回のRWのうち、特に高校の授業では、下記エントリで紹介した本や、エクセター大学で僕が読んだいくつかの論文を使って、「読書の技術」を強調した。読むという行為の認知心理学的な説明を入れながら「予測する」「関連づける」「難解さを分類する」などについて話ができたのは、これまでの授業ではなかったので、良い機会だったと思う。

リーディング・ワークショップにとりくむためのブックリスト

2016.11.14

ただし、他の方に授業を見てもらってわかったことだけど、教えた技術をすぐに使わせようと焦るのは禁物。継続して取り組んでいけば、いつか使う場面も出てくるだろう。そんなゆったりした心構えが大事なのだろう。

もっと長い目で。リーデイング・ワークショップを見てもらってわかったこと。

2016.11.12

点検読書

教えた技術の中で生徒の反応が良かったのは、「本を読む本」にあった「点検読書」の練習だった気がする。その本をめくってみて、読むべきかどうかを決めるための読書。これは実際、レポートを書くことの多い彼らにとって便利なやり方だろうし、大学に行けば尚更必要だと思う。

「読むのをやめる」

また、生徒と大福帳をやりとりする中で、「読むのをやめる決断をする」ことの大切さにも改めて思いいたった。これは、アトウェルの本にもRWの重要事項として書いてあったのに、僕がうっかりおろそかにしていたことだ。

[ITM]「捨てる」「やめる」ことを教える

2015.01.18

大切なのは、冊数を指定しないこと

そして、生徒が躊躇なく「読むのをやめる」決断ができるようにするには、冊数指定をしてはいけない、ということにも気づいた。僕は「3冊以上読もう」と指定していたのだけど、これは愚かだったと思う。

「読んでいる本がだんだん中身の薄い本だと気づいた」「3冊読まないと行けないのだけど、読んでいるうちにそこに乗っている言葉を調べたくなり、別の本に行ってしまうので、なかなか3冊とも終わらない」という大福帳のコメントを見て、冊数指定をした愚かさに、ようやく気づいた。いやあ、大福帳大事。これはもう次にはこんな轍は踏まない、と思う。

冊数を指定したり、ブックレポートを書かせたりするのは、結局何か「形」にならないと評価できない/安心できない教師側の都合なのだ、ということを、もう一度自分に言い聞かせる必要がある。面白い本に出会い、意味のある経験ができれば、生徒は自分で本を読む。本の価値と、生徒の知的好奇心を、どっちも信じること。

これから考えていくべき課題は?

大きな欠陥は…カンファランス

読む時間を確保して、読書の技術を教える。この点だけでもRWには挑戦する価値があると思うけど、僕のRWには大きな課題もある。本当であれば、RWの真髄は「カンファランスを通じた個に沿った読書指導」なのだ。例えば、個別のカンファランスを通じて生徒の好みや語彙のレベルを個別に把握して、適切なタイミングで、その子が好きそうな良い本を紹介する。その生徒が自分で読書生活をつくっていく上でのガイド役。それがRWの教師の役割である。

でも、僕の授業ではそんなことが全くできていない。ライティング・ワークショップ(WW)なら目の前に生徒の作品があるので声もかけやすいのだけど、ただひたすら読んでいる生徒には声をかけにくいというのもある。40人という人数で物理的に無理、というのも当然ある。

今回、僕は本棚で選書している生徒への声かけと、大福帳でのコメントを除いて、ほとんど指導らしい指導はできなかった。生徒が読む時間はほとんど「自分も本を読む」時間になってしまった。何しろ40人も生徒がいるし、見学に来てくださった方も「それでいいのでは」と言ってくれたけど、本来のRWがもつ可能性を思うと、「仕事をしていない」感に囚われてしまう。まあ、僕の感じ方はどうあれ、どのみち、カンファランスを40人やるのは無理なので、何か考えないといけない。

どう組み込んでいく? 協同的な活動

今回は、生徒の活動を意図的に個別自由読書に絞った。まずは、自分で本を選び、自分で読む時間をしっかりと用意したかったからだ。僕はRWの基本はまずは個別読書だと思っているのだけど、今後もこの授業形式を続けるようなら、毎回のペアでの報告、ペア読書、読書会のような協同的活動も入れていこうと思う。どうやっていくかも、今後の課題。

次のRWの授業までにするべきこと

次に向けて僕がしなくてはいけないことは何だろう。

アトウェルのRWについて学び直す

やはり僕はまずアトウェルに学ぼうと思う。これは別に大村はまでも、他の誰でも良いと思うのだけど、個人的な思い入れ込みで僕にとっての師を一人あげるなら、やはりアトウェル。彼女を鏡にして、自分ができること、できないことを考えたい。In the Middleをもう一度読み直し、Reading Zoneの第二版も届いたら読もうと思う。

日本の読書教育史について知る

僕は日本の読書教育史について知らなさすぎるので、それについて学びたい。読書教育史の本は、何が良いのだろう。山元隆春さんの『読書教育を学ぶ人のために』は、歴史方面はさらっと書いてあるだけなので、本格的に読むなら増田信一『読書教育実践史研究』あたりなのかなあ。どなたか良い本をご存知の方がいたら教えてください。

どうする? カンファランスができない埋め合わせ

個別のカンファランスができない埋め合わせを、どうすればいいのだろう? これは僕のRWにとって大切なテーマだ。目的は、生徒が、自分にあった本を自分の判断で選べるようにしていくこと。毎回の授業の最初や最後にペアで報告をしあうとか、Amazonのレビューや書評系ブログのコメントも参考にしながら本を選ぶ方法を練習するとか、どういう方法が良いのか、色々と試してみたい。

自分の実感を大切に、続けていきたいRW

僕は常々、「日本の国語教育は、全員で一つの教材を精読する時間が長すぎる」と思っている。その根底にはおそらく、国語の授業を通じて国語の力が身についた実感がまるでないこと、子供の頃のプライベートな大量の読み書きで読み書きの力を身についたように感じていることがあるのだと思う。

原点としての小学生時代を振り返る

2015.05.29

もちろん「自分にとって役立たなかったから意味がない」なんて、サンプル1で暴論を吐くつもりは毛頭ない。「役に立った実感がないだけで役に立っていた」のかもしれないし、そもそも「役立つとは何を意味するのか」という議論にもなるからだ。だから、役立ったかどうかは、置いておこう。

でも、僕の授業はやはり僕の個人史や僕の実感とは切り離せない。大量の読み書きが国語の力をつける。そういう思いが僕の根本にあり、だからこそ作文教育と読書教育に関心を持ち、ライティング・ワークショップとリーディング・ワークショップに興味がある。リーディング・ワークショップ、今後も通常の国語の授業と一緒に、続けていこうと思う。

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2 件のコメント

  • 自分のことを振り返ってみました。僕はインディペンデント・リーディングの時に、子どもたちの間を歩きながら読んでいる本を記録して、必要だと思ったら話しかけるようにしています。
    あすこまさんのよりも、
    僕のほうが子どもたちの人数が少ない状況が多かったですが(30人前後)、それでも全員と話すことは無理だと今のところ諦めてます。僕は名簿を大量に印刷したものをファイルに閉じてもっていて、少なくとも日付と読んでいる本(できればページ数)をインディペンデントリーディングの時に記録するようにしています(あと気付いたことも書くことがあります)。インディペンデント・リーディングの時間は、これだけはやって、プラスαできることをやるという感じです(必要だと思ったら話しかけます。例えばその子にとってチャレンジングな本を読んでいる時は、ざっくりで読んでみてどう?とか、難しくないですか?など話しかけるようにしています。あとは僕が新しい本などの情報収集したい時にも迷惑だと思うのですが、話しかけて本の感想を聞くことがあります。)。いつ誰がどのような本を読んでいたのかという記録を追っていくと気付くことがあって、この子はゾロリシリーズばかり読み続けているので、違うシリーズを読むこともどうかと促してみるとか、読む本のレベルが上がってきているから、次はあの本を紹介しようとか個に応じた支援をしています。

    • てるさん、ありがとうございます!良いガイド役になられてますね。自分もどうするか考えます。