ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップはもともとアメリカ発祥の授業法なので、国内だと普通の学校よりもインターナショナル・スクールで実施されていることも多い。今回は縁あって、あるインターナショナル・スクールの「リテラシー・ワークショップ」の授業を見学させていただいた。この学校は、コロンビア大学ティーチャーズ・カレッジのワークショップ・プログラムをモデルにリテラシー(国語)の授業を作っているとのこと。リーディングとライティングのワークショップをあわせて「リテラシー・ワークショップ」と呼ばれている。
僕が見学したのは、Grade 6(日本の小6相当)のリテラシー・ワークショップの時間。時間は朝の8時30分から10時10分まで。1コマ50分の2コマ連続だ。授業の構成は次の通り。
- 8時30分〜8時35分(5分間):オープニング(今日の授業の説明など)
- 8時35分〜9時15分(40分間):リーディング・ワークショップ(個別自由読書+2分のジャーナル記入)
- 9時15分:デイリー・イベント(Classroomcraftというゲーム?)
- 9時15分〜9時25分(10分間):ライティングのミニ・レッスン
- 9時25分〜10時(35分間):ライティング・ワークショップ(個別に書く時間)
- 10時〜10時10分(10分間):共有の時間と次回の目標設定
気分転換っぽい「デイリー・イベント」をのぞけば(←これよくわからなかった…)、最初に個別自由読書をしてからミニ・レッスン、書く時間、共有の時間へと移る、いたってオーソドックスな構成だと思う。以下、この流れにそって気づいたことを書いていこう。
目次
詳しいゴール設定
訪問した4月は日本で言う三学期の前半にあたる時期。そのせいか、個別自由読書の時間中、先生はカンファランスにまわって、数名の生徒と今学期の目標設定について話し合っていた。生徒はみんなMacbook AirでG Suiteを使っており、そのドキュメントには、
- 今学期の目標は何か?
- なぜその目標にしたのか?
- その目標があなたにとってどのようにチャレンジなのか?
- その目標を達成したことをどのように判断するのか?
- その目標を達成するための小目標は何か?
- 先学期のリフレクションを読み返して何を考えるか?
などの質問への答えがびっしりと書いてある。それを見ながら先生が、一人あたりたっぷり5分以上かけてコメントしていくのだ。その間にも他の生徒は個別に本を読んでいる。椅子で読んだり、ソファで読んだり、寝転がって読んだり…。そのへんはアトウェルの学校とおんなじだ。
生徒のレベルの目安を知る仕組み
目標設定のカンファランスを終えると、先生は一人の生徒をつかまえて短いテキストをわたしていた。何をするのかなと思ったら、なんと音読。これまで見学したリーディング・ワークショップではなかった光景だ。先生は音読する生徒の横で同じテキストのコピーを持ちながら、時々その紙に何か書き込んでいる。聞き終えると、先生は、いくつかその生徒に文章の内容についての質問をして、また何かを書き留めていた。
実はこれ、Heinemann社の教材にあるBenchmark Assessment System(BAS)という仕組み。A〜Zまでレベル別に分けた文章がセットになっていて、先生は学期のはじめ・中・終わりにそれを生徒に読ませて質問をして、生徒の読みの流暢さや理解度を測定しているとのことだ。なるほど、リーディング・ワークショップで個別に本を読ませつつも、このBASが生徒の到達度の共通の評価基準になってるってことかな。リーディング・ワークショップというと「ただ読むだけでいいの?」みたいな不安の声も周囲から出てきそうだけど、こういうものを使うと教師も各生徒のレベルを把握できるし、保護者への説明もしやすそうだ。
Benchmark Assessment System
http://www.heinemann.com/collection/bas
約40分のリーディング・ワークショップを終えると、生徒は3分くらいでジャーナルに今日の読書について振り返りを書いている。絵の子も、マインドマップの子も、グラフのようなものを書いている子もいて、かなり自由に自分の読書を振り返っていたのが印象的だった。
ミニ・レッスンは「推敲の技術」
Classroomcraftというゲームっぽい画面が提示されたあとは(生徒がゲーム内のキャラクターになっていて、そのキャラの属性別に何か課題が与えられるというゲームのようだ)、生徒がジャーナルを持って教室の前方に座り、ミニ・レッスン。先生の周囲を生徒が座って囲む、ライティング・ワークショップのはじまりの時間ではおなじみの光景だ。
生徒はこの学期はCompare and Contrast Essayを書いていて、この日のミニ・レッスンはその「推敲の技術」だった。10分程度のミニ・レッスンだけど、知っている推敲の技術をペアで交換しあうなど、インタラクティブな時間にもなっている。このクラスではライティング・パートナーが決まっていて、そのパートナーと話をするようだ。
ライティング・ワークショップではG Suiteを活用
ミニ・レッスンが終わると各自で「書く時間」。みんな、Macで静かに書いている。イヤホンで音楽を聞きながら書いている子もいる。本を読んでいる子もいて、個別に思い思いにすごしている。先生によると、一学期はもっとグループでやる活動があったのだけど、一年の終わりに近づくに連れて個別の時間を増やすようなデザインとのこと。なるほど、考えられてるな…。先生は個別の生徒のところをまわったり、全体に「もっとEssayにふさわしいHigh Levelな単語を使って」と指示したりしていた。
ここで活用されているのがG Suiteだ。生徒は自分のドキュメントを必ず先生と共有していて、先生はそれをいつでも見られる。どんなふうに使うのかなと思ったら、放課後に生徒たちのドキュメントをチェックして、同じ課題を抱えている生徒を発見したら、彼らをまとめてレクチャーするらしい。小グループでのGuided writingというやつだろう。
なるほど、ファイルを共有するとそういうことができるのか。これは納得だった。僕の場合は大福帳を使って課題のある生徒を見つけようとしていたけど、大福帳だとあくまで自己申告だから、課題があるのに発見できない生徒がいる。その点でファイルを共有するほうが良さそうだ。40人学級だとチェックが大変そうだけど、個別のカンファランスが無理な40人学級でこそ、こういう形でグループを作って指導することが効果的に機能するだろう。
同じジャンルを二度学ぶカリキュラム
またライティングでは、Grade 6で学んだエッセイの書き方をGrade 8でも深めて学ぶとのこと。同じジャンルを二度繰り返すのもアトウェルの学校と同じ。アトウェルの学校と違うのは、評価にルーブリックを活用しているところ。ルーシー・カルキンズらの次の本がとても良いとすすめてくれた。僕もルーブリックについては学ばないとと思っていたので、高いけど買ってしまいました!
最後は共有と目標設定の時間
ライティング・ワークショップによくあるように、最後は共有の時間である。このクラスでは「作家の椅子」は使わずに、ライティング・パートナーと共有するやり方のようだ。ここでも共有はドキュメントを共有設定するだけなので楽ちん。原則は、パートナーが、まず書き手のニーズを聞いてからそれに答えること(下記エントリにも書いたけど、これは理にかなっている)。口頭でフィードバックしても、コメントとして相手のドキュメントに書き込んでも良いようだ(書き手側が選べる)。
そして、それが終わると「次の授業で最も優先してやること」を書いて終わりとなる。100分のワークショップがあっという間だった。
アトウェルの学校との共通点
100分間、とても勉強になる滞在だった。もう一つ嬉しかったのが、この授業の先生が「コロンビア大学のプログラムも良いんだけど、私の個人的ベストはナンシー・アトウェルだ」とおっしゃっていたこと。おお、こんなところにアトウェルのファンが!この先生はアトウェルのIn the MiddleとLessons that Change Writersをいつも参考にしているらしい。
そのせいというわけでもないだろうけど、そういえばこの学校のリテラシー・ワークショップは、アトウェルの学校のリーディング&ライティング・ワークショップと、いろいろな共通点がある。もしかするとこのあたりが「ワークショップ形式で授業をする上でのスタンダード」なのかもしれない。
- 1クラスあたりの生徒数は10数名。
- 教科教室制(ワークショップの部屋があって、生徒が教室を移動する)
- 90分以上のゆったりした時間を使って、読みと書きを同時に行っている。
- 校内がカラフルで、いたるところに生徒の作品(絵や作文やその他の美術作品)が飾られている。
- 小学校低学年のうちからパソコンを使って創作をしている。
- 同じジャンルについて、年度をこえて二度学ぶ
この日の最後、思わぬ場所でアトウェルの名前を聞いた僕は、嬉しくなって「実はアトウェルの学校に見学に行って本人とお話したんですよ」とつい自慢。するとあちらは「それはうらやましい!私も行きたいのに」と笑っていた。でも、僕は見たことを十分に活かせてないなあ…と思う。アトウェルの学校にせよ、この日の学校にせよ、貴重な経験をさせてもらっているのに、それを十分に活かせている実感がないぞ!。このままだといけないようなあと思う。色々と制限はあるにせよ、もう少し頑張りたいな。