下のエントリで書いた高3生徒に薦めてもらった本。「新しい台湾の文学」という翻訳文学のシリーズで、こういうものを読んで教えてくれる生徒がいることに素直に感謝する。お薦めされなければ出会えなかった本だろう。
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全体として、「物語を組み立てようとしてうまく組み立てられない人たちの話」だった。青春時代の友人に会おうとする人、自分の過去を回想しようとする人、自分の人生の終わりを組み立てようとする人、小説を書いている小説家…。みな、「自分の人生の物語」をどうにか構築しようとして、悪戦苦闘する、そんな人達の話。
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とりわけ、表題作「古都」は難解なテクストだ。いくつもの引用と、京都と、植民地時代の台湾の地名とが重なりあって、いま語り手がどこにいるのかさえ、初読では見失ってしまう。 この小説が好きという高3生徒の手助けを借りることで、ようやく魅力的に見えてきた。なるほど、「この小説だけ、語り手は物語を語ろうとしているのではなく、断片的な記憶から物語を読もうとしている」という彼の指摘、もっともかも。
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僕が好きなのは、自分の理想の死を演出しようと苦闘する語り手をユーモラスに描いた「ラ・マンチャの騎士」や、匂いが過去を思い出すトリガーとなる「ハンガリー水」 。どれも「古都」よりは格段にわかりやすい。特に「ラ・マンチャの騎士」は、「わたしという物語」を美しく閉じたいという誰もが持つ欲望を笑ってつきはなしている印象が心地よい。
なかなかおもしろい作家。生徒のお薦めに従って、次は「台北ストーリー」にも手を伸ばしてみよう。